第197回社保審・介護給付費分科会が12月18日に開かれ、2021年度介護報酬改定に関する審議報告案が示されました。全22回に渡って実施されてきた報酬改定の議論ですが、年内の議論は本分科会にて終了。提示された審議報告案をもとに最終調整し、12月中に厚労省のホームページにて公表され、年明けから諮問・答申となるスケジュールです。本記事では審議報告案の概要について、専門家からの総論的な意見も踏まえながら整理します。
2021年度改定は、新型コロナウイルス感染症の拡大や、大規模な災害の発生を受けた「感染症や災害への対応力強化」を筆頭に、“5つの柱”を基本軸として議論されてきました。
“withコロナ”時代に大きな課題となる深刻な人材不足や、団塊の世代のすべてが75歳以上となる2025年以降に向けた見通しを踏まえ、全体的な方向性としては、全サービスに関わる運営基準の変更や、加算取得・人員配置基準の要件緩和の動きが目立つ傾向にあります。
第1の柱は「感染症や災害への対応力強化」であり、感染症や災害が発生した場合であっても、利用者に必要なサービスが安定的・継続的に提供される体制を構築することが重視されています。新型コロナウイルスの影響はもとより、過去分科会ではここ数年の大規模災害事例も示され、不測の事態であっても安定した介護サービスを提供できる仕組み作りの推進が焦点となりました。
こうした背景を踏まえ、本分科会にて提示された審議報告案には、以下の取り組みに関する事項が盛り込まれています。
・全サービスを対象とした各種対策の運営基準上での義務化
・通所介護等の事業所規模別の報酬に関する対応 等
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第2の柱は「地域包括ケアシステムの推進」であり、住み慣れた地域において、利用者の尊厳を保持しつつ、必要なサービスが切れ目なく提供されるよう取組を推進することを重視しています。
このため、各種加算の要件見直しや新加算の創設が検討されたほか、介護に関わるすべての職員の認知症対応力を向上させていくことを目的とした、介護に直接携わる職員のうち、医療・福祉関係の資格を有さない者への認知症介護基礎研修受講の義務化などが明示されました。
また、在宅の限界点を高める観点を踏まえ、訪問系サービスや多機能系サービスに関する要件・評価の見直し等も盛り込まれています。
第3の柱は「自立支援・重度化防止の取組の推進」であり、制度の目的に沿って、質の評価やデータ活用を行いながら、科学的に効果が裏付けられた質の高いサービスの提供を推進することを重視しています。これを受け、機能訓練、口腔、栄養の一体的な取り組みを強化することや、VISIT・CHASEやICT機器等を活用した科学的介護の取り組みを推進する方向性が示されました。
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第4の柱は「介護人材の確保・介護現場の革新」であり、喫緊・重要な課題でもある介護人材の確保・介護現場の革新に対応することを基本としています。審議報告案には、介護職員の処遇や職場環境の改善に関する取り組みや、介護現場の業務負担を軽減する対応案が盛り込まれています。その中でも「テクノロジーの活用と人員基準・運営基準の緩和」に関する項目では、多くの委員から様々な意見があがりました。
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日本経済団体連合会の井上隆氏は、テクノロジーの活用に賛成の立場を示したうえで、「新しいテクノロジーを入れるとなると、職場の状況がガラッと変わることはどんな企業にもある。それを恐れるあまりに革新をしないと、結果的にイノベーションを阻害することになる」とし、今後の介護現場の可能性を広げる取り組みの重要性を述べました。
一方で、NPO法人高齢社会をよくする女性の会の石田路子氏は「実際にケアの質や職員の負担軽減にどのような影響があったのかを検証していく、と述べられている以上、責任を持って検証し、現場の声を吸い上げて見届けていく責任がある」と提言しました。
また、全国老人保健施設協会の東憲太郎氏は、賛成の立場から「現場に有効なテクノロジーはインカムくらいしかない。産業界において現場に有用なICTの開発をお願いしたい」と、今後へのさらなる期待と可能性に触れました。
第5の柱は「制度の安定性・持続可能性の確保」であり、必要なサービスは確保しつつ適正化・重点化を図るための取り組みについて明記されました。具体的には、訪問看護におけるリハビリ専門職によるサービス提供回数等の見直しや、訪問介護による生活援助の訪問回数が多いケアプランについて、ケアマネ事業所を対象とした点検・検証の仕組み導入などが盛り込まれています。
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また、5本の柱に該当しない「その他の事項」として、高齢者虐待防止に関する取り組みを運営基準上で義務化するなどの取り組みが記載されました。
審議報告案の全体を通じた意見として、全国老人クラブ連合会の正立斉氏は「基準の見直しに関するものが多かったように感じる。特に人員配置基準の緩和については、サービスの質や職員の業務負担を危惧する意見が多数出た。次期改定時にしっかりと議論ができるよう、今回の見直しによる影響を検証してほしい」と述べました。
このほか、複数の委員からも改定による実態調査や検証について、より丁寧かつ迅速に取り組むよう要望する声が多数聞かれました。分科会長を務める田中滋氏も効果検証の重要性に触れており、今後の十分な検証調査を期待したいところです。
今回の分科会にて年内の議論は終了。今後のスケジュールとしては、12月中に厚労省のホームページにて審議報告案の正式な取りまとめを公表し、年明けから諮問・答申へと進む予定です。
引用:第197回社保審・介護給付費分科会「令和3年度介護報酬改定に関する審議報告(案)の概要」より
理学療法士として回復期病院、リハ特化デイ施設長、訪問リハを経験後フリーライターとして独立。医療福祉、在宅起業、取材記事が得意。正確かつ丁寧な情報を発信します。