「自分の人生を生きるためのACP」~III.ACPが本人やご家族にもたらす価値とは~

2022.02.14
ホーム ニュース 専門家コラム 「自分の人生を生きるためのACP」~III.ACPが本人やご家族にもたらす価値とは~

*本連載の過去配信記事:II.訪問看護従事者・介護福祉関係者ができるACP支援~~I.訪問看護従事者・介護福祉関係者のACPに関する知識を見直そう~

ACPのプロセスに一歩踏み出す適切なタイミング

多くの人が、将来受けたい医療やケアについて考えるのは、加齢によって自分の体力・能力の低下に気付く頃や、病気になり自分のライフスタイルが変化するときなどでしょう。身近な人が事故で障害を持ったり病気に罹ったりすることがきっかけになるかも知れません。有名人の闘病等のニュースに触れ、「自分がそうなったら」と家族や友人に仮定の話をすることも多いと思います。

それでも、自分の人生の最終段階における生き方―死を意識する状況について、向きあえる人は多くないでしょう。そこで、ACPのプロセスを一歩進めるためのポイントは「適切なタイミング」です。

具体的には、加齢に伴って物忘れが多くなり始めた、体調が悪くても医療機関への受診になかなか行けなくなってきた、もともと罹っている病気の状態が変わってきた、新たな病気が発症する、転倒を繰り返す…などといった変化がみられ始めるころが「適切なタイミング」といえます。

訪問看護や介護福祉サービスの従事者はこのとき、「最近、生活に不便が出てきているようだけれど、そのような中でもどのように過ごしたいか」「今後、もう少し年齢が上がったときにどう暮らしていきたいか」「病気と付き合いながら、どう生きていきたいか」など、利用者に問いかけてみることが必要になります。暮らしの中で関わっている専門職に、利用者がポロリと本音をこぼすことは少なくありません。

例え末期がんにある状況であったとしても、暮らしは日々続いていきます。そこで交わす会話の中では「本当はさ・・・」と本音が出ます。そのタイミングでしっかりと当事者の「これからの人生」について、考えや思いを聞き取ることができれば、その後の「生き方」に反映させることができます。

では、利用者やその家族にとってのACPのメリットとは何でしょうか。

本人や家族にとってのACPの価値

逆説的ですが、ACPは本人やその家族がこれからどう生きて過ごしたいか、考えを導いてくれる面もあります。QOL(生活の質)を保ち、人生の満足感を高めることもできます。本人の満足感が高まれば、ご家族も同様に感じることができます。

またACPに取り組むことで、サービス利用者と家族とのコミュニケーションの機会が増えます。互いにそれぞれの考えを理解しあい、一緒の時間を共有することもできます。そして、医療やケアを受ける本人の価値観や人生観が家族との考えや認識にズレがあっても、「自分の生き方」を家族に伝える事によってそのズレを少なくすることが可能です。もしかしたら、お互いの思いを初めて知るきっかけになるかもしれません。また、どちらかが良かれと思ってしていることでも、実は相手は望んでいない場合もあります。

こうしたコミュニケーションを繰り返すことで、人生の最終段階で何を選択するのか、あるいはしないのか、主体的な意志を持つことに繋がっていくのです。またご本人が自分の意思決定を他者に伝える事ができなくなった場合でも、ご家族がその希望を理解し、代わりに伝えられるようになります。

ACPを書き留めておくメリット

ACPのメリットを最大限活用するためにお勧めしたいのがACPを書き留めておくことです。
ACPを書き留めておくメリットとしては、例えば以下のようなものが考えられます。

(1)自分が大切にしたいことを明確化できる
(2)自分の希望を尊重し、伝えてくれる人を事前に選ぶことができる
(3)自分の病気の状態や予測できる経過、それらに対して希望する治療検討できる
(4)自分の思いを家族や大切な人と共有できる
(5)自分の人生についてのストーリーを描くことができる

等があげられます。

例えば、病気が悪化し医師より病状説明をされたとします。事前にACPを考え、書き留めて共有している場合は、自分の希望を尊重し、伝えてくれる代弁者に立ち会ってもらうことができます。

もちろん、その時々の病状経過や環境の変化によって希望も変化してくるかもしれません。ですが、事前にACPを実践していれば比較的落ち着いて治療に対する主体的な選択ができます。その治療の有効性や経済面を知ることもできます。主体的な考えを持っていれば、医師が勧める治療以外の選択について情報提供をしてもらうことも可能となり選択肢も広がります。情報提供されることによって、自分のライフスタイルに合うものを検討できます。そして自分がどこでどのように暮らしていきたいか、再検討することもできるようになります。

いずれも当時者の変化に敏感になり、そのタイミングをキャッチすることで、当事者の価値観を見直し、その後に希望する治療の選択やそれらに伴うサービス調整へとつながっていきます。

自分の生き方に対する考えは、年齢や状況・状態等によって変化していくものです。ACPは、「その時の自分の思いや考え」をしっかり書き留めておくことで、その時々を主体的に生きることができます。もし自分で思い描く「人生のストーリー」を伝える事ができなくなったとしても代弁者がその思いを引き継いでくれます。また、残された家族もその経過を受け止めて前を向いて生きることに繋がっていきやすくなるでしょう。

対象者の人生を全うするために訪問看護や介護の現場で働く専門職にできること

訪問看護の従事者や介護福祉関係者にとって、ACP支援は対象者やその家族の不安を受け止め、心の準備を整え、継続的にサポートしていくことが重要です。

ただ、その対応には決して正解はありません。重要なのは、考える過程を共にし、当事者の思いを理解・尊重することです。支援者として、ときにはACPがもたらす効果を伝え、そのメリットを実感できるアプローチも大切です。対象者の人生を全うできること、残された家族にとっても「あれでよかった」と思えるよう支援することがACPの最善のサポートなのではないでしょうか

関連記事
岡本貴博
2025.03.31
インクルーシブ教育の推進と放課後等デイサービス事業環境の今後 ―自校通級の拡充から考える
#放デイ・児発 #起業・開業/事業拡大
杉山晃浩
2025.02.22
処遇改善加算の新たな算定要件!機能する業務改善のため委員会・チームづくりのステップとポイント
#人材採用/定着 #サービス共通 #サービス品質向上
片山海斗
2025.02.21
運営指導の“あるある”解説 〜200社以上の支援実績から見えた指摘を受けやすいポイントと対策
#サービス共通 #リスク管理 #運営指導(実地指導)