今回は、2024年1月5日に介護経営ドットコムで報じたニュース、『【2024年2月~5月分給与対象】介護職員処遇改善支援補助金の概要案│月額6000円相当を手当』を社労士目線で考えてみました。
また、2024年度介護報酬改定による介護職員らの処遇改善については、NHKニュース『介護報酬 サービスごとの報酬額 職員処遇改善に限り重点加算』でも取り上げられるなど注目が集まっています。職員の処遇改善に使いみちを限った加算を重点的に行うことで、職員の給料を上げて、人手不足の解消につなげるという施策ですね。
そこで今回は、毎月の給与額アップに直結する加算(この記事では2024年度改定で新加算に集約される前の「ベースアップ等支援加算」を中心に例示します)の一歩進んだ活用法について、考察してみました。
2024年度介護報酬改定では、「介護職員処遇改善加算」「介護職員等特定処遇改善加算」「介護職員等ベースアップ等支援加算」が一本化され、「介護職員等処遇改善加算」が6月に創設されますが、これらの加算の完全1本化には1年間の経過措置があります。
ここではベースアップ等支援加算について、少し振り返っていきたいと思います。
ベースアップ等支援加算は、2022(令和4)年に「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」を踏まえて、臨時の報酬改定により、収入を3%程度引き上げるための措置を講じるために生まれました。対象介護事業所の介護職員(常勤換算)1人当たり月額平均9,000円の賃金引上げを目的としたものでした。
取得要件として、次の5つを全てクリアする必要があります。
①介護職員処遇改善加算(I)~(III)のいずれかを算定していること ②介護職員等ベースアップ等支援加算計画書を作成し、その内容をすべての職員に周知し、都道府県知事等に届け出ていること ③介護職員等ベースアップ等支援加算の算定額を上回る賃金改善(※)を実施すること ④賃金改善額の3分の2以上は「基本給」または「決まって毎月支払われる手当」に充てる賃金改善を実施すること ⑤事業年度ごとに介護職員等ベースアップ等支援加算実績報告書を作成し、都道府県知事等に報告すること ※加算の算定額を上回る賃金改善
詳しくは、『介護職員等ベースアップ等支援加算(ベア加算)とは【2022年度介護報酬改定対応】』をご覧になってください。
対象となる職種は、介護職員に限られません。介護事業所の判断により、他の職員の処遇改善にこの処遇改善の収入を充てることができるよう柔軟な運用が認められています。従って、管理者や事務員などの賃金改善にも充てることができます。
次の図の黄色い部分が、ベースアップ等支援加算です。
((出典)厚生労働省ウェブサイトより)
ベースアップ加算の肝となる”加算額の一定割合以上は月額賃金の改善に充てる”ことを要件とすることは新加算「介護職員等処遇改善加算」にも盛り込まれるため、以降で論じる考え方は2024年度改定以降にも通じるものと考えてください。
ベースアップ等支援加算を利用すれば毎月の給与額が増え、求人するにも有利な環境を作ることができます。しかしながら、ベースアップ等支援加算を利用していない介護事業所もたくさん存在しています。
そこで、ベースアップ等支援加算をはじめとする処遇改善のための加算の利用ができていない介護事業所にどのような課題があるのか、5つの仮説を立ててみました。
1から5の仮説をご覧いただき、どのような感想をお持ちになりましたでしょうか。どれも納得できるような理由ではないでしょうか。
しかしながら、こうした処遇改善関連加算を活用していない状態で手をこまねいていれば、活用している介護事業所との差は開くばかりです。いずれ競争に負けてしまい、介護業界から消え去るしかありません。
そうならないためにもそれぞれの仮説について、簡単に対策を考えてみました。
不安やおそれが大きいために、第一歩を踏み出せない方も多いと思います。しかしながら、自社が処遇改善関連の加算を活用せず、他の介護事業所との競争に負けたときのことを想像してください。頑張って働いてくれていたスタッフは賃金未払いの状態で解雇されてしまうかもしれません。経営者は、破産して個人財産を取られてしまうかもしれません。そのような悲惨な未来を現実にしないためにも、活用について動き出すべきです。処遇改善関連の加算を活用されていない介護事業所の経営者や経営幹部の方には、算定できない理由をひとつずつ潰していって、ぜひ算定にチャレンジしていただきたいと考えています。
ベースアップ等支援加算についてですが、賃金改善額は同加算の算定額を上回る必要があります。さらに、加算総額の3分の2以上は、基本給または毎月決まって支払われる手当で賃金改善をしなければなりません。
計算式で表すと、以下のようになります。
賃金改善額=ベースアップ等支援加算の算定額+事業所負担分
そこで、今回は、選択制企業型確定拠出年金とベースアップ等支援加算を合わせた方法をご提案します。
企業型確定拠出年金の設計方法は、大きく次の4パターンになります。
ベースアップ等支援加算を活用する場合には、【③給与に上乗せ支給+選択制】で企業型確定拠出年金を設計します。
給与に上乗せ支給する分の原資を、ベースアップ等支援加算で作るようにします。この上乗せ支給額は、介護スタッフが給与として受け取っても、将来のために確定拠出年金の制度を活用して非課税で貯蓄や投資に回してもかまいません。
すなわち、今生活費が欲しい介護スタッフは給与として受け取り、老後資金をお得に準備したいスタッフは貯蓄や投資をすることができます。iDeCoの浸透や新型NISAの効果により投資をはじめている人は増加の一途を辿っています。
企業型確定拠出年金の拠出額上限は毎月5万5,000円なので、上乗せ支給額を9千円と設定した場合、スタッフは4万6,000円を上限に貯蓄や投資ができます。なお、5万5,000円については、生涯設計手当として賃金規程や就業規則に規定することになります。生涯設計手当規程=退職金規程と考えてください。
実は、上乗せ支給から投資に回した方の多くは、銀行預金よりも高い利回りを得ることができます。特に、新NISA特需で爆上がりした今年の年初の株高を考えれば、まだまだ株式市場にお金が回って来ることが予想されます。
儲かったスタッフは、同僚に「儲かった」と話すことでしょう。すると、これまで給与としてもらっていたスタッフや貯金に回していたスタッフが投資を始めます。
その結果、投資に成功したスタッフは、中退共や確定給付型年金よりも多くの退職金を手に入れることができます。
非課税で貯蓄や投資ができ、非課税扱いの利息や利益は複利で増え方が速くなり、退職所得控除税制の対象となるため退職金の手取り額が大きくなります。
経営者の退職金準備手段として使えることも、導入に伴う大きなメリットのひとつです。
「自分の退職金は自分で作る」時代が既に訪れています。住宅資金や教育資金は銀行から借りることができます。でも、老後資金は誰も貸してくれません。従業員が自分自身で作らなければなりません。
老後2千万円問題を思い出してください。事業者が20歳から45年働いた介護スタッフ全員に2千万円の退職金を支払うことは難しいでしょう。そもそも2千万円の退職金の原資がねん出できるなら、処遇改善加算など不要です。
確定拠出年金には、個人型と企業型があり、個人型がiDeCoと呼ばれています。両者を比較すると、企業型の方がメリットが大きそうに見えます。実際に金融面の効果は企業型の方が高いのですが、導入や運用に対するハードルが高いのが企業型です。ですので、企業型確定拠出年金の導入率は未だ1.7%程度でしかありません。
しかしながら、導入のハードルが高いだけあって、他の介護事業所との差別化を図ることができるのも事実です。
2022(令和5)年度からは、新たに高校の金融教育義務化が始まりました。金融教育を受けた卒業生が選ぶ職場は、スタッフの個人資産を増やしてくれる環境を持った職場になるはずです。10年後に企業型確定拠出年金を導入するのではなく、今すぐ企業型確定拠出年金を導入することで、強い介護事業所ができあがると信じています。
企業型確定拠出年金を導入すれば、新たに退職金の原資を準備する必要はありません。介護事業所が運営管理費用を負担すればよいだけです。それは、介護スタッフが自分の老後資金を自分の責任で増やすことのできるプラットフォームを整備することになります。
令和も6年に入った今、企業型確定拠出年金は、介護スタッフの老後生活を支えるインフラといっても過言ではありません。
企業型確定拠出年金に興味がある方は、以下のリンクからアニメ動画をご覧ください。
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Office SUGIYAMA グループ代表。採用定着士、特定社会保険労務士、行政書士。1967年愛知県岡崎市生まれ。勤務先の倒産を機に宮崎県で創業。20名近くのスタッフを有し、採用定着から退職マネジメントに至るまで、日本各地の人事を一気通貫にサポートする。HRテックを精力的に推進し、クライアントのDX化支援に強みを持つ。著書は『「労務管理」の実務がまるごとわかる本(日本実業出版)』『新採用戦略ハンドブック(労働新聞社)』など