※本稿では、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」を「高齢者虐待防止法」と略称します。
以前の記事で紹介したとおり、本稿でも、次に示す利用者が経済的虐待を受けていたときのケースを元に解説します。
経済的虐待の解説、成年後見制度の市町村長申立の概説については、前回の記事を参考にして下さい。本稿では、経済的虐待の事案において、本人や親族が成年後見申立てをすることが期待できない場合、いかに速やかに成年後見制度の市町村長申立の手続を進めるのか、その際の行政連携の「コツ」について解説します。
ここはとある特別養護老人ホーム。
施設長は、利用料の滞納が続く利用者サトシさん(仮名)の件で頭を悩ませていた。 サトシさんは要介護5で、重度の認知症を患っており、意思疎通は困難な利用者だ。既に配偶者も亡くなっており、サトシさんの娘であるAがキーパーソンである。
Aはサトシさんの年金が入ってくる通帳を管理しており、どうやら自分たちの家族の生活費に年金を遣っているようだ。年金に余りが出た分だけを利用料の支払いに充てるため、利用料の滞納が徐々に増えている状況だ。
「このままでは、滞納が増える一方だ。何とかしないと。」と思った施設長は、Aを施設に呼び、どのようにして滞納を解消していくのかを話し合うことにした。
施設長:本日はお忙しいところお越し頂き、ありがとうございます。今日は、サトシさんの利用料の滞納額の件でお話があります。現時点でサトシさんの滞納額は、約35万円になっています。この滞納分はどのようにして支払って頂けますでしょうか。
A:そんなことを言われても、私たちも生活が大変なのよ。コロナの影響で仕事も減らされちゃって収入も少なくなったんだから。
施設長:大変な状況の中、このようなお話で恐れ入ります。ただ、サトシさんは、利用料を支払うのに十分足りる額の年金を受給しておられると思うのですが・・・。その年金から利用料をきちんとお支払頂きたいのです。
A:年金は入ってくるけど、私たちの生活費に充てると足りないのよ。あと、私の息子の塾代も高くて年金がいくらあっても足りない状況なの。福祉施設さんなんだから、ちょっとは融通を効いてくれてもいいじゃない。
施設長:年金を生活費や塾代に回すのはちょっと・・・。サトシさん本人が受給すべき年金ですから、施設の利用料に遣っていただかないと。
A:私たちだって大変なんだからちょっとは融通をきかせてよ。福祉施設なんだから弱者の味方でしょう?
施設長:・・・・・
本件においては、サトシさんの年金の管理主体をご家族から成年後見人に速やかに移行することが大切です。したがって、なるべく速やかに行政への市町村長申立てに駒を進めてもらうことが最重要課題となります。
弁護士法人かなめ代表弁護士。29歳で法律事務所を設立。 現在、大阪、東京、福岡に事務所を構える。顧問サービス『かなめねっと』は35都道府県に普及中。 福祉特化型弁護士。特化している分野は、介護事業所・障害事業所・幼保事業所に対するリーガルサポート、労働トラブル対応、行政対応、経営者支援。 無料で誰も学べる環境を作るためYouTubeチャンネル『弁護士法人かなめ - 公式YouTubeチャンネル』を運営中。https://www.youtube.com/@kaname-law テキストで学びたい人向けに法律メディアサイト『かなめ介護研究会』も運営中。 https://kaname-law.com/care-media/