※本稿では、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」を「高齢者虐待防止法」と略称します。
以前の記事で紹介したとおり、弁護士法人かなめで2021年9月22日から同年11月末までの約一週間、滞納問題実態調査アンケートを実施しました。最終的には合計111法人から回答を頂きました。その中で、「過去に滞納問題が発生したことがある」と回答した割合は、実に87.4%であり、滞納問題の深刻な実態が垣間見えます。「福祉事業者として、催促することが憚られる。」「明らかに家族が本人の年金を遣い込んでいるのに、行政に通報してもすぐに動いてくれず、たらい回しにされる。」といった具体的な声が多数寄せられました。
本稿では、これらのアンケートの内容に加えて、筆者が実際に対応した案件を元に以下のケースを作成しました。いわゆる経済的虐待の事例です。本稿では、このケースを元に、経済的虐待と成年後見の市町村長申立てについて解説します。
<ケース>
ここはとある特別養護老人ホーム。 施設長は、利用料の滞納が続く利用者サトシさん(仮名)の件で頭を悩ませていた。 サトシさんは要介護5で、重度の認知症を患っており、意思疎通は困難な利用者だ。既に配偶者も亡くなっており、サトシさんの娘であるAがキーパーソンであり、A以外の親族は、現在サトシさんとは音信不通である。 Aは、サトシさんの年金が入金される通帳を管理し、どうやら自分たちの家族の生活費に年金を遣っているようだ。年金に余りが出た分だけを利用料の支払いに充てるため、利用料の滞納が徐々に増えている状況だ。 「このままでは、滞納が増える一方だ。何とかしないと。」と思った施設長は、Aを施設に呼び、どのようにして滞納を解消していくのかを話し合うことにした。
施設長:本日はお忙しいところお越し頂き、ありがとうございます。今日は、サトシさんの利用料の滞納額の件でお話があります。現時点でサトシさんの滞納額は、約35万円になっています。この滞納分はどのようにして支払って頂けますでしょうか。
A:そんなことを言われても、私たちも生活が大変なのよ。コロナの影響で仕事も減らされちゃって収入も少なくなったんだから。
施設長:大変な状況の中、このようなお話で恐れ入ります。ただ、サトシさんは、利用料を支払うのに十分足りる額の年金を受給しておられると思うのですが・・・。その年金から利用料をきちんとお支払頂きたいのです。
A:年金は入ってくるけど、私たちの生活費に充てると足りないのよ。あと、私の息子の塾代も高くて年金がいくらあっても足りない状況なの。福祉施設さんなんだから、ちょっとは融通を効いてくれてもいいじゃない。
施設長:年金を生活費や塾代に回すのはちょっと・・・。サトシさん本人が受給すべき年金ですから、施設の利用料に遣っていただかないと。
A:私たちだって大変なんだからちょっとは融通をきかせてよ。福祉施設なんだから弱者の味方でしょう?
施設長:・・・・・
まず、ご家族等の高齢者を現に養護する立場にある養護者における経済的虐待の定義から確認していきましょう。
弁護士法人かなめ代表弁護士。29歳で法律事務所を設立。 現在、大阪、東京、福岡に事務所を構える。顧問サービス『かなめねっと』は35都道府県に普及中。 福祉特化型弁護士。特化している分野は、介護事業所・障害事業所・幼保事業所に対するリーガルサポート、労働トラブル対応、行政対応、経営者支援。 無料で誰も学べる環境を作るためYouTubeチャンネル『弁護士法人かなめ - 公式YouTubeチャンネル』を運営中。https://www.youtube.com/@kaname-law テキストで学びたい人向けに法律メディアサイト『かなめ介護研究会』も運営中。 https://kaname-law.com/care-media/