新任訪問看護管理者におすすめの『サーバント・リーダーシップ』―エビデンス・ベースド・ナーシングマネジメントで学ぶ訪問看護ステーション経営のコツ(9)

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訪問看護管理者の方に、訪問看護管理者になったきっかけを伺うと、「前任者が急に辞めてしまった」「新規店舗の立ち上げを機に急に管理者になることになった」と答えてくれる方が多くいらっしゃいます。

私が知り得た限りの範囲ではありますが、上司である管理者の背中をみて業務を学ぶプロセスを経て、満を持して訪問看護管理者になった、という方にはあまりお会いしたことがありません。世の中の訪問看護管理者の多くは、急にその立場を任されているのではないでしょうか。さらに、そこで働くメンバーは自分より年上だったり、経験が豊富だったりすることも多いでしょう。

そこで、今回は現場メンバーから管理者になった際、どのような心構えでいれば良いのかのヒントとなる、『サーバント・リーダーシップ』という実践的な理論をご紹介いたします。

サーバント・リーダーシップとは何か

サーバント・リーダーシップとはロバート・K・グローンリーフが自身の実務経験から作り上げたひとつの持論です。「リーダーシップとは権力を持ち、フォロワーを力強く引っ張っていく存在だ」という考えが大勢を占めていた時代に、グリーンリーフはリーダーを「『サーバント=奉仕者』としてフォロワーに尽くすことで信頼され、人々が自ら動いていくように導く存在」だと著書の中で定義しています。

訪問看護事業所の管理者に求められるリーダーシップ

では、新任訪問看護管理者はどのようなリーダーであるべきなのでしょうか。一般的なリーダーシップの定義は、『集団に目標達成を促すよう影響を与える能力』です。

これを訪問看護事業所に当てはめると、事業所によって表現の違いはあれ、管理者が共通して達成すべき目標は、ステーション運営を通じて価値を提供することです。言い換えると、利用者へのサービス提供を長く継続し、従業員の雇用を守ることでもあります。

この目標を達成するためには、良質なサービスを日々提供し地域から信頼されることが重要となります。

地域包括ケアシステムと病院で求められるリーダーシップの違い

訪問看護が役割を発揮する舞台は地域包括ケアシステムです。しかし、これは複雑かつ変化の多い仕組みで、サービスの目的や目標にも多様性があります。

「治療」が目的の場所である病院の場合は、在院日数の短縮や効率化という目標が定められ、特定の疾患に対する標準的な治療や看護もある程度設定されています。しかし、地域包括ケアシステムの中ではケアの正解を一つに導き出すのは難しく、訪問看護の従事者には、常に変化し続ける状況に対応することが求められます。

このような変化に対応するには、病院のようなピラミッド型組織でリーダーが全てを理解・把握して指示命令をして物事を進めていくのは困難です。むしろ、現場の第一線で働く人々が臨機応変に対応できるよう、環境を整え支援するリーダーの在り方が求められています。

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具体的には、第5回6回でご紹介した心理的安全性の高い環境を準備することで、状況変化にも迅速かつ柔軟に対応でき、安全で質の高いケアを提供することができるようになります。さらに、メンバー1人1人の言葉に耳を傾け、先手を打った支援ができれば、「このリーダーと一緒に、このリーダーのために働きたい」と求められる存在になれるのではないでしょうか。

それでは続いて、ラリー・スピアーズ(サーバント・リーダーシップを世に広めるために設立されたNPO法人の前所長)がグリーンリーフの考えを整理した「サーバント・リーダーの10の特性」をご紹介し、新任訪問看護管理者がとるべき心構えについて解説します。

サーバント・リーダーの10の特性

スピアーズが整理したサーバント・リーダーの10の特性は以下の通りです。

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今回は上記の中から、新任の管理者が自分より経験豊富なメンバーをまとめ、ステーションを円滑に運営していくために大切な特性を4つピックアップしてご説明します。

1. 傾聴(listening)

サーバントリーダーは、メンバーの意思を確認し、明確にする手助けをします。言われていること、言われていないことを受容的に聞くことが重要です。同時に、自分自身の内なる声に耳を傾け、内省をすることでリーダー自身の成長にもつながります。

2.共感(Empathy)

傾聴するためには、相手の立場に立って、何をしてほしいかが共感的にわからなくてはなりません。他の人々の気持ちを理解し共感することができ、メンバーの行動やパフォーマンスが認められないような場合でも、メンバーの善意を前提として相手の気持ちを理解し共感を示すことが重要です。

5.説得(Persuasion)

職位に付随する権限に依拠することなく、また、服従を強要することなく、他の人々を説得します。このことによって、グループ内のコンセンサス形成が容易になります。

8.執事役(Stewardship)

執事役とは、大切なものを任せても信頼できると思われるような人のことです。サーバント・リーダーシップは、何よりもまず、他者のニーズに応えることを前提としています。

次回は、ある新任訪問看護管理者のケースを通して、サーバント・リーダーシップを訪問看護ステーションにおいてどのように発揮すべきかについて具体的な事例を用いて解説します。

参考文献

ロバート・K・グリーンリーフ著 金井壽宏監訳 金井真弓訳(2008)『サーバントリーダーシップ』英知出版

スティーブンP. ロビンス著 髙木晴夫訳(2009)『【新版】組織行動のマネジメントー入門から実戦へ』,256頁,ダイヤモンド社

ロバート・L・カッツ著 ハーバード・ビジネス・レビュー編集部訳(1982)「スキル・アプローチによる優秀な管理者への道」『ハーバードビジネス 1982年6月』ダイヤモンド社

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