訪問看護管理者の方に、訪問看護管理者になったきっかけを伺うと、「前任者が急に辞めてしまった」「新規店舗の立ち上げを機に急に管理者になることになった」と答えてくれる方が多くいらっしゃいます。
私が知り得た限りの範囲ではありますが、上司である管理者の背中をみて業務を学ぶプロセスを経て、満を持して訪問看護管理者になった、という方にはあまりお会いしたことがありません。世の中の訪問看護管理者の多くは、急にその立場を任されているのではないでしょうか。さらに、そこで働くメンバーは自分より年上だったり、経験が豊富だったりすることも多いでしょう。
そこで、今回は現場メンバーから管理者になった際、どのような心構えでいれば良いのかのヒントとなる、『サーバント・リーダーシップ』という実践的な理論をご紹介いたします。
サーバント・リーダーシップとはロバート・K・グローンリーフが自身の実務経験から作り上げたひとつの持論です。「リーダーシップとは権力を持ち、フォロワーを力強く引っ張っていく存在だ」という考えが大勢を占めていた時代に、グリーンリーフはリーダーを「『サーバント=奉仕者』としてフォロワーに尽くすことで信頼され、人々が自ら動いていくように導く存在」だと著書の中で定義しています。
では、新任訪問看護管理者はどのようなリーダーであるべきなのでしょうか。一般的なリーダーシップの定義は、『集団に目標達成を促すよう影響を与える能力』です。
これを訪問看護事業所に当てはめると、事業所によって表現の違いはあれ、管理者が共通して達成すべき目標は、ステーション運営を通じて価値を提供することです。言い換えると、利用者へのサービス提供を長く継続し、従業員の雇用を守ることでもあります。
この目標を達成するためには、良質なサービスを日々提供し地域から信頼されることが重要となります。
訪問看護が役割を発揮する舞台は地域包括ケアシステムです。しかし、これは複雑かつ変化の多い仕組みで、サービスの目的や目標にも多様性があります。
「治療」が目的の場所である病院の場合は、在院日数の短縮や効率化という目標が定められ、特定の疾患に対する標準的な治療や看護もある程度設定されています。しかし、地域包括ケアシステムの中ではケアの正解を一つに導き出すのは難しく、訪問看護の従事者には、常に変化し続ける状況に対応することが求められます。
このような変化に対応するには、病院のようなピラミッド型組織でリーダーが全てを理解・把握して指示命令をして物事を進めていくのは困難です。むしろ、現場の第一線で働く人々が臨機応変に対応できるよう、環境を整え支援するリーダーの在り方が求められています。
(つるがやまさこ)合同会社manabico代表。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修等の仕組みづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。 【合同会社manabico HP】https://manabico.com※プロフィールは記事配信当時の情報です