訪問看護ステーションに限らず、看護師の職場というと人間関係の悪さ(パワハラや雰囲気の悪さ等)が話題にのぼることが多いと思います。転職の際には、人間関係の良さを重要視される方も多くいます。
人間関係の悪さとは、職員同士の活発なコミュニケーションや情報共有ができないだけでなく、お互いに無関心・非協力的な態度を取ることも含まれます。このような「風通しの悪い」職場においては、看護師の離職が止まらず、インシデント報告が行われないことによって医療事故が多発し、看護の質が低下する傾向があるように思われます。その結果、連携先や利用者からの評判も悪くなり、業績悪化につながることも多いのではないでしょうか。
反対に「風通しの良い」職場では、看護師が定着し、インシデント報告が適切に行われることで医療事故は減り、看護の質は向上するでしょう。この結果、連携先や利用者から評判が良くなり、業績の向上にもつながることが容易に想像できます。
ではどうすれば、「風通しの良い」ステーションにすることができるのでしょうか。その鍵となるのが今回ご紹介する「心理的安全性」という要素です。
心理的安全性は従業員にとってやりがいがあり働きやすく好業績を上げている職場にあると考えられている要素です。エイミー・C・エドモンドソンは著書『恐れのない組織』の中で、心理的安全性とはリーダーが生み出すことのできる職場・チームの特徴だと述べています。
心理的安全性とは「対人関係のリスクを取っても安全だと信じられる職場環境であること」です。対人関係のリスクとは、自分の言動によって無知・無能に見られたり、迷惑な人だと思われたりするのではないかという不安のことで、誰もが無意識に避けようとしていると言われています。
例えば、上司や同僚看護師にちょっとした相談をしようとした時に「できない人」、「忙しいのに迷惑だな」や「そんなこと聞いて怒られるのではないか」と不安に感じるようであれば心理的安全性の高い職場とは言えないでしょう。しかし、心理的安全性が確保されている職場では、そういった不安を抱くことなく困ったときやミスを起こした時にすぐに相談や報告をすることができます。心理的安全性の高い訪問看護ステーションの特徴は以下の7つです。
勘違いしやすい点としては、”心理的安全性が高い”=”メンバー同士仲が良い”ということではないということです。一見、仲が良さそうに見えたり、コミュニケーションが円滑そうな職場であったりしても、目に見えない上下関係等の要因によって率直に意見交換ができないのであればその職場には心理的安全性があるとは言えませんのでご注意ください。
では、心理的安全性の高い職場、言い換えると「風通しの良い」職場を訪問看護管理者はどのように作っていけばよいのでしょうか。
訪問看護管理者が職場の心理的安全性を高めていくための手順は、以下のような流れで考えることができます。
(1)土台を作る (2)参加を求める (3)生産的に対応する
一つずつ確認していきましょう。
まず訪問看護の目的を際立たせ、フレーミング(意味づけ)をしていきます。看護ケアが意義深い仕事だということをメンバーに繰り返し強調し、その上で、「率直に意見を話すこと=看護の質向上や事故予防につながる」というフレーミング(意味づけ)をします。つまり、訪問看護という意義深い仕事を行う上で、率直に意見を話すことは看護の質向上や事故予防において欠かせない業務の一部であるという共通認識を持ってもらうのです。
メンバーへの意識付けができたら次は、率直な発言を実践する場を作って参加を促します。そのためには、「この会議では必ず1人一回は率直な発言をする」や「疑問や提案はしても良いか、批判はしない」等、安心して発言するためのルールを作ると良いでしょう。しかし、いくらルールがあって重要なことと分かっていても、上司や先輩の目が気になってなかなか率直な発言がしにくいということがあると思います。そこで、次に管理者自らが「自分も知らないことがあるから教えてほしい」という姿勢を示すことが重要です。そして、率直な発言を引き出すための問いや広げたり深めたりするような問いかけをすると良いでしょう。
最後に、実際に率直な発言をしてくれたことをその場で肯定し、手応えを返していきましょう。それが、生産的に対応をするということです。まずは、発言してくれた勇気に対して感謝を示しましょう。言葉として感謝を伝えても良いですし、率直な発言回数に応じてポイント制をとって表彰するなんてことも良いと思います(ヒヤリハット報告数を競うという取り組みを行なっている病院もあります)
ヒヤリハットや事故の報告はどんなに話しやすい職場であっても気がひけるものです。ですので、特にそういった報告をしてくれた際には、勇気を出して報告をしてくれたことに感謝を示し、失敗は恥ずべきものではないしその報告がどれだけ役立つかを伝えるようにしましょう。
また、明らかな違反について処罰する、つまり良くない行為について「それはダメですよ」という手応えを返していくことも生産的に対処するうちの1つです。ペナルティを課すことは、職員の仲違い等の原因になってしまうかもしれません。しかし、心理的安全性の高い職場であれば、悪いことに毅然とした態度を取ることによって、むしろ他の職員たちからの信頼を得ることができます。
次回は、どのように心理的安全性のある訪問看護ステーションを作っていけば良いのか、具体的な事例「心理的安全性を作る3Steps」を用いて解説します。
エイミー・C・エドモンドソン著 野津智子訳(2021)『恐れのない組織』,英治出版
(つるがやまさこ)合同会社manabico代表。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修等の仕組みづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。 【合同会社manabico HP】https://manabico.com※プロフィールは記事配信当時の情報です