筆者は以前、「社会問題化しているカスタマーハラスメント」という題で3回に分けて介護経営ドットコムに記事を寄稿しました。これらは、1年以上前の記事にもかかわらず、未だに多くの方々からの反響を呼んでおります。
中でも、「カスタマーハラスメント対応指針」を自社でも作成したいという声が多かったので、今回はその作成方法を詳しく解説します。「カスタマーハラスメント対応指針」のサンプルを希望される方は本記事末尾に掲載しているカスタマーハラスメント対応指針申込みフォームからお申込み下さい。
以下、カスタマーハラスメントのことを「カスハラ」と略します。
カスハラとは、利用者・家族等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、サービスの範囲を超えた要求、不当な要求等の著しい迷惑行為のことです。
筆者は、カスハラ対応指針を作成することで、大きく分けて2つの効果が得られると考えています。
まず、介護事業所で働く職員を守る効果です。
法的に言うと、カスハラ対応指針を作成することは、法人が職員に対して雇用契約上負っている職場環境配慮義務(労働契約法第5条)の履行に繋がります。
例えば、ヘルパーが利用者宅から帰ってきた際、「利用者の夫からセクハラの被害を受けました。」と訴えがあったとしましょう。まさにカスハラ対応の場面ですが、相談を受けた管理者や経営者が「利用者宅でセクハラの被害に遭うことなんて当たり前。そんなことを気にしていたら仕事にならない。」と真剣に受け止めず問題を放置することがあります。これでは、働く職員の職場環境に配慮しているとは言えません。結果としてこのセクハラが原因で職員が精神疾患になったり、それが理由で退職せざるを得なくなったりした場合、法人はこの職員に対して職場環境配慮義務に違反したとして賠償責任を負うこともあります。
「介護現場ではカスハラは当たり前」という風潮は、未だなお介護現場で当然視されている側面がありますが、この空気が蔓延している職場では職員は定着しません。カスハラ対応指針を作成することは、法人そのもののカスハラに対する意識を変えることに繋がります。結果として、対応方針を作成することは職員を守ることに繋がります。
次に、カスハラ対応方針を公表することで利用者やその家族等からの被害を事前に抑止する効果があります。
弁護士としてカスハラ問題に対応していると、一部の利用者や家族の中には、「介護事業者には何を言っても許される」と勘違いしている人がいるように感じます。「自分たちが介護保険を払ってその報酬で介護事業所の職員は給料をもらっているのだから、利用者のいうことを聞くのは当然だ」と発言し、職員をまるで奴隷のように扱うケースが後を絶ちません。「ダメなものはダメ」とはっきりと公表することで、利用者や家族等にカスハラには毅然と対応する姿勢を示しましょう。筆者がサポートしている介護事業所の中には、利用者との契約締結時に契約書や重要事項説明書とは別に、カスハラ対応方針を記載したリーフレットを交付しているところもあります。このリーフレットを受け取った利用者や家族から「今の時代はこういうことも大切だね。」という声を頂くこともあり、理解が得られることも多いです。
今まで明確に「カスハラはダメ」を伝えてこなかったことがカスハラ問題を増長させる一要因になっていたことも事実です。恐れずにカスハラ対応指針を公表することが大切です。
カスハラ対応指針の作成方法は、本来、各法人の自由です。
もっとも、筆者としては、「何故カスハラ対応指針を作成したのか」という法人の想いをしっかりと記載することが大切だと考えています。
冒頭から「カスハラは絶対に許しません」という文言ばかりを記載する指針は、筆者はあまり望ましいと思いません。
弁護士法人かなめ代表弁護士。29歳で法律事務所を設立。 現在、大阪、東京、福岡に事務所を構える。顧問サービス『かなめねっと』は35都道府県に普及中。 福祉特化型弁護士。特化している分野は、介護事業所・障害事業所・幼保事業所に対するリーガルサポート、労働トラブル対応、行政対応、経営者支援。 無料で誰も学べる環境を作るためYouTubeチャンネル『弁護士法人かなめ - 公式YouTubeチャンネル』を運営中。https://www.youtube.com/@kaname-law テキストで学びたい人向けに法律メディアサイト『かなめ介護研究会』も運営中。 https://kaname-law.com/care-media/