社会問題化している「カスタマーハラスメント」
最近、顧客が従業員に対し、恫喝や理不尽な要求、過剰な要求を突き付ける「カスタマーハラスメント」(以下、「カスハラ」といいます。)が社会問題となっています。
介護現場でも、利用者だけではなく、利用者のご家族やその関係者が従業員に過度な要求、理不尽な要求を突き付ける不当要求が問題になっており、我々弁護士法人かなめには頻繁にカスハラに関する相談が寄せられています。
第1回では、カスハラの実態と、法人が対応を怠った場合の問題点について解説します。
<目次>
(1)介護現場におけるカスハラの実態
(2)法人がカスハラ対応を怠った場合に生じる問題点
・問題点①:法人が職員に対して賠償責任を負う
・問題点②:対策を講じないと優秀な職員が辞めていく
(1)介護事故対応の心得:最初から相手を「悪」と決めつけない
・人間は感情の生き物である
・「謝罪」の重要性~「謝罪」が裁判で争われた?~
(2)介護事故直後から「お金」を要求された場合の対応
・損害賠償の流れを理解しよう
・「一筆書け」と言われたら?
・賠償責任保険の仕組みを知ろう
(3)過剰・不当要求が続く場合の対処法:カスハラ対応できる組織作りの重要性
・カスハラには「チーム」で対応
・秘密録音は適法?
・現場職員と管理者との連携
・管理者と弁護士・警察との連携
・カスハラ対応できる契約書になっていますか?
・HP、重要事項説明書で法人の「カスハラ、ダメ絶対!」を明示しよう!
当法人に寄せられるカスハラに関する法律相談の一例を紹介します。
・ヘルパーが利用者宅を訪問したところ利用者の家族からセクハラの被害に遭った
・グループホームの利用者の家族が、2週間に1回、必ずミーティングを開くよう要求し、細部にわたるまで指導、口出しする状態が3年続いている
・事故発生直後、事業所に利用者の家族が乗り込んできて「担当者だけでなく、ここにいる職員全員呼び出して謝罪会見を開け!」と大声で騒ぎ立てる
・事故報告書を閲覧し、意に反する書き直しを命じ、書き直しをしないと行政に苦情申入れを行うという圧力をかけてくる
・他のスタッフの見ている前で「お前のような無能な人間は担当を外れろ」などと人格権を侵害する発言を繰り返す
・「必ずこちらの指定する時間に折り返し電話しろ!夜10時しか電話に出ることができない」などと時間を指定した対応の要求を繰り返す・・・等々
弁護士法人かなめでは、介護業界の経営者、管理者、施設長がチャットで相談できる体制を設けているので、上記のように現場が困ったタイミングですぐに相談が来ます。私の肌感覚では、近年このような相談事例は増加傾向にあります。
実態調査としては、2017年にUAゼンセン流通部門が実施したアンケート結果 及び2019年に厚労省補助金(老人保健健康増進等事業)の助成を受けて株式会社三菱総合研究所が実施した「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究」 等があります。
仮に、介護事業を運営する法人が、職員から上記のようなカスハラ被害の訴えを受けた場合、法人がその訴えを放置したり、中途半端な対応に終始し、現場に任せきりにしたならば、どのような責任が発生するのでしょうか。例えば、訪問系サービスでは職員がセクハラ被害に遭う事例が目立ちます。利用者や家族からセクハラ被害を受けた職員が、運営会社に相談したときに、「ヘルパーがセクハラを受けるのはこの業界だと当たり前。そんなこと一々言ってたらこの仕事は務まらないよ」と言われ、一切対応してもらえなかった場合、運営会社はどのような責任を負うのでしょうか。
一つ裁判例を紹介したいと思います。
学校法人M学園の講師が、授業中に生徒から臀部を触られるというセクハラ被害に遭い、この講師が学校法人に被害を訴えました。学校法人は、調査の結果、セクハラの事実があったかもしれないと認識したにも関わらず、それ以上対応せず、セクハラは無かったという結論を下しました。この杜撰な対応について、講師が学校法人を訴えたという事件です(もちろん加害者の学生も訴えています)。(【学校法人M学園ほか(大学講師)事件】:千葉地裁松戸支部平成26(ワ)第1013号。)
弁護士法人かなめ代表弁護士。29歳で法律事務所を設立。 現在、大阪、東京、福岡に事務所を構える。顧問サービス『かなめねっと』は27都道府県に普及中。 介護特化型弁護士。特化している分野は、介護事業所に対するリーガルサポート、労働トラブル対応、介護行政対応、介護経営者支援。 無料で誰も学べる環境を作るためYouTubeチャンネル『弁護士畑山浩俊の介護リーガルchannel』を運営中。 https://www.youtube.com/channel/UCpj-I5JN_ALi-5deMSiOj0g テキストで学びたい人向けに法律メディアサイト『かなめ介護研究会』も運営中。 https://kaname-law.com/care-media/