前回は訪問看護ステーションにおけるスタッフの育成手法としての「1on1」とはどういうものなのか、そして1on1で効果的にスタッフを育成するために管理者が気をつけるべきポイントをご紹介しました。今回は具体的な事例をもとに、より効果的にスタッフ育成に活かす1on1を管理者が実施するための3つのステップについて解説していきます。
主人公は連載の4回目と6回目にも登場している新任の訪問看護管理者・山代さんです。彼女は、忙しさのあまり情報共有がまったく行われていない訪問看護ステーションに着任したばかりです。今回は、山代さんが管理者を務めるステーションに待望の新入職看護師が配属され、1カ月が経過した時点のお話です。このステーションでは、入職後1カ月を教育期間として同行訪問を組んでいます。
1カ月が終了した今、山代さんはスタッフの育成を今後どのように進めていけばよいか悩みを抱えています。
待望の看護師の配属。そして ステーションの忙しさは相変わらず。で、スタッフ全員で行うミーティングも月に1回取れるかどうかという状況がは継続していた。しかし、山代はスタッフの訪問の合間に一人一人と面談の時間をできるだけ持つようにしていた。
新入職の看護師である川上は3年の病棟勤務の経験後、山代が管理者を務めるステーションに配属になった。会社規定で決まっている1カ月の同行訪問期間がおわり、川上が新規利用者への訪問を除いて一人で訪問に行くようになったのは先週からのことであった。同行訪問期間中のはすぐにアドバイスやフォローすることが可能であったが、もうそういったことはできない。そこで、川上とは週1での面談を設定している。山代はまだまだ川上に訪問において注意して欲しいことがあったが、この面談を利用して川上への注意をこの面談でどのように伝えていくかに悩んでいた。
新入職看護師との1on1
山代「川上さん、お疲れさま。来月からオンコールも始まるけど、ひとり立ちしてみてどうかしら?」
川上「オンコールは、まだちょっと怖いです。ターミナルの方や今まで経験のない疾患の方も徐々に増えてきてますし、私一人では対応できるか不安です」
山代「そんなこと言っていたらいつまで経っても一人前の訪問看護師になれないじゃない。他のスタッフからも山上さんは以前に比べて成長してるって聞いてるし、私たちもセカンドコールでフォローするから大丈夫よ。あと、今日の訪問はどうだった?阿部さん(*川上が担当している利用者)、前回はご機嫌が悪くて入浴介助拒否されたみたいだけど、今日は入れた?」
川上「今日もダメでした。もう1カ月くらいお風呂も入ってないですし、入って欲しかったのですが・・・。ご本人は『一人で入ってる』って言って」
山代「え、今日も入れなかったの!?足浴とか清拭はしたの?」
川上「してません」
山代「阿部さんは認知症の症状でケアの拒否があるのは分かるけど・・・。糖尿病もあるし皮膚とかの状態確認はしないとダメでしょ。ちゃんとアセスメントはできてる?寄り添う看護がしたいって言っていたけど、寄り添うって仲良しこよしをすることじゃないし、訪問看護師としてお金をもらって入っている意味を分かってる?」
川上「・・・自分では分かっているつもりです・・・」
山代「次回からは看護師としてちゃんとアセスメントして介入しなきゃだめよ」
川上「分かりました。次の訪問があるので行きます。ありがとうございました。」
面談の最後は重苦しい雰囲気になってしまった。
川上は次の訪問が組んであったため急いで事務所を出発した。
果たして、面談はこのやり方でよいのだろうか。もっとよい働きかけを川上に対してできたのではないだろうか。山代は不安を感じながらも事務作業に取り掛かった。
(つるがやまさこ)合同会社manabico代表。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修等の仕組みづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。 【合同会社manabico HP】https://manabico.com※プロフィールは記事配信当時の情報です