団塊の世代が後期高齢者となる2025年以降の地域包括ケアを支えるために、訪問看護ステーションの重要性はますます高まっています。
このような状況に対応するために看護業界団体は訪問看護事業所数の増加・機能拡大を推進していますが、今のところニーズの増加に対応できるだけの訪問看護事業数にはなっていません。
例えば、全国訪問看護事業協会が2021年に行った『令和3年度 訪問看護ステーション数 調査結果』によれば、令和2年度の訪問看護ステーションの新規届出数は1,633件ですが、廃止数が541件となっています。ニーズはあるのに上手くいかない事業所が多いのはなぜでしょうか。どうすれば今後ますますニーズ増加の見込まれる訪問看護事業を円滑に経営できるのでしょうか。
そのためには、経験や勘に頼ったマネジメントではなくケアの現場と同様に、根拠に基づいた訪問看護のマネジメントを行うことができる経営者・管理者の存在が重要になります。
本連載では、訪問看護ステーション経営で起きる様々な問題の解決に、エビデンス・ベースド・ナーシングマネジメント(※1)の観点から役立つ知見をご紹介していきます。
第1回目の今回は、訪問看護ステーションで良く起こるスタッフ間の仲違いや雰囲気の悪さの解決のために、管理者(あるいは経営者)として何ができるかについて取り上げます。このような時に役立つステーションの状態を診断するツールである『GRPI(グリッピィ)モデル』をご紹介いたします。
GRPIモデルは、組織開発のコンサルタントであり、MITで教鞭を執っていたリチャード・ベックハードが1972年に発表した論文で紹介されています。
ベックハードによれば、良いチームでは「目的・目標が明確」「役割が明確」「段取りがうまくいっている」「人間関係が良好」の4つの条件が揃っているそうです。 また、Goal(目的)から順番に考えていくことで、事業所が抱える課題の根本的な原因が何かを知ることができます。
以下4つの質問について考えることで、組織やチームの状況を診断します。
英単語の頭文字をとって、GRPI(グリッピィ)モデルと呼ばれています。ではこのGRPIモデルを用いて訪問看護ステーションの雰囲気が悪い状況を検討してみましょう。
雰囲気の悪いチームについて考える際、つい人間関係にばかり目がいってしまいがちです。しかし、チーム内で誰かが対立していたり雰囲気が悪い状況があったりしても、その原因をよくよく調べていくと大多数は”目的の不明瞭さが原因となっている”ということがほとんどです。
経営者や管理者は仕事においてリーダーシップを持つことが必須と言われます。リーダーシップのスタイルはその時々でトップダウン、サーバントリーダーシップ(等様々なスタイルが流行します。しかし、どのようなスタイルであれ、リーダーに求められているのはチームの目的を明確にしてチーム内で共有させるということなのです。
人間関係の悪さが問題だと感じたとき、スタッフの不満をまず聞くということを実践されている方は多いと思います。とても重要なことですが、話を聞くだけではまた人間関係の悪さが問題として出てきてしまいます。目標と役割を明確にし、段取りを整えることが人間関係改善の基本であり、訪問看護ステーション経営の鍵になります。
今回ご紹介したGRPIモデルは便利で手軽なツールです。ぜひ、自ステーションの問題解決にお役立てください。
次回は具体的な事例を用いて、GRPIモデルの活用方法について解説します。
Beckhard, R. (1972). Optimizing Team Building Effort. Journal of Contemporary Business, 1(3), 23‒32.
厚生労働省ホームページ『医療従事者の需給に関する検討会 看護職員需給分科会 中間とりまとめ』 (最終アクセス確認日:2021年12月19日)
一般社団法人全国訪問看護事業協会『令和3年度訪問看護ステーション数調査結果』(最終アクセス確認日:2021年12月19日)
中村和彦・中原淳(2018).『組織開発の探究――理論に学び、実践に活かす』ダイヤモンド社
※1エビデンス・ベースド・ナーシングマネジメント(EBNMgt)とは、看護や医療で常識になっているエビデンス・ベースド・プラクティス/メディスン/ナーシングの考え方を看護管理においても実行することです。
詳しくは弊社HPをご覧ください。
エビデンス・ベースド・ナーシングマネジメント(EBNMgt)(1)(2)(3)
https://manabico.com/2021/10/21/evidence-based-nursingmanagement1/
https://manabico.com/2021/10/28/evidence-based-nursingmanagement2/
https://manabico.com/2021/11/04/evidence-based-nursingmanagement3/
(つるがやまさこ)合同会社manabico代表。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修等の仕組みづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。 【合同会社manabico HP】https://manabico.com※プロフィールは記事配信当時の情報です