訪問看護事業のM&A後の統合プランの考え方:介護事業者の多角化を目的とする場合

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前回、多店舗化を検討する訪問看護事業者が訪問看護事業を買収する場合の統合プランについてご紹介しました。今回は介護事業者が訪問看護事業をM&Aする場合に、組織統合を円滑に進めていくためのプランについてみていきましょう。

似ているようで実は大きく違う介護と看護

一般の方に聞くと、看護と介護を混同している方もいらっしゃいます。しかし、看護と介護、また、それらのサービスが訪問型で提供されているのか施設などで提供されているのかによって仕事の進め方、働く人の背景、制度など多岐にわたる違いがあります。

※介護と看護、施設型と訪問型サービスの特性の違いについてはこちらでも取り上げています。

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カギは内部に訪問看護がわかる人材を用意すること

一般的に看護師は売り手市場で働く場所を選ぶことのできる専門職です。ですので、自分が組織に合わないと考えると退職を検討する可能性が高いと考えられます。

しかし、訪問看護ステーションの運営においては常勤換算2.5人以上の看護師がいることが必須です。そこで、訪問看護ステーションのM&Aにおいては看護人員の人材定着を促し離職を防ぐことがとても重要になります。私の経験では、看護師は業務への理解だけではなく自分達の専門性について経営層にも理解を求めることが多い気がします。お給料を遅延無く払っていても、看護師に「この会社は看護のことを分かっていない」と思われてしまうと、退職につながる可能性が高まります。

そのため、買収側には訪問看護がわかる人材(看護師である必要はありませんが、看護師の方が受け入れられやすいことは事実です)がいると良いのではないでしょうか。この人材を統合プラン実行の責任者として、会社が全面的なバックアップをするのが良いでしょう。訪問看護がわかる人材が内部にいない場合は、訪問看護ステーションのM&Aはやめておくほうが良いと言っても過言ではないと思います。その上で、さらに既存事業と訪問看護がどのようにシナジーを出すのかあるいは出せないのか、事前に見極めておくことが必要です。

それでは、今回もレヴィンの組織変革の3ステップに沿って統合プロセスの流れを説明していきます。

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解凍:まずは雇用と仕事の進め方を保証。対話の場を設けて訪問看護の理解に努める

今回のケースでももちろん雇用の保証はとても重要になります。隣接領域事業からの多角化においては、さらに、仕事の進め方を保証することも大切です。買収側にとっていくら良い仕事の進め方やツールだとしても、買収された訪問看護ステーションに新たな物事を導入するのは、一定の期限を区切りつつ、ひとまず見送るのがよいでしょう。仕事の進め方は業界の文化やその組織の暗黙の前提によって動いている部分が多くあります。例えば、訪問看護ステーション内の情報共有のルールも、具体的に見ていくと組織ごとに異なることがほとんどです。

まずは雇用と今までの仕事の進め方を保証した上で、対話の場を設けて現場の訪問看護師たちを理解するよう努めると良いでしょう。新体制についての想いや不安を聞くことも大切です。もちろん、買収側の既存事業がどのようなものであり、どんな狙いがあってM&Aをしたのか、そしてM&Aがもたらすお互いの新しい可能性についても繰り返し語り合いましょう。この過程を経て、現場の看護師たちに新体制を信頼をしてもらうことが重要です。

移動:訪問看護と介護事業のシナジーを検討する

既存事業とのシナジー創出に向けた検討は、対話によって進めていくのがよいでしょう。訪問看護事業は日々の業務を進めていくために、多職種連携を行う必要があります。同じ法人が訪問看護と介護の事業を持っていることは強みになります。連携がスムーズに行えるよう、事業部間の情報連携の仕組みを決め、事業所内での仕事の進め方や役割分担を行う必要があります。この段階で、一旦見送っていた仕事の進め方や業務ツールの統合を検討することもよいでしょう。

再凍結:事業の連携を通常業務に組み込んでいく

業務連携の連絡ルートや役割分担を取り決め、業務ツールの統合をおこなったのちは、実際に成果を出していく段階になります。大切なのは、M&Aをして他事業と一緒に成長していくことを、個々の職員にいかに良い経験としてもらえるかです。「多職種連携で仕事が大変になった」ではなく、「多職種連携を進めることによって、お互いに以前よりも良いサービスを提供できるようになった」という事例を増やせる工夫が必要です。

連携がうまくいくことを経験してもらい、かつそれらの経験について手応えを感じられるようなフィードバックをしていくと良いのではないでしょうか。個々の経験だけで終わらせるのではなく、組織からの積極的なフィードバックを通してM&Aの前向きな効果をスタッフが実感していきます。これらの実感を積み重ねていくことで、連携の方法は習慣化され安定した事業運営ができる状態になっていきます。

最後に

以上、関連事業者が訪問看護ステーションをM&Aするときに準備しておく統合プランについて説明してきました。今回お伝えしたように買収側が介護事業者の場合、内部に訪問看護事業のわかる人材を備えておくことが円滑な組織統合のカギです。

次回は、全くの異業種の方が訪問看護ステーションをM&Aする際に準備しておくべき統合プランについてご紹介します。

参考文献

髙木晴夫(2008)『企業組織と文化の変革』,慶應義塾大学ビジネス・スクール

鶴ケ谷理子・市村真納・新村和大・髙木晴夫共著(2017)『株式会社やさしい手』,慶應義塾大学ビジネス・スクール

齊藤光弘・中原淳編著,東南裕美・柴井伶太・佐藤聖著(2022)『M&A後の組織・職場づくり入門』,ダイヤモンド社

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