訪問看護事業M&A後の統合プランの考え方:多店舗化を検討する場合

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前回、M&Aを成功させる鍵は、M&A契約締結後の統合プロセスにあるという話をしました。そして、この統合プロセスを成功させるには事前にプランを用意しておく必要があり、その統合プランには組織変革に向けた「解凍→移動→再凍結」の3ステップが参考になるとご紹介しました。今回は、同業者の買収事例を挙げ、円滑な組織統合を考察してまいります。

訪問看護事業のM&Aは同業者同士が多い

統合プランを検討するにあたり、買収側の状況を考えていきたいと思います。訪問看護ステーション事業継承検討委員会が2022年7月に公開した『訪問看護事業継承ガイドライン』には、訪問看護ステーションの事業継承について12の事例が紹介されています。ここで紹介された事例のほとんどは同業者による買収となっています。

そこで、同業者による買収を例に挙げ、3ステップに沿った統合プランを検討してみたいと思います。

円滑な事業継続のカギは人材の定着

買収側の持つ経営資源(人・物・金・情報)がなんであれ、訪問看護ステーションのM&Aを行う場合に押さえておくべきポイントがあります。それが、人材の定着です。

訪問看護では、看護師が利用者宅を訪れてサービスを提供します。つまり訪問看護ステーションを買収しても、そこにいた看護師たちが退職してしまっては事業を継続することが極めて困難です。

訪問看護師不足が叫ばれている現在において、短期間の間に常勤換算で2.5人の看護師を集めることは難しいでしょう。仮に新しく看護師を採用できたとしても、新しい職員だけでステーション運営をしていくのは困難です。仕事の引き継ぎをしてくれるスタッフがいない中であっても、既存の利用者さんへのサービスを以前と同じかそれ以上のクオリティで提供していかなければなりません。そうでなければ利用者さんや連携先機関(居宅や病院等)からの評判が下がり、新規依頼も来なくなってしまいます。

そのため訪問看護ステーションの統合プロセスにおいては、人材の定着を目標としたプランを作成していく必要があります。それでは、レヴィンの組織変革の3ステップに沿って統合プロセスの流れを説明していきます。

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解凍:まずは雇用の保証。対話の場を設けてトップのコミットメントとメッセージを伝える

M&A実施後も、訪問看護ステーションでは日々の業務をおこなっていく必要があります。しかし買収された側の職員はこのまま働き続けられるのか、今までと何が変わって何が変わらないのか、自分達はどうしたら良いのか等の様々な不安を感じているでしょう。

こうした不安を解消するため、まずは買収された側のステーションのスタッフに雇用の保証を行う必要があります。給与や評価制度がどのように変わるのか、あるいは変わらないのかもはっきりと伝えましょう。

そして、買収側のトップはこのM&Aがお互いにとってどのような意義があるのかを伝え、一緒にやっていこうというメッセージを繰り返し伝える必要があります。参考文献としてご紹介している『M&A後の組織・職場づくり入門』には、M&A後に対話の機会を設けた担当者の話として次のようなものがあります。

「月2回、社員の総会、事業部の戦略発表の機会を持ち、相互の交流を進めていきました。また、戦略の具体的な事例について、ワークショップ形式で話して、役員とも共有しました。全部で20回ぐらいはやったと思います。(後略)」

この話は企業の例ですが、訪問看護ステーションのM&Aにおいても、対話の機会を繰り返しもち、社員と徹底的に話し合うことが大切です。

移動:役割分担と仕事の段取りを整えていく

対話を繰り返し、スタッフの気持ちに「新しい組織でやっていこう」と変化を受け入れる気持ちが生まれてきたら、次にすべきはシナジーを出すための基盤整備です。具体的には、コミュニケーションの方法や基盤システムの統合と役割分担の明確化です。

訪問看護は事業所が点在しているので、社内でのコミュニケーションをどのように行うのかというルールや仕組みを統合することは重要です。また、請求業務といったバックオフィス業務のコストを抑えることが競争優位性に繋がりますので、これらの統合を行うことは必須だと考えられます。

事業所運営の取り組み方については、買収側に合わせるのが一般的かとは思いますが、買収された側への配慮が必要です。いくら良い仕組みを導入しても使ってもらえなければ意味がありません。そういった意味でも、この前の段階で信頼関係と対話できる関係性を築いておくことが重要です。

再凍結:M&A後に出た成果を実感し、そのサイクルを回していく

最後に、新しい役割分担や段取りを導入することに合理性があり、効果が出るという共通認識をメンバーの間に形成していきましょう。具体的には、新しい制度に移行した後に出た成果を社内でアナウンスしたり、請求業務が楽になるという実感を得てもらったりなどです。小さなことで構わないので様々なことを組み合わせながら、「M&Aをしてよかった」と実感できるような仕組みを作っていきましょう。

まとめ

以上、同業者が訪問看護ステーションのM&Aを実施するときに準備しておく統合プランについて説明してきました。同業者のM&Aでは、同じ訪問看護事業運営者同士だからわかることがたくさんあります。これが関連事業者や異業種によるM&Aの場合はより注意すべき点が多くなります。

次回は、事業の多角化を目指して関連事業者が訪問看護ステーションをM&Aする際に準備しておくべき統合プランについてご紹介します。

参考文献

訪問看護ステーション事業継承検討委員会(2022)『訪問看護事業継承ガイドライン』最終アクセス確認日:2022年12月17日)

髙木晴夫(2008)『企業組織と文化の変革』,慶應義塾大学ビジネス・スクール

齊藤光弘・中原淳編著,東南裕美・柴井伶太・佐藤聖著(2022)『M&A後の組織・職場づくり入門』,ダイヤモンド社

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