訪問看護事業のM&A後の統合プランの考え方:全くの異業種が訪問看護ステーションをM&Aをする場合

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前回、訪問看護とは隣接領域である介護事業者が訪問看護事業をM&Aをする場合の組織の統合プランについてご紹介しました。今回は全くの異業種の方が訪問看護ステーションをM&Aをする場合の統合プランについてみていきましょう。

訪問看護業界にどのように関わるのかメッセージを打ち出す

全くの異業種の方が訪問看護ステーションをM&Aをする場合、前回・前々回とご説明した事例と比較して、「なぜ自社で訪問看護事業を始めるのか」ということについてより明確にメッセージを打ち出す必要があります。

なぜなら訪問看護事業は、多くの関係機関と協力することで利用者の在宅生活を支えるサービスです。そのため、地域医療を支える様々な機関との連携が必要不可欠です。地域医療を担う一員としてサービスを提供していくために、「なぜ私たちは訪問看護事業を始めるのか」を明確化し、地域社会に向けて一貫したメッセージを送る必要があるでしょう。

内部に訪問看護がわかる人材を用意し、外部専門家も活用する

地域社会に認められ、訪問看護事業をおこなっていくためにも、事業の要となる買収先の看護師たちの尊敬を勝ち取る必要があります。

そのためには前提として、自組織の内部に看護師がいることが望ましいと考えられます。実際、買収を持ち掛けようとしている企業が訪問看護事業を行なっていなかったために、訪問看護ステーションから買収を拒否されたという話もあります。そうした事態を避けるためにも、M&A実施の前に自社の方針を理解し、訪問看護ステーションのM&Aを推進する中心人物となる看護師を採用しておく必要があると考えられます。M&Aの実施前にそうした立場を担う看護師を採用するためにも、自社がなぜ訪問看護事業に進出するのかビジョンを明確化しておく必要があるでしょう。

また、M&A後の統合プロセスを支援する社外の専門家の力も借りることを視野に入れておくべきでしょう。そのような組織づくりの専門家は、関係者間のしがらみに囚われにくく、組織統合におけるプロセス全体を俯瞰した上で必要な動きをすることができます。もちろん社外の専門家の力を借りる場合であっても、社内メンバーと社外専門家の密な連携は欠かせません。

それでは、今回もレヴィンの組織変革の3ステップに沿って統合プロセスの流れを説明していきます。

解凍:M&Aの目的とこれからのビジョンを伝え、安心して仕事に打ち込める体制をつくる

ビジョンとは、会社の将来のあるべき姿を描いたものです。冒頭で「なぜ私たちは訪問看護事業を始めるのか」を明確化し、地域社会に向けて一貫したメッセージを送る必要があるとお伝えしましたが、組織外に向けてだけではなく組織内に向けてこれまで訪問看護事業に関わってこなかった自社がなぜM&Aをしたのかというメッセージを繰り返し伝えていく必要があります。目的を明確にし、そして訪問看護事業を通して、どのようなビジョンを実現したいのか。この2点を買収先のスタッフに繰り返し伝えていく必要があります。

また、ビジョンを繰り返し伝えつつ、雇用を保証し、これまでの仕事の進め方を尊重しなくてはなりません。

移動:バックオフィス業務の集約

異業種から参入した際に忘れがちなのが、訪問看護ステーションの訪問業務以外の周辺業務の煩雑さです。そこで、日々の業務が安定してきたタイミングで経営効率を高めるために効果的なのが、請求業務を中心としたバックオフィス業務を本社に集約することです。請求業務ができる人材を育てるには労力がかかりますが、ステーションのスタッフが看護に集中でき働きやすい体制づくりに繋がります。外部の訪問看護ステーションを買収する場合には、より大きく効率化が進むでしょう。

再凍結:M&Aがあったからこそ生み出せた価値の実効性を一人ひとりが認識する

上述した“解凍” (自社のビジョンを伝え、これまで通り安心して仕事に打ち込める体制をつくる)と“移動” (バックオフィス業務の本社への集約)の取り組みを進めていくと、「M&Aがあったからこそ看護に集中できる」、「効率化が進み利益が増えた」、といった実感や結果が出てきます。このようなことを訪問看護ステーションで働くスタッフが実感することができれば、この会社で働き続けることに価値を見出していくでしょう。そして離職率が下がり、ステーション運営を安定させることに大きく寄与する段階が訪れます。

最後に

以上、全くの異業種の方が訪問看護ステーションをM&Aをするときに準備しておく統合プランについて説明してきました。今回例に挙げたように買収する側が異業種の場合、組織内外に向けて「なぜ私たちは訪問看護事業を始めるのか」という一貫したメッセージを送り続け信頼を獲得することがカギとなります。

次回は、これまでの総まとめとして、経営者が訪問看護ステーションをM&Aを検討する際に考えておくべきことをご紹介いたします。

参考文献

髙木晴夫(2008)『企業組織と文化の変革』,慶應義塾大学ビジネス・スクール

齊藤光弘・中原淳編著,東南裕美・柴井伶太・佐藤聖著(2022)『M&A後の組織・職場づくり入門』,ダイヤモンド社

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