今回は、虐待による死亡事故が起きてしまった介護施設を舞台に、指定取消処分をどのように争って事業継続ができるのか、という点を考察してまいります。 このような事故が起これば、施設は世間のバッシングを受けることになり、それに同調する形で行政も指定取消処分にするケースがあります。 しかし、取消処分の前提で必要とされる手続きを正しく理解していれば、不当に重い処分を避け、他の利用者や家族、職員らを守ることができる可能性があります。
筆者が複数の虐待事例や指定取消事例をベースに作成した架空の事例から考えてみましょう。
ここは、とある介護施設。
ある日、非常勤で勤務していた男性職員Aが、利用者の入浴介護中、中々言う事を聞いてくれない利用者に対して苛立ちを覚え、熱湯をかけるという虐待行為に及んだ。
重度の火傷を負った利用者は救急搬送されたが、ほどなく死亡してしまった。
男性職員Aは、警察に傷害致死罪の容疑で逮捕され、この事件は全国で大きく報道された。後日分かったことだが、どうやら男性職員Aは、他の利用者にも軽微ではあるが、身体的虐待を複数回行ったことがあったようだ。
捜査機関への対応、マスコミからの取材対応、地域住民からの苦情電話対応等々、この介護施設の運営会社は怒涛のように押し寄せる対応に追われた。
高齢者虐待防止法に基づき、行政に通報し、重大な虐待事件であることから、行政の監査が実施された。
行政の監査の実施後、行政から一通の文書が届いた。
その文書には、「聴聞通知書」との題名が付されており、予定される不利益処分の内容に、「指定の取消」と書いてある。
これを見た介護施設の経営者は驚愕した。
「指定の取消!?他の利用者の方もいるのに、施設運営を強制的に終了しないといけないということなのか?一体どうすれば良いのだ・・・」
この事例を読んで、「いつ自分のところで発生するか分からない虐待事件だ」と感じた読者も多いのではないでしょうか。
「利用者に熱湯をかける」という身体的虐待行為は、悪質極まりない蛮行です。死亡という重大な結果も相まって、マスコミは全国で大きく報道することでしょう。行政も、監査を実施し、当該介護事業者に法令違反が無いか徹底的に調べ上げます。
この事例では、行政側は、監査の実施後、聴聞という手続きを実施しています。
「聴聞通知書」という文書には、指定取消という文言が記載されています。
指定が取り消されると、国保連に介護報酬を請求することができなくなるため、介護事業を継続することはできなくなります。これに加え、指定の取り消しを受けた介護事業所は、取消処分を受けてから5年間、新たに介護事業所の指定をとることができません。最も重い処分です。
多くの介護事業者にとって、聴聞という手続きなど聞いたことも無いのではないでしょうか。
弁護士法人かなめ代表弁護士。29歳で法律事務所を設立。 現在、大阪、東京、福岡に事務所を構える。顧問サービス『かなめねっと』は35都道府県に普及中。 福祉特化型弁護士。特化している分野は、介護事業所・障害事業所・幼保事業所に対するリーガルサポート、労働トラブル対応、行政対応、経営者支援。 無料で誰も学べる環境を作るためYouTubeチャンネル『弁護士法人かなめ - 公式YouTubeチャンネル』を運営中。https://www.youtube.com/@kaname-law テキストで学びたい人向けに法律メディアサイト『かなめ介護研究会』も運営中。 https://kaname-law.com/care-media/