人材の確保や生産性の向上を巡って、社会保障審議会・介護給付費分科会では、2024年度改定での具体的な方策の検討を進めています。
厚生労働省は9月8日の審議会で、外国人介護人材を巡る人員配置基準の緩和策を提案しました。その内容は、EPA(経済連携協定)介護福祉士候補者や技能実習生について、一部を除き、就労開始から6カ月未満であっても人員配置基準に算定するというものです。
専門家からは賛同する意見があがった一方で、明確に意義を唱える声もありました。
分野横断的なテーマでの検討が進む社保審・介護給付費分科会にて、厚労省は「介護人材の確保と生産性向上」を俎上にあげ、以下の4つの議題を示しました。
1.介護人材の処遇改善等 2.人員配置基準等 3.介護現場の生産性向上の推進/経営の協働化・大規模化 4.外国人介護人材に係る人員配置基準上の取り扱いについて
こちらのページでは、【外国人介護人材に係る人員配置基準上の取り扱い】を巡る検討についてまとめます。
外国人介護人材に係る人員配置基準上の取り扱いについて、厚労省が示した論点は以下の通りです。
EPA介護福祉士候補者及び技能実習生について、介護サービスの質の確保等に十分に配慮した上で、就労開始直後から人員配置基準に算入することについてどう考えるか。
EPA介護福祉士候補者および技能実習生については現在、日本語能力試験N2を取得している者か、「就労開始後6カ月を経過した者」を人員配置基準等に算定しています。
厚労省はこの「就業開始後6カ月」の規定の緩和について検討する材料として、同日の審議会にて、データを示しました。
例えば、利用者や家族向けのアンケート結果についてです。技能実習生によるサービスの満足度について、就労6カ月の場合は「十分満足している」及び「おおむね満足している」と回答した割合の合計は、EPA介護福祉士候補者で50.0%、技能実習生で82.6%。これに対して、就労してすぐに人員として算定できる特定技能外国人は77.6%でした。
(【画像】技能実習生によるサービスの満足度(第223回介護給付費分科会・資料4より)
働きぶりについても、「大変仕事熱心であり、高く評価できる」及び「足りない部分はあるが、おおむね満足している」と回答した割合の合計が、EPA介護福祉士候補者で68.4%、技能実習生で76.3%、特定技能外国人で78.1%との結果が出ています。
また、就労後6カ月未満の外国人職員との日本語での意思疎通についても、利用者が「問題なく伝わる」及び「話が伝わりにくいときはあるが、ゆっくり話せばおおむね伝わる」と回答した割合の合計が、EPA介護福祉士候補者では63.2%、技能実習生および特定技能外国人で80.7 %との結果を明らかにしました。
実際に外国人介護人材を雇用している受入施設・事業所向けの調査結果も共有されています。
基準緩和をポジティブに捉える回答は、EPA介護福祉士候補者で76.2%、技能実習生で79.7%との結果を提示しました。
民間介護事業推進委員会の稲葉雅之委員は、「事業者の立場からいえば、どの在留資格で入国された人材であっても雇用を前提としている。当初から、配置基準上1人としてカウントする取扱いにしていただきたい」と要望しました。
全国知事会(大石賢吾長崎県知事の代理で出席した新田参考人が発言)からも「外国人介護人材は介護現場になくてはならない存在。本県の事業者からも貴重な担い手として活躍いただいていると聞いている」として、技能実習生らにおいても「就労直後から人員基準に算入できるよう検討してほしい」と、基準の緩和の要望がありました。
一方で、連合の小林司委員は、提案について「他の職員の負担増やケアの質の低下、専門性向上の妨げになる等が懸念される」と言及。外国人人材受入れの制度趣旨にも触れたうえで「安易に配置基準の算入要件を緩和するべきではない」と反対しました。
また、産業医科大学教授の松田晋哉委員は、「介護や看護の人材確保が、国際的な競争のもとにあるという理解が日本は足りないと思う」と指摘。ドイツやフランスなどの諸外国の取り組みを事例に挙げ、国全体として「選ばれる市場」にならなければとの見解を示しました。
理学療法士として回復期病院、リハ特化デイ施設長、訪問リハを経験後フリーライターとして独立。医療福祉、在宅起業、取材記事が得意。正確かつ丁寧な情報を発信します。