2024年度からBCPの策定がすべての介護事業者で完全義務化されました。
特に台風が頻繁に発生するこの季節、自然災害BCPを実際に発動された介護施設も多いのではないでしょうか。もっとも、災害が発生したときは、BCP策定段階には想定していなかった事態が発生することもあります。
今回は、実際に特別養護老人ホームで発生した事例を解説します。同じような事態が発生した場合に備え、どのように対応するかシミュレーションしておくことが重要です。ぜひ、皆様の介護施設・事業所でも対応の在り方をご検討ください。
<相談内容> 私は特養の施設長です。 先日、非常に強い勢力の台風が上陸し、我々の施設にも大きな被害が出ました。 サービス提供は継続する必要があったため、台風接近の中でも、最小限の職員には出勤してもらいました。 我々の地域は車社会ですので、ほぼ全員車で出勤しています。 今回、施設の駐車場に停めていた職員の自家用車が、台風の影響で破損するという事故が発生しました。 どこから飛んでき来たのかわからない飛来物が車に当たり、ガラスが割れたり、ボディが損傷するなどの被害が出ています。 頑張って出勤してくれた職員を思うと不憫ですが、法人がこの物損被害について賠償義務を負うのか、よく分かりません。 このような場合、介護施設では法的に賠償責任を負うものなのでしょうか。 仮に負わない場合、何らかの補填をしてあげる方法はあるのでしょうか。
仮に、上記の事例で、自家用車の破損の原因が、老朽化した介護施設の屋根が台風の風で剥がれて飛来したことにある場合、介護施設を運営する法人は、民法第717条1項本文の土地工作物責任を負うことになります。
民法第717条1項本文 ➣土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。
裁判所は、「台風のため屋根瓦が飛来し損害が生じた場合において、土地工作物に瑕疵がないというのは、一般に予想される程度までの強風に堪えられるものであることを意味」するとしています(福岡高裁昭和55年7月31日判決)。
要するに、たとえ非常に強い勢力の台風のような不可抗力とも思える自然災害であったとしても、そもそも建物の屋根等が、「非常に強い勢力の台風」レベルではなくとも「強風」レベルで剝がれて飛んでしまうような状況であれば、「瑕疵」があると認定され、土地工作物責任が肯定されるのです。
今回の相談事例で、仮に、飛来物が介護施設の屋根の一部であり、この屋根が今にも剥がれそうに老朽化していた場合や、風の強い日に実際に剥がれ落ちたことがあるような場合であれば、土地工作物責任は免れないでしょう。
弁護士法人かなめ代表弁護士。29歳で法律事務所を設立。 現在、大阪、東京、福岡に事務所を構える。顧問サービス『かなめねっと』は35都道府県に普及中。 福祉特化型弁護士。特化している分野は、介護事業所・障害事業所・幼保事業所に対するリーガルサポート、労働トラブル対応、行政対応、経営者支援。 無料で誰も学べる環境を作るためYouTubeチャンネル『弁護士法人かなめ - 公式YouTubeチャンネル』を運営中。https://www.youtube.com/@kaname-law テキストで学びたい人向けに法律メディアサイト『かなめ介護研究会』も運営中。 https://kaname-law.com/care-media/