目的・目標の明確化で看護師が定着するステーションへ―理論に基づく訪問看護経営(7)

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前回は、優れたチームづくりに役立つGRPIというフレームワークをご紹介しました。

今回は、人材を定着させ、円滑な情報共有によってケアの質を高めた結果、関係機関からの信頼を得て売上を高める―という好循環を目指すため、GRPIモデルを構成するそれぞれの要素について詳しく説明します。具体的に状況を改善していくステップを一つずつ考えていきましょう。

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チームの「Goal(目的・目標)」は明確になっているか?

まず、最も大切な要素が『目的・目標(Goal)が明確になっている』ということです。

前回、訪問看護ステーションの職員からよく上がる不満の一例として「管理者や経営者は訪問件数を多くすることしか考えておらず、訪問看護として何をしたいのかが分からない」という声を挙げました。この様な不満は『目的・目標(Goal)が不明確さ』に起因していると考えられます。それでは、どうしたら目的・目標(Goal)が不明確では無くなり、こういった不満や不和を防ぐ事ができるのでしょうか。

経営者の方に「会社の目的・目標(Goal)が明確になっていますか?」と問いかけた際に「文章化して職員全員にその文章を読ませています」「事業所に張り出してあり、朝礼で毎朝読み上げているので全員が目的を言う事ができます」等の回答をいただく事があります。しかし、その内容を、職員は自分ごととして理解し、行動の指針とまで落とし込めているのでしょうか。言い換えれば、職員たち自身が足元の目標を達成していくことで、チームの目的・目標(Goal)に近づく事ができるのだと感じられているでしょうか。目指すべきは、会社の目的・目標がただ言語化されている、明示されているということではありません。組織に所属している全員が目標を明確に捉え、日々の言動の中で自然に出てくるという状態です。そのような状態が実現できれば、「何がしたいのか分からない」といった不満や不和を防ぐ事ができます。

職員一人ひとりが組織の目的・目標に納得して取り組むための働き掛けを

では、実際にどうやってその状態を実現するかですが、目的・目標を浸透させるため、接触頻度を増やして刷り込みをするのは有効な手法です。前述の経営者の方のように文章化、言語化して繰り返し触れる機会を作るのも一つの手段でしょう。それに加えて、経営者・管理者が自身の言葉で目的・目標が意味する内容を語り、真に理解を促すような対話の機会を持つこと、職員から疑問が出たらいかに小さなものであっても納得するまで話すことがとても重要です。1on1等の機会を活用するのも良いと思います。

また、組織として日々追いかける目標を設定することは、訪問看護をという事業の先にある目的の到達に向けたスモールステップであるという理解も重要です。そして、事業所全体、職員一人一人に対して設定されている目標をそれぞれが達成可能だと考え、かつその目標を達成したいと考えている事が必須です。ですので、目標設定の際には一人一人に対して、何故その目標を達成する必要があるのか、目標達成することでいかに組織やチームの目的・目標(Goal)に近づく事ができるかを納得してもらえるまで説明を重ねていくことが重要です。目標が腹落ちしていれば職員は自ら目標達成に向けて具体的な行動を起こす様になるでしょう。

まとめると、チームの目的・目標(Goal)が明確になっている場合には、具体的には下記の様な状態であると考えられます。

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そして、『目的・目標(Goal)が明確になっている』状態になるためには、目的・目標(Goal)の言語化や明文化だけではなく、経営者・管理者が職員一人一人と丁寧にコミュニケーションを持って理解を促していくことが重要だと言えます。

以前も触れましたが、大前提として自社の目指す目的・目標(Goal)に共感し、価値観を共有できる人を採用し、そうではない人は採用すべきでないということも書き添えておきます。

今回は、GRPIモデルで最も重要な『目的・目標(Goal)』が明確になっているという状態をどの様にして作っていくかについて説明をいたしました。チームと個人の目的・目標(Goal)が明確になり、全員が前向きに目的・目標(Goal)達成に取り組んでいる状態は、職員の仕事への意欲が高く従業員満足も高い状態であると考えられます。次回は、『Roles(役割)』『Process(段取り)』『Interpersonal Relationship(人間関係)』について詳しく説明をしていきたいと思います。

参考文献

• Beckhard, R. (1972). Optimizing Team Building Effort. Journal of Contemporary Business, 1(3), 23‒32.

• Steve Raue, Suk-Han Tang, Christian Weiland and Claas Wenzlik.(2013). The GRPI model ‒ an approach for team development

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