前回までの3回を通して、従業員満足と利益の獲得を同時に達成するサービスプロフィットチェーンを実現するための「採用」について説明をしてきました。これは自社の目指す方向性や目的に合う人材を獲得するというステップです。
今回は、こうして獲得した人材が組織内で活躍できるような「組織づくり」について、GRPIというフレームワークをご紹介いたします。GRPIモデルは以前にこちらのコラムでも取り上げていますが、今回はより具体的に説明をしていきたいと思います。
GRPIモデルとは、組織開発のコンサルタントであり、MITで教鞭を執っていたリチャード・ベックハードが1972年に発表した論文で紹介されています。
ベックハードによれば、良いチームでは『目的・目標(Goal)が明確』『役割(Roles)が明確』『段取り(Process)が明確』『人間関係(Interpersonal Relationship)が良好』の4つの条件が揃っているそうです。それぞれの英単語の頭文字をとって、GRPI(グリッピィ)モデルと呼ばれています。現在では、この4つの質問について考えることで組織やチームの状況がどのようになっているかの診断に活用されています。
訪問看護ステーションで起こりがちな問題は、やはり人間関係の悪さに起因する様々な衝突や問題なのでは無いでしょうか。離職理由でも人間関係の悪さをあげられる方は多くいらっしゃるように感じます。せっかく採用した人材が人間関係の悪さによってすぐに離職してしまえば、また採用をしなくてはなりません。これでは、なかなか経営は安定しません。また、人間関係が悪いことによって職員間の情報共有がうまくいかなければ、利用者のケアにも問題が起こり、関係機関からの信頼を損なってしまうでしょう。
こうなると、以前のコラムでもご説明した通り、業績の低下に繋がる悪い循環に陥ってしまう可能性があります。
それでは、なぜこのように人間関係が悪くなってしまうのでしょうか。
看護師は気が強いから、性格の悪い意地悪な職員がいるから、職員間に互いを尊重し思いやるような雰囲気がないから…等様々な理由を挙げられる方もいらっしゃいます。しかし、このような状態にある訪問看護ステーションでは、人が入れ変わっても常に人間関係が悪く、状況が全く改善しないということが往々にしてあります。
チーム内でいざこざが起こった時に、まずはその原因を人間関係の悪さに求めがちです。
しかし、ティシーはチーム内で衝突が起こっている際の原因を調査したところ、その80%は『目的・目標(Goal)の不明確さ』が原因で起こっているということを明らかにしました。衝突が起きる原因では『役割(Roles)の不明確さ』が16%、『段取り(Process)の不明確さ』が3.2%とあり、注目されがちな『人間関係(Interpersonal Relationship)』自体に起因するチーム内の衝突は0.4%に過ぎないという事が分かっています。
つまり「人間関係が悪いからチーム内で衝突が起こっている」ように見えても、実際には『目的・目標(Goal)の不明確さ』等が原因となってチーム内に衝突が起こり、人間関係も悪化している例が多いのではないかと考えることができます。
例えば、看護師さんたちから「管理者や経営者は訪問件数を多くすることしか考えておらず、訪問看護として何をしたいのかが分からない」、「管理者が意地悪で、私ばかり大変な役回りをさせられている」、「契約や事務仕事を教えてもらっていないし、マニュアルも無いのにちゃんとやっていないと先輩看護師から怒られる」といった不満をよく耳にするのではないでしょうか。これらについて、個人に対する不満以外の要素に注目してみましょう。すると、「何をしたいのかが分からない」=『目的の不明確さ』、「私ばかり大変な役回りをさせられている」=『役割の不明確さ』、「契約や事務仕事を教えてもらっていないし、マニュアルも無い」=『段取りの不明確さ』があることが見えてきます。つまり、この不明確さを解消しない限りはいくら人間関係を改善しようとしても次から次に不満というのは生まれ続けるという構造になっているのです。
それでは、どうしたら人間関係を改善して、人材が定着し、情報共有もスムーズになって関係機関からの信頼を得て、売上を高めるという好循環を生み出すことができるのでしょうか。
次回は、GRPIモデルを構成するそれぞれの要素について詳しく説明して、状況を改善していくための具体策を説明していきたいと思います。
• Beckhard, R. (1972). Optimizing Team Building Effort. Journal of Contemporary Business, 1(3), 23‒32.
• Steve Raue, Suk-Han Tang, Christian Weiland and Claas Wenzlik.(2013). The GRPI model ‒ an approach for team development
(つるがやまさこ)合同会社manabico代表。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修等の仕組みづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。 【合同会社manabico HP】https://manabico.com※プロフィールは記事配信当時の情報です