東京商工リサーチの調査結果によると、2022年の上半期はコロナ禍のあおりを受け、介護報酬の改定やコロナ関連支援策で一度は減少していた介護事業の倒産が本格的に増加するようです。
倒産が増加傾向になれば、倒産する前にM&Aで売却をしようとする動きが介護事業者の間でも活発になってきます。
介護事業所における最大のリスクは人手不足です。人手不足を解消できなければ、事業継続や拡大させることは難しくなります。
人手不足解消の手段の一つとして、M&Aの利用を考える介護事業経営者が増えてきてもおかしくありません。
インターネットで検索すれば、介護事業所のM&A案件の情報がたくさんヒットします。売却希望価格が無償という案件もチラホラ目につきます。
無償譲渡を希望する理由に考えを巡らすと、債務超過状態で、倒産に伴う自己破産を避けたいという介護事業経営者の事情が想像できます。また、、後継者難に直面している高齢の経営者が、利用者のための事業継続を一番の望みとしているために「無償譲渡してもかまわない」と考えているのかもしれません。いずれにせよ、介護事業所のM&Aが今後、より増加していくことは容易に予想がつきます。
介護事業所で働くためには、資格や専門性が求められるため、他の業種よりも人手不足は深刻なものになります。介護事業所をM&Aすることで、資格や専門性をもった即戦力人材を手に入れることができます。M&Aで介護スタッフ数が増加すれば、人事異動が容易になり、スタッフの最適配置が可能となります。スタッフ数が充実することで、休日数の確保やスタッフ教育時間の確保にも繋がります。
M&Aでマネジメント層や若年層の補強ができたのならば、能力が高い人材を後継者候補として処遇することが可能になります。
他方、能力が高くない人材が手に入る可能性もあります。事前に、能力に見合った仕事と処遇を可視化しておくことで、適正な処遇ができるように準備しておくことが大切です。介護事業所内のすべての業務を洗い出し、能力が高くないスタッフでもできる仕事を切り出すことができれば、そのスタッフの価値が高まります。M&Aにより組織が大きくなることで、仕事の切り出し作業もらくになってきます。
いずれにせよ、スタッフ数の確保によってM&Aに拍車をかけることもできるため、介護事業所の成長スピードが加速し、未来は大きく変わります。
デューデリジェンス(DD)とは、M&Aや出資の際に行われる、対象企業に対する事前調査です。
このうち、人事DDとは、企業の労務管理状況や給与、退職金などを事前に調査し、リスクを可視化することです。また、組織文化やスタッフの能力などを調査することもあります。
例えば、買収先の介護事業所の労務管理状況が悪かった場合に、どのようなリスクがあるか想像してみてください。
●労働基準法などが守られておらず、労働基準監督署より是正を受ける。 ●サービス残業させられたとして、退職したスタッフから未払残業代請求を受ける。 ●ハラスメントを受けたと、スタッフから法人に対して損害賠償請求される。 ●人事制度や組織風土の違いが大きく、退職者が続出する。
など、さまざまなリスクが考えられます。
M&Aの後にこれらのリスクが顕在化すれば、企業価値は下がってしまいます。このような未来を避けたいのであれば、人事DDをM&Aの実施前にすべきです。
しかしながら、財務DDはするが、人事DDはしない会社も多く存在しています。
一般的に会計帳簿を見れば、資産や負債の現状が分かります。M&Aでは会計帳簿は重要視されるので、粉飾がないか調べることは当たり前です。
一方で、人事に関することは、会計帳簿には給与や福利厚生費程度しか記載されていません。だから、ついつい人事DDを軽視してしまうことが多いのです。さらに、人事DDを実施すれば費用が発生します。人事DDの費用とリスク発生可能性を検討して、少々のリスクには目をつむるといった選択もあります。
あなたならどのような選択をしますか。
人事DDにおいて、買収先の企業が労働基準法などの労働関係諸法令違反をしていなければ、リスクが低いと判断できます。
労働関係諸法令の違反をチェックすることは、労務監査、労務DD、経営労務診断などさまざまな名称で呼ばれています。全国社会保険労務士会連合会では、社労士診断認証制度として、広く世の中にアピールをはじめています。
労働関係諸法令のチェックでも、どこまで深くチェックするかで時間も費用も大きく変わってきます。
例えば私が労務監査するときは、信頼のおける専用システムを用いて実施します。450を超える診断項目でチェックをすることで、組織全体を可視化できます。診断結果から、法令違反があり、且つ、罰則がある項目を抽出します。
これらの項目によって、M&A後にトラブルを引き起こす要素を把握することができます。M&Aの前にこれらのリスクを可視化することで、主導的な価格交渉を進めることができます。
実は会計帳簿からは読み取ることができない、人事に関する4つの簿外債務があることを知っていますか。
具体的には、以下に列挙します。
【1】未払給与 【2】未払社会保険料 【3】未払退職金 【4】助成金不正受給
主な発生要因は、残業時間の集計方法間違いによるものです。そのほかに、残業単価の計算間違いなどがあります。これら以外に、数多くの未払給与発生原因が存在しています。
主に非正規スタッフの管理状況が良くないときに未払社会保険料が発生します。特に、2022年10月以降、パートタイマーやアルバイトの社会保険適用基準が変更されています。法改正に適切に対応できていないと、遡って社会保険を適用しなければならないこともあります。
退職金制度は、法律で義務化されていません。しかしながら、退職金制度が明文化されていなくても、労使慣行によっては、退職スタッフに退職金受給権が発生することがあります。そのほか、退職金の運用に瑕疵があるようなときにも、未払退職金が発生します。
コロナ禍で雇用調整助成金を利用した介護事業所は多いはずです。すでに助成金を受給していても、不正受給と判断されれば返還する必要があります。さらにさまざまなペナルティも受けなければなりません。マスコミ報道されることも多く、企業の信用が一発で吹き飛んでしまいます。
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Office SUGIYAMA グループ代表。採用定着士、特定社会保険労務士、行政書士。1967年愛知県岡崎市生まれ。勤務先の倒産を機に宮崎県で創業。20名近くのスタッフを有し、採用定着から退職マネジメントに至るまで、日本各地の人事を一気通貫にサポートする。HRテックを精力的に推進し、クライアントのDX化支援に強みを持つ。著書は『「労務管理」の実務がまるごとわかる本(日本実業出版)』『新採用戦略ハンドブック(労働新聞社)』など