3月17日に社保審・介護保険部会による第8回文書負担軽減に関する専門委員会が開かれ、介護現場の文書負担の軽減に向けた議論が行われました。文書の簡素化・標準化に向けた取組みについて、実地指導の時期や勤務表の標準化などの5つの対応案が明確化されました。また、2022年度以降に取り組む3つの論点も提示されています。
本記事では各論点の概要と対応案をまとめていますので、文書負担軽減への取組みについて全体像の把握にお役立てください。
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介護現場が深刻な人手不足にある中、文書に関する業務負担が本来のケア業務を圧迫している状況が課題となっています。この状況を踏まえた当該審議会にて、指定申請・報酬請求・指導監査の関連文書について、「簡素化・標準化・ICTの活用」の視点での検討が進められています。
簡素化・標準化に関しては、5つの対応案と3つの今後の方向性が示されました。それぞれ、以下より詳しく解説していきます。
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人員交代に伴う頻繁な変更届の提出や、類似の文書の重複提出に関する負担が生じている状況を踏まえ、厚労省より以下の3つの対応案が示されました。
・運営規程や重要事項説明書に記載する従業員の「員数」において、人員基準を満たす範囲について「○○人以上」との記載が可能であることや、「従業者の職種、員数及び職務の内容」に関する変更の届出は、年1回で足りることを明確化する。
・変更届に添付を求める書類を標準化するため、別紙1「変更届出への標準添付書類(案)」のとおり整理する。
別紙1「変更届出への標準添付書類(案)」
・各種変更届は10日以内に届け出なければならないと定められているが、やむを得ない事情により遅延した場合などにおいては、遅延理由書の提出までは求めないことを周知する。
以上の3つの対応案について、専門家より賛成意見多数となったため、本年度にて対応されていく見込みです。
専門委員会では上記以外にも、変更届の頻度における負担軽減の意見がありました。民間介護事業推進委員会の山際淳委員からは、管理者・サービス提供責任者・ケアマネジャー・生活相談員などに、婚姻の関係による氏名変更や、住所変更があった場合に、自治体によっては変更届が必要になっており、負担になっているという指摘がありました。氏名や住所の変更の場合は、変更届を不要とするか、簡略化するか検討してほしい、と要望しています。
指定の更新申請にあたって、変更届を提出済の内容についても文書提出が必要である点や、書類の簡素化に関する自治体ごとのローカルルールがある現状を踏まえ、以下の2つの対応案が示されました。
・更新申請において変更がないときは、特段の事情がない限り、申請書の記載又は書類の提出を省略するよう通知等により指定権者に周知する。
・指定権者の対応状況やICT等の活用(介護サービス情報公表システムの改修によるウェブ入力・電子申請)を踏まえ、法制面の対応も検討する。
また、変更がないため提出を省略している書類であることが確認できるよう、添付書類リストを活用したチェックリストも併せて提示されています(活用は指定権者ごとの任意)。
併設事業所や、予防サービス、総合事業等、複数指定を受ける事業所に関して、文書や手続きの重複が指摘されている状況を踏まえ、類似書類の一本化に関する下記の対応案が示されました。
・既に指定権者に提出している書類について変更がないときは、それらの書類の提出を省略できることについて、通知等により周知する。
また、「複数のサービスの指定開始日が異なる場合、更新日を近い方にあわせて集約し、更新申請が6年に1度で済むようにする」案について、すでに弾力的な運用として対応可能と整理されています(2018年全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議より)。しかし、自治体によって対応の有無に差異があるため、改めて通知等により周知していく方向性が示されました。
都道府県と市町村のように、指定権者が異なる場合に同様の書類を求められるケースについては、重複提出の解消に向け、ICT等の活用とともに検討していきます。
厚労省は全サービスの参考様式を作成し、2020年9月30日に取扱いに関する事務連絡を発出。その後、同年11月末までに各事業所や自治体から意見を収集しています。
当該事務連絡において、「必要項目を満たしていれば、各事業所で使用するシフト表等の提出により代替することで可能とする」と示していましたが、この取扱いに関し、必要項目とは何かを明確にするべきとの意見が寄せられました。
これを踏まえ、本専門委員会にて、必要項目の明確化を図る対応案が示されました。併せて、さらなる見直しを実施した新たな様式例(別紙2「勤務一覧新様式」)が提示されています。
別紙2「勤務一覧新様式」
新たに提示された様式例については、短時間制度を利用した場合週30時間以上で常勤扱いとなるケースや、複数の非常勤職員で代替できるケースなど、換算方法が複雑化することに対して、記載方法がわかりやすいよう、記載例を明示するなどの対応を求める意見があがりました。
実地指導の効率的な実施を促進する観点から、実地指導マニュアルを改定し、さらなる標準化・効率化を推進することや、指導形態を見直し、事業所の運営状況によって頻度にメリハリを付けるといった対応案が示されました。具体的には、以下の3つの内容です。
・標準確認項目・標準確認文書の活用、自治体がすでに保有している文書の活用、PC画面での確認等を徹底し、実地指導の効率化をさらに推進していく
・具体的な指導内容についても、実地でしか確認できない事項に限定する
・指導形態(集団指導や実地指導、自己点検など)についても適宜見直しを行う
これらを踏まえ、一律に何年に1回以上などといった目安を示すのではなく、個々の事業所の運営状況を踏まえ、メリハリのある実地指導を実施していく方向性を示しました。
また、老人福祉施設の監査の頻度(毎年1回)については、社会福祉法人監査の頻度と整合性を図り、適正な施設運営が確保されている場合には、原則として3年に1回へ緩和する対応案も併せて提示されました。
ここまでの5つの論点(変更届の頻度・更新申請の簡素化・併設事業所や複数指定を受ける事業所の簡素化・勤務表の様式例・実地指導の時期)に関し、概ね賛成意見となったため、本年度より対応案に沿った取組みが進められる見込みです。
以下の3つの論点については、2022年度以降の検討の方向性が議論されました。
①総合事業の様式例の整備
総合事業の様式例が存在しない点や、地域ごとのばらつきがある状況を踏まえ、従前相当サービスとサービスAに関して、「変更」に係る様式例を作成し、整備する方向性が示されました。
②加算の添付書類に関する様式例の整備
各種加算の添付書類が明確に定められてない現状を踏まえ、2021年度介護報酬改定の結果も踏まえながら整理し、各指定権者が求めている書類の実態を把握して、簡素化・標準化に向けて必要な対応を検討するとしています。
③ガイドライン等による効果的な周知方法
現状は通知等の発出を通じて、指定権者や事業所関係者への周知に活用していますが、指定申請や報酬請求に関し、不明確なルールや解釈の幅を少なくするため、ガイドラインやハンドブックがあると良いという意見があがっています。
厚労省は、2022年度からウェブ入力・電子申請を可能とするよう、2021年度にシステム改修を行う予定で、ウェブ入力・電子申請の実現後に、自治体や事業者からの意見を踏まえながら、最終的な簡素化・標準化の検討を行い、その結果を指定申請・報酬請求に関する運用指針(ガイドライン)としてとりまとめる、という方向性を示しました。
2021年度以降もさらに、簡素化・標準化に向けた取組みが加速していくことが期待されます。
引用:第8回社保審・介護保険部会「介護分野の文書に係る負担軽減について」より
理学療法士として回復期病院、リハ特化デイ施設長、訪問リハを経験後フリーライターとして独立。医療福祉、在宅起業、取材記事が得意。正確かつ丁寧な情報を発信します。