前回は、新任看護管理者の心構えを示すガイドラインとしてサーバント・リーダーシップ理論をご紹介しました。今回はケースを用いてサーバント・リーダーシップ理論がどのように訪問看護ステーションのマネジメントに活かせるのかをご紹介します。
<ケース>メンバーの能力を引き出すコミュニケーションの成果―新任管理者・山代の職場での評価
今回のケースも連載の4回目、6回目、8回目同様、新任の訪問看護管理者・山代さんが主人公です。
山代さんが着任した訪問看護ステーションでは、忙しさのあまり情報共有がまったく行われていませんでした。そこで、スタッフとの信頼関係を築き、風通しが良い職場を実現すべく、心理的安全性の高い職場環境作りや1on1の導入を進めています。
これまでの取組はスタッフにどのように評価されたかを確認し、山代さんのリーダーシップはどのように発揮され、どのような成果を収めたのかをみていきましょう。
ステーションの状況
以前は一人の利用者に対して訪問を担当する職員を固定する担当制を取っていた。その後、新しい常勤看護師を2人採用できたことをきっかけに、それぞれの利用者への訪問を全員で実施するチーム制に移行していた。
チーム制への移行と同時に、週に1回は全員でカンファレンスを実施して、気になる利用者の状況について情報共有や意見交換をする機会を設けることにした。
常勤看護師の高見(立ち上げ時からのメンバー)の話
最初はこんな若い人で大丈夫なのかなって思っていました。けれど、チーム制導入をきっかけに、前向きにやっていけるようになりました。山代さんは、チームで看護をする意義について、「ベテラン看護師の看護を若手が学んで成長していくことで、ステーション全体としての質を高めたい」と熱心に説明をしてくれました。山代さんの熱意に、それなら私も看護師人生の集大成として、若手に今までの自分の経験や知識を伝えていこうと思ってやっています。
常勤看護師の鈴木の話
山代さんは、本当によく気がつく人なのでいつも助かっています。
例えば、訪問が長引いちゃって後の訪問に遅れそうな時に、山代さんに相談したら「後の利用者には私が説明しておくので、鈴木さんは焦らずに気をつけて移動してくださいね」って言って代わりに電話をしてくれたり。「私は他の人よりも事務所にいる時間が長いから、事務所のことは任せてください!」と本当に些細なプリンターの用紙の補充とか、備品の管理とかまで細々したことをやってくれています。
でも、山代さんも管理者業務とかで忙しいだろうからって、他の看護師とも相談してそういう雑務はみんなで持ち回りの担当制にしてやろうってことにしました。
パート看護師の石原の話
子どもの体調が悪くって休みがちになっちゃった時に、もうこれ以上迷惑をかけられないので辞めますって言ったんです。その時に山代さんは家庭のことも含めてじっくり話を聞いてくれて「家族のことを大切にしている石原さんだからこそできる看護があると思います。ステーションには石原さんが必要です」って言ってくれたんです。
そう言ってもらって嬉しかったですし、山代さんのそういう看護観ってすごく素敵だなと感じました。
新人常勤看護師の川上の話
最初は、ちょっと怖いなって思っていました。でも、1on1を続けているうちに、こうやって振り返りすれば良いんだなと分かってきて、今は一つひとつできることが増えて来ていると自信を持てるようになりました。
他の先輩方に比べたら看護師としてはまだまだですけど、PC作業とか私が得意なことでステーションの役に立てればと思っています。
新人常勤看護師の遠藤の話
山代さんはよく話を聞いてくれます。
私は他の訪看での経験もあるので、入社してすぐは以前までのやり方で仕事をしたりもしました。そんな時にも怒らずに、何で私がそうしたかをちゃんと聞いてくれるんです。それも責めるとかじゃなくて、良かれと思ってやったことというのをちゃんと汲んでくれて、高見さんとか他のメンバーにもそういう風に伝えてくれるみたいで。すごく助かっています。
山代管理者のリーダーシップスタイルが評価される理由
山代さんの管理者としての仕事の進め方は、全てを理解・把握して指示命令をして物事を進めていくようなピラミッド型組織でのリーダーシップではありません。
看護師さんたちが語る評価からは、それぞれが違った形で山代さんを信頼し、自らステーション内で良い働きをしようとし始めていることが分かります。
これは、まさに『フォロワーに尽くすことで信頼され人々が自ら動いていくように導く存在』というサーバント・リーダーシップが発揮されている状態です。
山代さんは看護師としての卓越した技能や権力でメンバーを率いたのではなく、皆が働きやすいようにステーションの雑務を率先して行い、それぞれの些細な希望や不安にも向き合い対話を続けたことで信頼を得て、メンバーの自発的な行動を引き出しました。
このようなリーダーのあり方は、ニーズの多様性や変化の多い在宅ケアの現場で働く人々の能力を引き出し、柔軟な対応のできるチームづくりにつながります。
また、自分より年上であったり、経験豊富であったりするスタッフを取りまとめる立場の方にも、おすすめのスタイルです。

メンバーを引っ張るだけがリーダーシップではない
訪問看護の管理者はステーションの目標達成のため、集団に影響を与える必要があります。リーダーシップというと、メンバーを力強く引っ張っていく姿を思い浮かべがちですが、今回ご紹介したようにスタッフを支えることで発揮できるリーダーシップもあります。
日々の良質なサービスの積み重ねで地域からの信頼を得て、利用者へのサービス提供を長く続け、従業員の雇用を守ることができる訪問看護ステーションとするために、その時の自身や周囲の状況に合わせて、どのようなリーダーシップスタイルが良いのかと考えてみてはいかがでしょうか。
参考文献
ロバート・K・グリーンリーフ著 金井壽宏監訳 金井真弓訳(2008)『サーバントリーダーシップ』英知出版
スティーブンP. ロビンス著 髙木晴夫訳(2009)『【新版】組織行動のマネジメントー入門から実戦へ』,256頁,ダイヤモンド社
ロバート・L・カッツ著 ハーバード・ビジネス・レビュー編集部訳(1982)「スキル・アプローチによる優秀な管理者への道」『ハーバードビジネス 1982年6月』ダイヤモンド社