【2024年度介護報酬改定】安定供給揺らぐ訪問介護―人員不足と中山間地域の長時間移動が2大課題に

2023.07.28
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訪問介護事業では有効求人倍率が過去最高値となり、職員の高齢化も進むなど人材確保が事業継続する上での深刻な課題となっています。また、訪問先までの移動時間が長いためにサービス提供を断った事業所が存在するなど、特に中山間部などの地方では訪問介護の安定したサービス供給の基盤が揺らいでいることが伺えます。

7月24日の社会保障審議会・介護給付費分科会では地域性の違いを報酬体系に反映させる新たな枠組みの構築や長時間移動に対する金銭的な補償を求める声も目立ちました。

2024年度介護報酬改定に向け、人材不足への対応と地方でのサービス提供をどう考えるかは訪問介護の2大テーマといえそうです。

*関連記事:【2024年度介護報酬改定】居宅介護支援(ケアマネジメント)を巡る見直しポイントは?最新の検討項目まとめ

目次
訪問系サービスの2024年度改定に向けた検討がスタート
中山間地域の訪問介護の移動時間を報酬上どう扱うか
移動時間の長さ理由にサービス提供断る事例も
訪問介護員不足の深刻化もサービス提供体制の格差に
中山間地域の「移動時間等を踏まえた介護報酬等の見直し」は年度内に結論

訪問系サービスの2024年度改定に向けた検討がスタート

本分科会では訪問系サービスの報酬体系が議題となり、厚生労働省は以下のサービス種別について意見を求めました。

  • 訪問介護
  • 訪問入浴介護
  • 訪問看護
  • 訪問リハビリテーション
  • 居宅療養管理指導
  • 居宅介護支援
  • 福祉用具・住宅改修

ここからは訪問介護について、意見が集中したポイントを整理します。

厚労省が訪問介護について示した今回の「論点」は、「需要が増加する一方で、訪問介護員の不足感が強い状況である中、利用者の状態に応じて必要となるサービスを安定的に提供するために、どのような方策が考えられるか」です。

中山間地域の訪問介護の移動時間を報酬上どう扱うか

まず、訪問介護を安定的に提供するための重要な課題として、地域差を報酬上どのように扱うかに焦点となりつつあります。

厚労省はこの問題の検討にあたり、全国町村会による「地方分権改革に関する提案」(令和4年)を提示しました。中山間地域では利用者宅が点在し事業所からの移動距離や時間が長くなるため、「介護報酬における移動時間の取扱いの明確化、報酬の算定方法など既存の介護報酬単価の見直し等を求める」ものです。

(【画像】第220回社会保障審議会介護給付費分科会 資料1より(以下・同様))

「地域によっては特別地域加算や中山間地域等における小規模時評所加算が該当しない例もある」などとして、米本正明委員(全国町村会行政委員会)は、地域の実情に応じた方策を求めました。

移動時間の長さ理由にサービス提供断る事例も

訪問介護の安定したサービス供給が揺らいでいることを伺わせるデータとして、この日、厚労省は、訪問介護事業者が「ケアマネから紹介のあった方へのサービス提供を断った理由」も紹介しています。これによると、「訪問先までの移動時間が長く対応が難しかったため」という回答は27.3%ありました。

地域性に着目した意見としては、民間介護事業推進委員会の稲葉雅之委員が、「社会保険方式である以上、共通したサービス形態を目指すことは理解できる」と前置きしつつも、「地方においては、それぞれの地域の実情を踏まえながらサービスの類型そのものを変えて行く必要があるのではないか」と、全国一律ではない新たな報酬体系の形を提案しました。

また、全国市長会の長内繁樹委員は、「昨今のエネルギー価格の高騰のために訪問介護にかかるコストが膨らみ、経営状況を圧迫している声もある。安定的なサービス提供に向け、物価高騰に対し迅速かつ柔軟に対応できるための支援措置を講じてほしい」と陳述しています。

他にも複数の委員から、移動時間を適正に評価する報酬の設計を求める声がありました。

訪問介護員不足の深刻化もサービス提供体制の格差に

本分科会では、過去最高となった訪問介護員の有効求人倍率(15.53倍)にも象徴されるように、職種間や施設サービスと比べてもはるかに深刻な人手不足への対応も論点となりました。

厚労省の提示した最新の調査結果では、訪問介護員の平均年齢は54.4歳と介護関連職種の中でも最高年齢を記録。65歳以上の人員が24.4%を占める現状から、著しい人手不足が今後も加速する見通しを示しています。

サービス事業所の存続が危ぶまれるような現状に対し、「賃金アップは不可欠。基本報酬の増額の検討を」(全国老人福祉施設協議会の古谷忠之委員)との意見をはじめ、報酬体系の見直しや処遇改善を求める声が相次ぎました。

さらに日本慢性期医療協会の田中志子委員は、人材の高齢化が顕著である現状について「山間部では高齢のために訪問時の運転に支障が出ている事例や、本人の(運転への)自信が無くて遠い居宅へ訪問に出られないケースも増えている」と指摘。職員の腰痛や疾患への配慮も必要になるなど、「報酬面のみならず今後の対策を考える必要がある」との見解を示しました。

中山間地域の「移動時間等を踏まえた介護報酬等の見直し」は年度内に結論

地方からの要望を受けた中山間地域等における訪問介護員らの「移動時間等を踏まえた介護報酬等の見直し」は、2023年度中に結論を得て、必要な措置を講じることがすでに閣議決定事項となっています(22年12月20日)。

今後の分科会で、厚労省からの具体的な提案が出てくる可能性もありますので引き続き動向をチェックしていきましょう。

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