2021年度介護報酬改定審議も終盤を迎え、12月中には審議も終了して改定率も出される。今回の介護報酬改定審議は、コロナ禍の影響もあって、2040年を見据えた改定というより、介護保険法施行後の20年を総括するような改定審議であったと思う。すべての介護サービスにおける加算、減算などの検証が行われ、指定基準も見直される。その中で、大きな議論に発展したものが、訪問看護での人員基準の見直しと通所リハビリテーションでの月額包括報酬化である。
訪問看護においては、前回の2018年度改定から、理学療法士等のサービスについて規制が強化されていた。理学療法士等によるサービスの利用者に対しては看護職員が3月に一度の頻度で居宅訪問することが義務化され、その計画策定においても看護職員の関与が必要となっている。前々回の介護報酬改定でも、訪問看護の理学療法士等によるサービスは訪問リハビリテーションと同等のサービスであるとして、介護報酬単位が同一となった経緯もある。すなわち、訪問看護の理学療法士等によるサービスは何らかの形で毎回、審議の論点に挙げられていたことになる。
そして、今回の介護給付費分科会での審議である。問題視されたのは、訪問看護ステーションで看護職員は全体の20%程度の配置で、80%は理学療法士等の職員で占められている事業所が増加傾向にあるとの指摘である。その対応策として、訪問看護の人員基準において、看護職の割合を60%以上とする改定案を厚生労働省は審議にかけた。この60%という基準は、診療報酬における機能強化型訪問看護管理療養費の基準がベースになっている。
これに対して、リハビリテーション専門職団体協議会(日本作業療法士協会、日本理学療法士協会、日本言語聴覚士協会)は、介護保険利用者だけでも約8万人がサービスを受けることができなくなり、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士は約5千人が雇用を失うとして、反対の署名活動を開始した。また、国会の衆議院厚生労働委員会においても問題として取り上げられている。
その副産物として、理学療法士等による新たな訪問リハビリテーション・サービスの創設という議論も出始めている。この点については、日本医師会などを中心に反対の意見が多く、これまで表面化しなかった論点である。今回の審議を契機として、これまでタブー視されてきたこの論点で活発な意見が出されるのは良い方向と言える。
この規制強化の方向は、フランチャイズ系列による理学療法士等を中心とした訪問看護ステーションの拠点拡大が目立ってきたことも要因の一つと思われる。しかし、一番の問題として、単に理学療法士等を中心としたサービスだから規制との方向が正しいのか、という議論が必要だろう。この形態の訪問看護サービスが増えているということは、利用者のニーズがあることに他ならない。また、要支援から訪問でのリハビリテーションを受けることで、介護予防となり、重度化を防ぐことができるのであれば、それは即ち将来の介護給付費増加への効果的な対策となっていることを見落としてはいないか。
確かに訪問看護での理学療法士等の立ち位置は、看護職員の補完的な立場であって、訪問リハビリテーションではない。介護給付費分科会での審議で、なぜ訪問看護での理学療法士等によるリハビリテーションがダメなのか、その根拠を示して欲しいとの意見も出たが正論であろう。この点については、理学療法士等による新たな訪問リハビリテーション・サービスの創設という観点からも、今後の推移を注目していきたい。
次に、通所リハビリテーションでの月額包括報酬化である。厚生労働省は、次期介護報酬改定において、通所リハビリテーションの基本報酬を、従来の一回当たりの報酬区分に加えて、月額包括報酬を選択できる仕組みを導入することを審議の壇上に上げた。さらに、その月額包括報酬は、介護老人保健施設の基本報酬の如く、3段階の報酬区分として、以下の4つの視点からのポイントを積み上げて、算定区分が決まるとした。
①心身機能・活動・参加に資する維持・改善等の取組状況
②リハビリテーション・マネジメント加算Ⅱ以上及び認知症短期集中リハビリテーション・マネジメント実施加算の算定率
③リハビリテーション専門職等の配置状況
④中重度者・認知症者の受入状況
この原案が通った場合、将来的に月額包括報酬に一本化されるとも考えられ、その方向は通所介護等にも拡大される懸念がある。もともと厚生労働省は、在宅サービスの基本報酬を月額包括報酬化する方向を模索していた。いよいよその実現に向けて舵を取ったと考えるべきだ。
しかし、この月額包括報酬化には大きな問題点が存在する。この3つの報酬区分を決定する際の4つの視点に、明確なエビデンスが存在しないことや、他の加算の算定要件と重複する項目も有ることである。今回の論点は、今後のVISITやCHASEなどのデータベースの構築を待つべきで、その実施は3年先の次期介護報酬改定に先送りすべきとの意見も強く存在する。
私見では、通所リハビリテーションでの月額包括報酬化は、次期介護報酬改定に先送りされる公算が大きいとみている。しかし、在宅サービスの基本報酬を月額包括報酬化する方向に向けて舵を取ったことは事実である。この点についても、今後の推移を見守りたい。
今回の介護報酬改定の審議に当たって、強く語られているのが財政中立という言葉である。2021年度介護報酬改定はプラス改定の方向が見えていて、介護報酬改定審議に於いても、上位区分の新設や新しい加算の創設など、プラス改定を感じさせる論点が多数出されている。しかし、新設された上位区分は報酬単位が現状よりアップするのであるが、その原資は何かというと、既存の算定区分の報酬単位を引き下げて、上位区分に上乗せする手法を用いる。それが財政中立である。
小規模多機能型居宅介護は要介護1〜2の軽度者の基本報酬の引き上げが検討されているが、その原資は、重度者の報酬単位の引下げから捻出される。また、グループホーム等では、ケアマネジャーなどの配置基準の緩和が検討されている。これが実現すると、現在のユニット毎のケアマネジャーの配置が、事業所に1名の配置で足りる事になる。
しかし、これで人件費が削減できると喜ぶことはできない。まず、2ユニットで運営している場合、ケアマネジャーが1名余ることとなり、その1名をどうするかの問題が発生する。また、基本報酬は、基本的に経費の積み上げで決められているため、2ユニットの基本報酬からケアマネジャー1名の人件費相当分について、報酬単位が引き下げられる。
2021年度の介護報酬単位は、1月後半には答申される。2月以降にはQ&Aも発出される。多くの加算の算定要件が見直され、計画書等の様式も変更され、運営基準なども見直される。今回の介護報酬改定は、実務的には激震の大改定であると言える。
小濱介護経営事務所 代表。一般社団法人日本介護経営研究協会専務理事。一般社団法人介護経営研究会 専務理事。一般社団法人介護事業援護会理事。C-MAS 介護事業経営研究会最高顧問。