厚生労働省が毎月発表している一般職業紹介状況から産業別新規求人数をグラフ化してみると、医療・福祉業界の人材不足は他産業と比べて慢性的に深刻な状態にあることが見てとれます。
医療・福祉業界の求人数は全産業の25%を占めています。つまり、4件に1件が医療・福祉業界の求人ということになります。さらに、医療・福祉業界の求人の内訳は、社会保険・社会福祉・介護事業が約7割で、医療が3割です。
すなわち、介護事業における人手不足が非常に深刻であることが分かります。
(出典:一般職業紹介状況)
また、介護労働安定センター令和3年度「介護労働実態調査」結果の概要からは、介護事業所全体の人材の不足感は事業所全体で6割、訪問介護員では8割と高止まりしていることが分かります。
このような状態が続くと、多くの経営者や採用担当者は、『応募がないから来た人を雇わざるを得ない』と考え、どのような人が応募してきたとしても採用してしまう状況を肯定するようになります。
(出典:令和3年度「介護労働実態調査」結果の概要について )
一方、売り手市場にあることを理解している応募者は、自身に有利になるようにさまざまな条件を介護事業所に伝えてくることがあります。
このようなときに、応募者の言いなりになってその応募者のみに有利な労働条件を決めてしまうのは将来のトラブルの原因となります。筆者は、これを『いいなり採用』と呼んでいます。
ひとつでも自分に有利な条件を引き出すことができると、応募者が入社した後も、次々に自分の要求をぶつけてくるようになります。賃金や諸手当、勤務シフトや休日・休暇などの特別待遇の要求が多いようです。特に、勤務シフトや休日・休暇などをその職員の好き勝手にされてしまうと、職場のチームワークにも乱れが出てきてしまいます。
いいなり採用はこのように、介護事業所内にトラブルメーカーを生み出してしまいます。『会社が●●までしてくれると言っていた。なぜしてくれないんですか』『いま私が辞めたら、介護報酬が減額されるでしょう。だったら××してくれたっていいじゃないんですか?』などと詰め寄ってくる強者もいるようです。
いわばモンスター化した職員は、合同労組に入って条件闘争してくることもありました。他の職員を巻き込んで労働組合を結成して条件闘争してきたこともありました。
いずれにしろ、トラブルメーカーが動き回ることで職場の秩序は乱れ、会社は多くの時間とお金を浪費してしまうことになります。
初めから、『いいなり採用』をしないことで、介護事業所内にトラブルメーカーの発生を防ぎましょう。
求人をしても応募がないということは当たり前の現実です。人材不足感が高いために求人数は増え続けていくのに対し、失業者や転職希望者はそうそう増えないため、応募が集まらないのです。
なお、令和3年度「介護労働実態調査」の事業所調査の結果報告書からは、ハローワークからの紹介とリファラル採用がメインの採用ルートとなっています。採用ルートを工夫することは応募者の増加につながるため、いろいろとPDCAをまわすことが大切です。
【無期雇用職員の採用において利用した手段・媒体(複数回答)】
(出典:令和3年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査結果報告書)
『いいなり採用』を回避するためには、あらかじめ介護事業所として飲める条件と飲めない条件を明確にしておくことが重要です。そのうえで、応募者からの個別の要望について判断し、飲めない条件であれば、丁寧に理由を添えてお断りすることが最も大切です。
例えば、賃金・手当などの収入に関することと休日・休暇などの労働時間に関することの条件を明確
Office SUGIYAMA グループ代表。採用定着士、特定社会保険労務士、行政書士。1967年愛知県岡崎市生まれ。勤務先の倒産を機に宮崎県で創業。20名近くのスタッフを有し、採用定着から退職マネジメントに至るまで、日本各地の人事を一気通貫にサポートする。HRテックを精力的に推進し、クライアントのDX化支援に強みを持つ。著書は『「労務管理」の実務がまるごとわかる本(日本実業出版)』『新採用戦略ハンドブック(労働新聞社)』など