2021年度介護報酬改定に向けた答申の内容【小濱道博氏解説】

2021.03.05
2024.09.27
目次
    1,事業者間の収入格差が拡がり、二極化が拡大する
      2,自立支援の強化とデータベースによる科学的介護の推進
        3,作成が義務化された業務継続計画(BCP)とは何か
          4,BCPではメンタルケアも重要な課題に
            5,BCPを人材育成、定着率向上につなげる

              1,事業者間の収入格差が拡がり、二極化が拡大する

              令和3年度介護報酬改定は、改定率が+0.7%と2期連続でのプラス改定となった。うち0.05%はコロナ禍対策として令和3年9月までの限定措置であるため、実質0.65%のプラス改定となる。予想していたとは言え、基本報酬の上げ幅は小さい。平成30年10月、消費税が増税された時と同程度のプラスと言える。訪問介護や訪問看護は1単位の上乗せである。通所リハビリテーション、介護保健施設 などは7単位から数十単位のアップであるが、これも一概には喜べない。通所リハビリテーションでは、リハビリテーションマネジメント加算が基本報酬に包括されたために、基本報酬単位が増額になっているに過ぎない。介護保険施設 でも、栄養マネジメント加算が基本報酬に包括された分がプラスとなったに過ぎない。

              さらに、サービス提供体制強化加算である。今回の改定で、新たな上位区分が設けられたことに伴って、従来の下位区分が統合された。それによって、従来の加算Ⅱの算定要件である「勤続3年以上の介護職が30%以上」の要件が、「勤続7年以上が30%以上」に変更されている。これによって、6単位/回の加算が算定できなくなる事業所が相当数出てくる。令和3年度介護報酬改定では、すべての事業者が一律で収入が0.7%あがる訳では無い。今回新設された上位区分の報酬を算定できる場合は増収となり、現状維持の場合は大きく減収となるのだ。事業者間の収入格差が拡がり、二極化が拡大する介護報酬改定だと言える。

              2,自立支援の強化とデータベースによる科学的介護の推進

              令和3年度介護報酬改定で注目すべきポイントは、自立支援の方向が鮮明になったことだ。リハビリテーション・機能訓練、口腔ケア、栄養改善の3点が大きくクローズアップされた。それに伴って、OT、PT、STといったセラピスト、管理栄養士、歯科衛生士の役割が明確となった。特に管理栄養士の役割が大きく拡大されている。これらのケアの質を向上させるためのエビデンスの構築を目的としたLIFEデータベース(現VISIT・CHASE、4月からはLIFEに統一)へのデータ提供が、この3つのキーワードに関連する加算の上位区分の要件として位置づけられた。

              さらには、新設の加算では、LIFEへのデータ提供が必須となっている。次回以降の介護報酬改定では、LIFEへのデータ提供が義務化となる可能性が高まった。懸案であったデーター提供のための入力業務は、記録ソフトを使うことで、日常業務で蓄積された情報を、データ提出に必要なCSVデータとして抽出して提出するだけとなった。あとは、LIFEから提供されるフィードバックデータを如何に有効に活用するかが重要な課題となるだろう。フィードバックデータをPDCAのマネジメントサイクルの中で有効に活用することで、ケアの質が向上し、利用者満足が向上するのであれば、それは大きな差別化に繋がる。しかし同時に、施設側は大きな設備投資を求められる。記録ソフトの購入 費用とWi-Fi環境の整備、タブレットなどの必要機材の確保である。これらは、第三次補正予算で強化された地域医療介護総合基金を活用したICTの導入支援補助金 などを活用して導入を進めるべきだ。

              3,作成が義務化された業務継続計画(BCP)とは何か

              今回の改定で、全ての介護サービスに義務化されるものに業務継続計画(BCP)がある。BCPの作成、研修、訓練が義務化された。BCPは中小企業庁が主導で進めている事業継続計画のことで、地震や台風などの自然災害によって電力・ガス・水道・インターネット等のインフラ環境や施設設備が損傷することになっても、早期に回復ができるように対策をまとめた計画書やマニュアルを指す。

              BCPは、インターネット等で簡単にコピペできるものではない。厚生労働省からは、すでに基本的なガイドラインやひな型が出されている。感染症BCPと自然災害BCPに分か別れて、施設サービス、通所サービス、訪問サービスに区分される。三3年間の経過措置があるが、たった3三年で全事業者が策定を終えるとはとても思えない。制度的に義務化すると言っても、BCPの壁は高く、その意味を知らずに策定する事業者も多いと思われる。実際、BCPを防災計画と勘違いしている経営者が多いが、それは誤りだ。BCPは防災より経営戦略の性格が強く、ただ策定すれば良いのではない。BCPは全社で取り組むもので、各部署の職員で検討しながら作る必要がある。そして年1一回は見直して精度をアップする。

              4,BCPではメンタルケアも重要な課題に

              介護事業のBCPは一般企業の策定プロセスとは異なる。なんと言っても、介護職は、被災者であると同時に支援者でもあることを忘れてはならない。そのため、職員の惨事被災ストレス、メンタルケア対策なども非常に重要になってくる。惨事ストレスとは、災害現場で支援者が感じるストレスや心身の変化のことで、災害現場で活動した人が、災害の惨状を見たことで傷ついた身体や心が回復しようとするときに起こる正常な反応だとされる。惨事ストレスの存在、病状やセルフケアの方法を知っていると回復が早まるとされ、このような知識の共有も重要となる。さらに感染症対策やコロナ対策など一般企業には無い要素を多く盛り込む。通所サービスに至っては、休業という要素を盛り込まないといけない。施設と訪問サービスは何があっても継続が前提である。しかし、通所は休業も選択肢とされる。ここに通所サービスの立ち位置が出ている。

              5,BCPを人材育成、定着率向上につなげる

              制度上で必要という面を抜きにしても、介護事業においては、でBCPについては早期に全体で取り組むべきだ。全社で取り組むことで、風通しの良い企業風土が醸成されて、定着率がアップし、良い人材が集まる。その作成過程で、職員を交えて活発な意見交換が行われ、自分たちの課題を共に解決する課程を共有することが重要なのだ。検討会議の課程で、自社の生き残り策を主体的に考えて戦略的に検討する中で、職員の帰属意識が高まる。その結果、平常時から取組むことで業務改善に繋がり、小さなリスクが現実化した場合も、事前の想定した準備が有効に機能する。

              また、事業承継を念頭においた場合には、後継者をメンバーの中心とすることで会社の事業と業務全体をが把握させることができる。そしてBCPの成功の鍵は、その施設、事業所の経営理念、クレドにある。利用者家族、職員、地域での自分たちの存在意義の明確化がしっかりとできていないと、中核事業の決定や重点業務の選択を誤ることになる。職員を育てるという側面でもBCPを全体で策定することは重要な役割を果たす。ただし、介護事業を理解して、その制度や通知を、ある程度理解していないとBCP策定は難しい。少なくとても、毎年、経営計画を作っていない事業者にはハードルが高いと言える。

              今回の介護報酬改定によって、介護保険制度は2000年から20年間続いた第1期を終えて、第2期に突入したといえる。令和3年度介護報酬改定では、次期令和6年度改定への布石が多数盛り込まれた改定となった。令和6年度改定は、6年に1度の診療報酬との同時改定であり、激変の改正となることが見込まれている。

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