10月30日、オンラインで第190回社保審・介護給付費分科会が開かれ、介護老人福祉施設についての論点と検討の方向性が示されました。その中からポイントを絞ってお伝えします。
今回の議論で最も注目すべきポイントは、厚労省が、個室ユニット型施設の1ユニットの定員を「概ね10人以下」から、「15人以下」に緩和するとを提案したことです。個室ユニット型施設のケアの質を維持しつつ、人材確保や職員定着を促すことを目的としています。
ユニット型特養への調査によると、現在、1ユニットの定員数は最大10人が86%を占めています。数は少ないものの、定員が15人以上の施設にヒアリングを行ったところ、定員が10人の施設よりも手厚い職員配置である傾向や、以下のようなメリットがあることがわかりました。
・個室での介助時に、別の職員による他の入居者の見守りがしやすい
・食事、移乗、排泄など人手がかかる介助がしやすい
・1ユニット内での職員の勤務シフトが組みやすい
・ベテランと新人を配置することで人材育成がしやすい
・入居者の急変時に助けを呼びやすい
デメリットとしては、手厚い職員配置による人件費率の高さや、一時的にユニットに職員が1人になった場合の負担の大きさなどが指摘されているものの、上記のようなメリットをもとに、15人以下への緩和が提案されています。委員からは、職員の業務過重や、個別ケアが難しくなるのではないかと懸念する意見があがりました。
ほかにも下記のような提案があり、こちらは特段、反対意見はありませんでした。
・ユニットリーダーについて、育児などやむを得ない場合には一時的に非常勤職員での代替を認めること、復帰の際には短時間勤務を認めること
・ユニット型個室的多床室の新たな設置を禁止すること
特別養護老人ホームの人員配置基準についても、厚労省から見直しの検討案が示されました。その背景には特養の人材不足があります。2019年の調査によると、57.7%の特養が「職員が不足している」と答えています。そのような状況を踏まえ、サービスの質の低下に留意しつつ、職員の兼務を認めてはどうかという提案がありました。
具体的には「従来型とユニット型を併設する場合における介護・看護職員」「広域型特養と併設する小規模多機能型居宅介護における管理者・看護職員」「本体施設が特養である場合のサテライト型居住施設における生活相談員」といった職員の兼務が想定されています。
兼務によりサービスの質を低下させないための努力が、現場には求められそうです。委員からは、職員が疲弊することにつながらないよう留意すべき、との指摘がありました。
特養の入居者割合として、要介護度3以上の中重度者が多く、「認知症高齢者の日常生活自立度」ランクⅢ以上の入所者の割合も増加傾向にあります。
特養における看取りのニーズが高まる中、看取り介護加算が議題にあがりました。2019年の調査によると、看取り介護加算を算定していない特養は34.4%。算定していない理由としては、「加算を算定する要件を満たすことが困難」が最も多くなっています。また、看取り対応を決定した時期は、半数近くが死亡日から31日以上前で、うち「死亡日から31日以上60日以内」が16.8%という結果が示されました。
ほかに、過去の分科会では、看取りにあたってソーシャルワーカーの関与を明確にし、それを評価すべきという意見もあがっています。これらの情報をもとに、特養での看取り対応を充実させるため、看取り介護加算についての検討が進みます。
また、重度者等の積極的な受け入れを評価してきた日常生活継続支援加算についても、入居者の要介護度が年々上昇していることなど踏まえて、加算の在り方が検討されています。
養介護施設従事者等による虐待件数、相談・通報件数は年々増加し、過去最多となりました。
現状、介護保険サービスでは、各運営基準において、高齢者虐待防止に関する規定がありません。そこで、障害福祉サービスにおける対応を踏まえて、虐待防止委員会の設置や責任者研修の受講など、高齢者虐待防止の体制強化に関する規定を設けてはどうか、という提案がありました。他の施設サービスや居宅サービスについても同様の検討が促されています。
全国老人保健施設協会の東委員は提案に賛同しつつも、現場の負担の大きさに懸念を示し、他の委員会との一体的な運営も可とするなどの検討を求めました。
引用:第190回社会保障審議会介護給付費分科会「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の報酬・基準について(検討の方向性)」より
※本記事は「介護マスト」から移行しており、記事は2020年11月6日掲載のものです。
ライター歴8年、介護業界取材歴5年。介護業界の経営者や現場責任者、介護関連施設への取材を重ねてきました。介護業界を支える皆さまの役に立つ情報発信を心がけています。