2024年6月7日、東京商工リサーチがセンセーショナルな記事を公表しました。『2024年1‐5月の「介護事業者」の倒産 72件に急増 上半期の過去最高を上回る、深刻な人手不足と物価高』
概要は以下の通りです。
(【画像】「2024年1‐5月の「介護事業者」の倒産 72件に急増 上半期の過去最高を上回る、深刻な人手不足と物価高」東京商工リサーチ2024/06/07より)
同社の記事では、介護事業者の経営環境が悪化している要因が複数指摘されています。 今回は、介護事業者が現在直面している課題を整理し、その課題を乗り越えて経営を安定させるための”仕組み化”のポイントと手順についてご提案します。
介護事業所が直面する課題の背景には、複雑で多岐にわたる要因が絡み合っています。それらを8つにまとめました。
まず、「人手不足」についての異論はないでしょう。 日本の高齢化が進む中で、介護職員の需要は急増していますが、供給はそれに追いついていません。介護職員の確保が難しく、既存の職員に対する負担が増加し、離職率が高まる悪循環が生じています。
また、昨今では「物価高騰」が介護事業所の経営を圧迫しています。 光熱費や消耗品の価格が上昇する中で、多くの事業所はコスト削減に苦慮しています。特に小規模な事業所では、こうしたコスト増加が直ちに経営に深刻な影響を及ぼします。事業所が自主的にサービス価格を調整できないことも、経営を圧迫する要因となっています。
他業界と比較したときの「賃金格差」の問題も重要です。 介護職は社会的に重要な役割を担っていますが、その労働条件や賃金は他の職種に比べて低いことが多いです。この賃金格差が介護職員のモチベーションを低下させ、長期的なキャリア形成を困難にしています。賃金が低いままでは、優秀な人材が他の職種に流出してしまい、結果として人手不足がさらに深刻化します。
「過重な業務負担」も介護職員にとって大きな課題です。 介護現場は常に人手不足に悩まされており、一人当たりの労働負担が過剰になりがちです。これにより、職員の疲労が蓄積し、離職率が高まります。過重労働はサービスの質を低下させる原因ともなり、利用者の満足度や安全性にも影響を及ぼします。
「報酬改定」の影響も見逃せません。 介護報酬が引き下げられると、事業所の収入が減少し、経営が厳しくなります。特に小規模事業所では、報酬改定の影響が大きく、経営の安定が揺らぎやすくなります。
「小規模事業者の脆弱性」は、経営基盤の弱さから来ています。介護事業者の多くを占める小規模事業所は、十分な資本を持たずに運営されており、経済的なショックに対する耐性が低いです。こうした事業所は、少しの収益減やコスト増で倒産リスクが高まるため、持続的な経営が難しいのが現状です。
「サービスの質低下」も深刻な課題です。 人手不足や過重労働が続くと、職員の疲労が増し、結果として提供されるサービスの質が低下します。こうなると利用者からの信頼が損われ、ひいては事業所の評判にも影響を与えます。サービスの質が低下すると、新たな利用者の獲得が難しくなり、経営の安定がさらに難しくなるでしょう。
最後に「競争激化」についてです。 介護事業は競争が激しく、多くの事業者が限られた市場でシェアを争っています。特に、同一地域内での競争が激化すると、利用者の獲得が難しくなり、価格競争も激化します。これにより、収益性が低下し、経営が厳しくなる事業所が増加します。
現在、介護事業所はこれらの課題が複合的に絡み合うことで厳しい経営環境に置かれています。持続可能な経営を実現するためには、これらの課題に対して総合的に対策することが求められます。
こうした課題の対策として、取り組んでいただきたいのが業務の仕組み化です。
ここでいう仕組化とは、再現性のある仕事のやり方を確立し、それを標準化することを指します。具体的には、自社独自の仕事の方法をマニュアル化し、誰が実行しても一定の品質と効率性を保つことができる体制を作ることです。仕組み化を進めることで、社員はより付加価値の高い業務に集中できます。結果として、社員のやりがいや成長機会が増え、組織全体の生産性が向上することが期待できるでしょう。
例えば、介護事業所においては、リクルートメントプロセスの標準化やシフト管理システムの導入、請求ソフトの利用などが仕組化しやすい部分でしょう。
仕組化の恩恵は、業務の省力化に留まらず、組織全体のパフォーマンス向上にも寄与します。
仕組化された業務プロセスは、新人教育の負担を軽減し、迅速な戦力化を可能にします。また、標準化された手順により、業務のミスやトラブルが減少し、安定した運営が実現するでしょう。
さらに、仕組み化は競争力の強化にも寄与します。市場環境の変化に柔軟に対応できる組織は、競争優位性を維持しやすくなります。業務プロセスの見直しや改善を継続的に行うことで、常に最適な状態を保つことができます。
総じて、仕組み化は組織の持続的な成長と発展に不可欠な要素です。効率的で再現性のある業務プロセスを確立することで、組織全体の生産性と競争力を高め、社員の満足度や成長を促進することができるのです。
仕組み化を実現するためには、先述した8つの課題に対して具体的な対応策を講じることが重要です。それぞれの課題に対応するアイデアを以下に提案します。
Office SUGIYAMA グループ代表。採用定着士、特定社会保険労務士、行政書士。1967年愛知県岡崎市生まれ。勤務先の倒産を機に宮崎県で創業。20名近くのスタッフを有し、採用定着から退職マネジメントに至るまで、日本各地の人事を一気通貫にサポートする。HRテックを精力的に推進し、クライアントのDX化支援に強みを持つ。著書は『「労務管理」の実務がまるごとわかる本(日本実業出版)』『新採用戦略ハンドブック(労働新聞社)』など