訪問看護事業所における人間関係の不和の根本的改善―理論に基づく訪問看護経営(9)

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前回は、GRPIモデルの『Roles(役割)』と『Process(段取り)』が明確になっている状態をどの様作り、不平不満を生まない組織を実現するかについて説明をいたしました。今回も引き続きGRPIモデルから、『Interpersonal Relationship(人間関係)』について詳しく説明をして、組織の状況を改善していく方法論について解説していきます。

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チームの『Interpersonal Relationship(人間関係)』の不和を防ぐ2つのポイント

これまで3回にわたって、組織開発に用いられるGRPIモデルから『目的・目標(Goal)』『役割(Roles)』『段取り(Process)』という3つの要素が明確である状態を、どのように実現していくかを説明してきました。今回は最後の要素である『Interpersonal Relationship(人間関係)』について説明をいたします。

看護師定着と売上獲得を叶えるための組織づくりで説明したように、チーム内で起こる衝突の原因の80%は『目的・目標(Goal)の不明瞭さ』、16%は『役割(Roles)の不明瞭さ』、3.2%が『段取り(Process)の不明瞭さ』となっており、『人間関係(Interpersonal Relationship)』自体に起因するチーム内の衝突は0.4%という研究結果があります。そのため、前回までの3つの要素を明確化し職員に共有して腹落ちしてもらえるように丁寧に対話をするというプロセスに取り組むことで、人間関係(Interpersonal Relationship)の不和はほぼ防げると考えられます。

しかし、それでも起こり得る人間関係(Interpersonal Relationship)の不和を防ぐためにできることは2つあります。

一つ目は、組織にフィットした人を採用することです。こちらのコラムでご説明したように、期待と能力とフィーリングのマッチングを丁寧に行なっていくと組織に合わない人を採用する可能性を低くできます。

二つ目は、心理的安全性の高い組織を実現ことです。心理的安全性についてはこちらこちらのコラムで説明したように、(1)土台を作る、(2)参加を求める、(3)生産的に対応するという3つのステップで作っていくと良いと考えられています。ですので、この3つのステップを意識しながら『目的・目標(Goal)』『役割(Roles)』『段取り(Process)』という3つの要素に取り組んでいくと自然と心理的安全性が高い組織づくりにつながるのではないでしょうか。

チームの人間関係(Interpersonal Relationship)が良好な組織についてまとめると、下記の様な状態であると考えられます。

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GRPIモデルを活用してSPCの実現を目指していきましょう

今まで説明してきたように、GRPIモデルはチーム内のいざこざを防ぎ、良いチームにするためのフレームワークです。しかし、それだけではなくGRPIモデルに沿って「組織づくり」に取り組むことでサービスプロフィットチェーンの実現にもつながるのでは無いでしょうか。

チームと個人の『目的・目標(Goal)』が明確になり、全員が前向きに目的・目標(Goal)達成に取り組んでいる状態というのは、職員の仕事への意欲が高く従業員満足も高い状態だと考えられます。また、『Roles(役割)』と『Process(段取り)』要素が明確になっていることでサービスの質が向上し顧客満足度も高い状態になると期待できます。そして、前述したようにその様な組織は人間関係も良く従業員満足も高いため離職も減り採用力も高まるため、更なる業績向上につながるという良い循環を呼び込んでくれるでしょう。

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今回までの4回にわたり、訪問看護ステーションで起こりがちな人間関係の不和を根本的に改善し、人材が定着することで情報共有もスムーズになり、利用者さんへのケアの質を高め、ひいては関係機関からの信頼を得て売上を高めることができる組織づくりを、GRPIモデルを用いて考えてきました。

GRPIモデルの実現には、経営者や管理者自身が多くのことを職員に明示化し共有するだけではなく、一人一人の職員と何度も対話を重ねる必要があります。その上、一度適切な状態が実現したら完了するものではなく、良い循環を止めないように常にケアをしていく必要があり、とても骨の折れる作業だと思います。

しかし、今後、訪問看護ステーションの経営を続けていくためには、ますます増える需要に応えるだけの人材を確保できるかどうかが重要です。人材採用が困難な状況下においては、サービスプロフィットチェーンの良い循環が実現できている組織に人材が集まり、悪い循環に陥っている組織には人材がさらに集まりにくくなる事が予想されます。今後の需要増加に対応して業績を向上させていくためにもGRPIモデルを活用した組織づくりに取り組んでみてはいかがでしょうか。

参考文献

• Beckhard, R. (1972). Optimizing Team Building Effort. Journal of Contemporary Business, 1(3), 23‒32.

• Steve Raue, Suk-Han Tang, Christian Weiland and Claas Wenzlik.(2013). The GRPI model ‒ an approach for team development

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