放課後等デイサービスコンサルタントの松本太一です。療育の現場にあまり関わったことのない方などを対象に、事業参入を検討される際に知っておきたいことや、事業所運営のポイントなどを紹介しております。
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今回は事業所の物理的な環境作りについてお話します。施設基準等への規定がなくとも、確認しておきたいポイントをお伝えします。
放課後等デイサービス事業所の広さや部屋割りなど、物理的な環境設定に関する大枠のルールは法律で規定されています。しかし、明文化されていない部分にもおさえておかなければならない点がたくさんあります。
特に、未経験で開業される方には想像しにくい部分が多く、開業してから「ああしておけば良かった!」と嘆く経営者が少なくありません。以下のチェックポイントを参考に、後悔しない事業所作りをしていきましょう。
事業所の運営において、なにより大切なのが安全管理です。特に子どもの離設(事業所の外に出てしまうこと)は、死亡事故に直結するため、絶対に防がなければなりません。そのため、外に通じるドアには外鍵だけではなく必ず内鍵をつけます。
内鍵をつけたとしてもそれだけで安心はできません。施錠が徹底されていない事業所が少なくないのです。子どもの離設があった際、支援員に施錠していなかった理由を聞くと「すぐ別の子がやってくるから」「大人しい子しか来ていないから」と言った話がよく聞かれます。いずれも、「適切に施錠ができていなければ死亡事故に繋がりかねない」という危機感が足りません。いずれにせよ、安全管理は個々人の意識に任せることはできません。子どもを一人でも預かるなら、必ず施錠することをルールとして明確に設定し、その徹底に努めましょう。
療育経験の浅い事業所でよく見られるのが、大人サイズの机と椅子に無理やり子どもを座らせている光景です。
こうしたことが起こるのは、事業所開設時に安価な大人のオフィス用の机や椅子を購入してしまったか、以前からその建物においてあったものをそのまま使っていることがほとんどです。
放課後等デイサービスを運営するのであれば、コストは掛かりますが、事業所にやってくる子どもたちの身長にあわせて複数のサイズの机と椅子を用意することが必要です。すぐに用意することが難しい場合は、座卓を用意して、床にウレタンマットなどを敷き座ってもらうのがよいでしょう。
幅広い年齢と発達段階のあるお子さんに対する発達支援を提供する放デイには、多数の教材・教具、おもちゃや運動器具が必要になります。ところが、支援員から教材や遊具を増やすよう要請されても「まだ赤字なので、利用児が増えたら考える」などと言って、購入を渋る経営者が少なくありません。
確かに、開業当初は資金がどんどん減っていくので節約したい気持ちがあるのは当然です。しかし、教材や遊具は、料理人にとっての包丁や鍋、大工にとってのカンナやノミにあたる、いわば商売道具です。必要なものがしっかり揃って、適切な支援ができるからこそ、地域で良い評判が拡がり、利用者の獲得に繋がるのです。したがって、教材・遊具は少なくとも現場からの要請があれば、開業当初は積極的に購入すべきです。一つの目安ですが、開業1年以内における教材・遊具用の予算として、少なくとも20~30万円程度は、確保しておき、現場から要請があった場合はその範囲内であれば特段の差し支えがない限り購入することが望ましいです。
先に書いたように、放デイには多様な教材や遊具を備える必要があるため、その保管スペースも確保する必要があります。施設開設時にそのことを織り込んでおかなかったために、事業所内に教材やおもちゃが雑然と置かれていたり、本来保護者との面談に使う相談室が倉庫代わりになってしまっている光景をよくみます。こうした環境では、お子さんが不適切なタイミングで遊具を使い始めてしまったり、必要なものがどこにあったのかわからなくなってしまいがちです。また、事業所を訪れた保護者にも、きちんと物品管理ができていないというネガティブな印象を与えてしまいます。
ぜひ面談室や事務室とは別に、倉庫となる一部屋を確保しておきましょう。
もう一つの対策は、教室内に教材を格納する棚を設置することです。外から見えると子どもたちが気になって手にとってしまうことがあるので、扉がついたものがよいでしょう。
子どもたちが荷物をいれるロッカーは、支援室の奥側ではなく、入口すぐの場所に設置するのが良いでしょう。奥においてしまうと、子どもたちが来所した際、支援室を横切って荷物を置く形になります。これだと単純に移動距離が伸びてしまうだけでなく、その途中で気になるおもちゃが目に入り、荷物を放りだして遊び始めてしまったり、先にやってきた子にちょっかいを出されてトラブルになってしまうことがあります。
これは、建物を新築したり、スケルトンで借りた場合など、自由に事業所のレイアウトができる場合のお話です。事務室・相談室・洗面所・トイレなどは入口に近いところに設定し、奥側に子どもたちが過ごす支援室がある形にするのが望ましいです。
その理由は、まず、来所後の子どもたちの動線が少なくて済むためです。たとえば子どもが来所したとき、玄関で靴を脱いだら荷物をロッカーに入れ、そのまま手を洗ってトイレを済ませ、支援室に入っていくことができれば、子どもたちにとってわかりやすくスムーズに準備を行うことができます。
もう一つの理由は、安全性を高めるためです。大人がいる事務室や相談室が入口付近にあることで、外に出ようとする子がいる場合に気が付きやすくなります。
以上、放課後等デイサービスの物理的な環境面に関するチェックポイントを解説しました。開業を考えている方にとっては、コストのかかる話ばかりで気が重くなってしまったかもしれません。しかし、私が100か所以上の事業所を見てきた経験からすると、最初からしっかり費用をかけて、安全で良い支援を提供できた施設が、結果的に利用者の獲得と支援員の定着に繋げられています。先行投資を恐れないでいただきたいと思います。
次回は、経営者・管理者からよく聞かれる施設運営上の悩みごととその解決策をお伝えしていきたいと思います。ご期待ください。
東京学芸大学大学院障害児教育専攻卒業。教育学修士。 大学院在学中は自閉症児療育の「太田ステージ」開発者である太田昌孝医師の指導のもと、東大付属病院や通級指導教室でソーシャル・スキル・トレーニングの実践研究を行う。 卒業後、福祉団体や人材紹介会社で成人発達障害者の就労支援に携わった後、放課後等デイサービスの大手FCチェーンに就職。カードゲームやボードゲームなどを使って、発達障害のある子のコミュニケーション力を高める「アナログゲーム療育」を開発する。 2015年に独立。現在はフリーランスの療育アドバイザーとして、放課後等デイサービス中心に児童発達支援施設、就労移行支援施設、学校など100ヶ所以上を訪問し、実践とコンサルティングを行っている。 「コンサルタント」の詳細はhttps://houday.gameryouiku.com/ 「アナログゲーム療育」の詳細はhttps://www.gameryouiku.com/