みなさまの職場に ・遅刻早退や業務におけるミスを繰りかえす ・業務時間中に気分の落ち込みが激しく、仕事が手についていない ・時に、異常な言動が見られる
客観的に見て、このような状態が単なる怠慢ではなく、メンタルヘルス不調が原因と思われる職員がいて、対応に困ったことはありませんか。
今回は、職員の労務提供が不完全になっている背景にメンタルヘルス不調があると思われる場合、職場としてどう対応すれば良いのかという点について法的な観点から解説していきます。
なお、『休職制度』についてはこちらの記事を参考にして下さい。
今回のポイントは次の3つです。
1.労務の不完全提供は原則として注意指導の対象 2.明らかにメンタルヘルス不調に陥っている職員へは医師の意見を踏まえた対応を 3.産業医と連携しよう
頻繁な遅刻早退や業務におけるミスを繰り返すなどというような労務不提供がある場合、原則として注意指導(書面での指導・懲戒処分等)することが必要になります。
雇用契約では、職員は法人に対して労務提供義務を負っています。
ですから、遅刻早退や業務におけるミスの繰り返しは、満足に労務提供ができていない点で債務不履行なのです。
適時適切な指導が重要になることは言うまでもありません。
もっとも、それが単なる怠慢ではなく、客観的に見て明らかにメンタルヘルス不調が原因と考えられるような場合は要注意です。
たしかに労務不提供ではあるのですが、注意指導ではなく、休職手続きで対応するべきかどうかを医師の意見を踏まえて検討する必要があります。
(ただし、医師の意見が絶対という訳ではありません。)
このように休職処分を検討すべき状況で休職を検討せず懲戒処分の措置を行ったことが不適切であるとして懲戒処分が無効になった事案として、一つ裁判例を紹介します。
それが、日本HP事件(最高裁平成24年4月27日判決)です。
この事件で懲戒処分された従業員Aは、次のような被害事実を会社に伝えて有給休暇を取得し、有給休暇を全て取得した後は、40日間欠勤を続けました。
従業員Aのいう被害事実とは以下のようなものでした。
「メイド喫茶のウェイトレスとの間でトラブルになったことがきっかけで、約3年間にわたり、加害者集団が雇った専門業者や協力者らにより日常生活を子細に監視されるようになった。盗撮や盗聴等の監視行為によって蓄積された情報は、インターネットの掲示板やメーリングリスト等を通じてAの見えないところで加害者集団に共有されており、ずっと嫌がらせを受けている」
会社の調査の結果、この被害事実の存在は認められず、従業員の何らかの精神的な不調による被害妄想だということがわかりました。
この従業員に対し、会社は欠勤に正当な理由は無いとして諭旨退職という懲戒処分に処したのです。
つまり、労務不提供の背景に何らかの精神不調があると思われるケースで、懲戒処分を実施したということです。
これに対して、裁判所は以下のようにジャッジし、会社の対応を不適切としました。
弁護士法人かなめ代表弁護士。29歳で法律事務所を設立。 現在、大阪、東京、福岡に事務所を構える。顧問サービス『かなめねっと』は35都道府県に普及中。 福祉特化型弁護士。特化している分野は、介護事業所・障害事業所・幼保事業所に対するリーガルサポート、労働トラブル対応、行政対応、経営者支援。 無料で誰も学べる環境を作るためYouTubeチャンネル『弁護士法人かなめ - 公式YouTubeチャンネル』を運営中。https://www.youtube.com/@kaname-law テキストで学びたい人向けに法律メディアサイト『かなめ介護研究会』も運営中。 https://kaname-law.com/care-media/