12月9日の社会保障審議会介護給付費分科会において、批判が多いコロナ禍のデイサービス「特例加算」が、今年度中で廃止となる見込みだ。現在は、毎月一定の回数に限り、実際にサービスを提供した時間の報酬より2区分上位の報酬を算定できるという特例が、デイサービスでは許されている。しかし、利用者にとって過度な負担であるという声が多く、2021年度介護報酬改定の動向が注目されている。
コロナ禍において利用控えもあって、在宅介護事業所を中心に経営難が問題視されている。東京商工リサーチによるデータでも、介護事業者の倒産件数が過去最多となった。この間、厚労省もデイサービスなどを対象に報酬算定の特例措置などを講じて、緊急的に対処してきた。
そして、2021年度介護報酬改定において、このような感染症などの影響による利用者の減少にあたっては、来年度から普遍的な措置が講じられる方向性が打ち出された。
介護給付費分科会の資料によると、現在の暫定的な「毎月一定の回数に限り、実際にサービスを提供した時間の報酬より2区分上位の報酬を算定できる」という措置が廃止されると理解できる。
そして、来年度より感染症等の影響により利用者の減少等があった場合には、大規模型デイにおいては、より基本報酬が高い報酬を算定できる仕組みが議論されている。いっぽう通常規模型デイにおいては、何らかの「加算」の算定が設けられる可能性が読み取れる。その際、これらの「加算」は区分支給限度基準額の対象外となる見通しだ。
筆者は、今年9月にかけてデイの「特例加算」において現場職員の意識を把握するために、インターネットを活用してアンケート調査を実施した。その結果、118名のデイ関連の現場職員のうち55名が「評価する」と回答し、「評価しない」を上回った。
一部のマスコミを通して、利用者や家族における「特例加算」に対しての厳しい意見が報道されていたが、現場としては経営難といった側面から、「いたしかたない」といった心境が調査データから窺える。
しかし、自由意見を詳細に分析すると、現場職員としても利用者に対して「矛盾」を感じている実態が理解できる。例えば、以下のような意見が寄せられた。
・時間がない中、苦肉の策でスタートしていただいたことはありがたいが、利用者負担がある点について、利用者やケアマネの意見、他事業者の動向も含め、現場では混乱が生じている。
・せめて自己負担分の請求はせず、介護保険料収入のみで計算を済ませるのが、利用者と事業者双方にとっていいと考える。
・デイサービス特例加算(2区分上位の報酬算定)について、利用者の負担を増やさない対策を考えるべきだと思う。利用者に負担を求めるのは理解しがたい。
・そもそも、なぜサービスに偏りがあるのか。そして、なぜ利用者に負担させるのか。利用者は仕方ないからと同意している。
・かなり意識して対応(努力)している。増収のためとはいえ、利用者にそれを少しでも求めるのは、いかがなものかと思う。
・特例加算を、利用者に負担させる正当性がわからない。
特に、「特例加算」は、利用者による不平等が指摘される。実際、ケースによって算定する、しないなどの実態があり、その判断が現場側に任されている点も大きな問題となっている。これらの自由意見は、以下のとおりである。
・コロナ対策により業務が増えたための評価とのことだが、「特例加算」に同意できない方、介護保険限度額オーバーで自費がでてしまうため算定をできない(しない)ケースなどがある。公平性に欠ける。詳しく利用者から説明を求められると、返答に困る。
・弊社では特例加算を取得しているが、状況により利用者間で不平等があるのはおかしいと思う。
・加算算定により事業経営の安定が図れることは良いと思うが、算定の仕方があいまい。複雑で利用者に説明しにくい。事業所によって算定する?しない?がある。
・利用者によって算定する?しない?というやり方は改善してほしい。
・通いのサービスは、稼働率が低下している事業所が多いのが現状としてある。また、日替わりで多くの方がいらっしゃるので、感染リスクを抱えながらのサービス提供となっていることから、何らかの支援が必要である。
既述のように、来年度から新しい介護報酬の仕組みに変更されたならば、現行のような利用者や家族に対して「利用していないサービス時間なのに、余計な負担をしている」といった感情を抱かせるような説明はしなくて済むであろう。例えば、「感染が増えて利用者が減ったので、基本報酬もしくは加算の算定を変更することになり、ご協力ください」といった説明になると考えられる。
しかし、新しい報酬体系となったとしても、利用者の負担が増えることには変わりはない。単に報酬算定の理屈が変わっただけで、新たな公費などの補助金が受けられるわけではないと考えられる。
なお、その他のデイに関する報酬体系の議論として「個別機能訓練加算」について注目される。より利用者の自立支援等に資する機能訓練の提供を促進する観点から、加算区分や要件の見直しを行う提起がなされている。
具体的には、現行の個別機能訓練加算(Ⅰ)(Ⅱ)を統合し、人員配置要件、機能訓練項目、訓練対象者・訓練実施者などの運営基準などが見直される見通しである。これまで個別機能訓練加算の算定率は、規模の小さい事業所ほど低い傾向にあったため、より算定しやすくするねらいが窺える。
また、「入浴介助加算」については、算定内容の変更が議論されており、利用者が自宅において、自身又は家族等の介助によって入浴を行うことができる支援に対して、何らかの対応した際に評価がなされる仕組みとなる見通しだ。その意味では、単にデイサービスで入浴して「加算」が算定できるといったものではなく、在宅での入浴も視野に入れた支援が考慮されるであろう。
2021年度介護報酬改定の実施は4月からである。その頃には感染状況も落ち着いていれば、それほど問題にはならないが、今年の3月から4月にかけての状況を鑑みれば、余談は許さないと考える。
そうなれば新しい介護報酬改定の説明に加え、利用者減による算定変更など、来年4月以降の事務等の煩雑が予想される。平時でさえ介護報酬改定の時期は、書類の整備や利用者への説明など対応に追われる時期であるが、さらにコロナ禍における特例措置対応など、現場の多忙さが想像できる。
そのため、現場職員としても、今後の介護報酬改定の動向は注視していくべきである。特に、デイの「特例加算」の詳細は、年明けの算定基準が明確になった際に細かな内容を理解する必要がある。
淑徳大学総合福祉学部教授(社会保障論、社会福祉学)。介護職、地域包括支援センター職員として介護係の仕事に従事後、現職。『介護職がいなくなる』岩波ブックレット。その他、多数の書籍を公刊。