介護事業所の役立つ情報発信をしようと、本連載の記事中には、毎回、課題意識に関するアンケートを入れています。おかげさまで、介護事業所の課題がよくわかるようになりました。
そして驚くべき結果が出ました。過去2回のアンケート結果では、いずれも断トツで「スタッフ教育を充実させたい」というお悩みが上げられました。
回答いただいた事業所数は、60事業所を超えています。全回答者のうち、「スタッフ教育を充実させたい」と回答された割合は、次の通りです。
3月アンケート結果…71% 4月アンケート結果…86%
複数回答をお願いしているためヒアリングをすすめたところ、、喫緊の課題ではないものの、介護事業所の8割がスタッフ教育に何らかの課題意識を感じている事実が明確になりました。もしかしたらこの「喫緊の課題」ではないものの、解決すべきものとして捉えているというギャップが、スタッフ教育に大きな影響を与えているのではないかと推測しました。アンケートにご協力いただいた事業所のみなさまには感謝申し上げます。
ところで、スタッフ教育の大切さは、今も昔も変わることがありません。
スタッフ教育の目的は大きく次の2つです。
(1)業務効率を高める (2)退職を防止する
すなわち、スタッフ教育により早期戦力化が実現できれば、業務効率がぐっと高まります。また、教育によりできる仕事が増えたスタッフは自己肯定感が高まります。自己肯定感が高まると、「もっともっと」とより多くの仕事、難易度の高い仕事にチャレンジしたくなってきますから、必然的に多能工化が進みます。
このレベルに達すると、すでに同僚やお客様の役に立っているという自己有用感も高まっています。周りの人からは、仕事ができる人として扱われるため、頼りにされ『ありがとう』と言葉をかけられる機会も増えています。このような環境下で働いていれば、辞めようなんて気持ちはなかなか起きませんね。
スタッフ教育が成功すると、とても素晴らしい職場環境になることが容易にイメージできたのではないでしょうか。
多くの事業所で「スタッフ教育を充実させたい」という課題が選ばれたのは、あるべき姿まで、まだまだ達していないことの表れなのかもしれません。
企業経営の目的は経営理念の実現です。経営理念とは、経営者の哲学や信念に基づき、企業の根本となる活動方針や考え方を明文化したものです。企業に属するスタッフは、当然のごとく経営理念の実現に向かって日々仕事をすることになります。仕事上で壁が立ちはだかったとき、選択しなければならないときなどは、経営理念に基づいて判断をすることになります。
経営理念は大きなゴール(目的)です。それぞれの部署や部門には目標があります。部署や部門の目標を達成するために、スタッフ個人の目標を達成しなければ、経営理念の実現にはたどり着きません。当然のことですが、これらの目標は目的に向かって一貫性がなければいけません。
スタッフ教育とは、スタッフの目標達成を手助けする手段と考えると、とても重要なことであると認識できるのではないでしょうか。
対象が新入社員であれ、管理職であれ、それぞれが達成すべき目標をゴールとした計画的・体系的な人材教育計画が必要となってきます。つまり、スタッフ教育の目標設定がされていないと、場当たり的なOJTを実施したり、不必要なOff-JTをすることになります。そうした場合、スタッフの成長は個人の資質任せになってしまいます。
先ずは、どの階層のスタッフが、どのレベルのスキルを身に付け、どのような行動をとるべきなのか、明確に言語化しておくことがスタッフ教育のスタートになります。
Office SUGIYAMA グループ代表。採用定着士、特定社会保険労務士、行政書士。1967年愛知県岡崎市生まれ。勤務先の倒産を機に宮崎県で創業。20名近くのスタッフを有し、採用定着から退職マネジメントに至るまで、日本各地の人事を一気通貫にサポートする。HRテックを精力的に推進し、クライアントのDX化支援に強みを持つ。著書は『「労務管理」の実務がまるごとわかる本(日本実業出版)』『新採用戦略ハンドブック(労働新聞社)』など