【令和5年度版】厚労省予算から読み解く介護事業者向け狙い目助成金

2023.02.28
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1.令和5年度厚生労働省予算の重点ポイント

厚生労働省は、成長と分配の好循環に向けた「人への投資」に力を入れていきます。

具体的には、「賃上げ・人材活性化・労働市場強化」雇用・労働総合政策パッケージが骨格となります。

この政策については、次のストーリーをイメージすると理解しやすいでしょう。

①人口オーナス期における人口減少、少子高齢化に伴う人手不足を克服する必要がある
②人手不足への技術的対応策として、業務改善により、省力化、効率化を図り、労働生産性を高め、賃上げの原資を創り出す必要がある
③人手不足への物理的対応策として、既存労働者や求職者のスキルアップを図り、より高度な業務や未経験の業務をさせ、賃上げの原資を創り出す必要がある
④業務改善やスキルアップの実現により、労働生産性が高い労働環境を整えるとともに、高賃金の高レベル人材の採用や育成を実現し、盤石な利益体質を整える必要がある
⑤利益体質になることで、積極的な賃上げマインドが生まれ、賃上げが実現する

すなわち「人への投資」には、次に掲げる4つのキーワードが重要となってきます。

(1)業務改善
(2)スキルアップ
(3)高レベル人材
(4)賃上げ

厚生労働省では、この4つを実現させるために、助成金制度を構築します。

助成金制度を活用するということは、行政目標の達成に協力するという意味合いを持っています。
また、助成金は、企業が必要な要件を満たせば受給でき、返還する必要のないお金です。

つまり、助成金を活用すればするほど、国家への貢献となり、企業には資金余力ができるという構図になります。

ところで、コロナ禍では、多くの企業が雇用調整助成金を活用して、従業員の雇用を守りました。コロナ禍における行政の目標は、コロナによる離職防止です。雇用調整助成金が利用できたおかげで、企業が存続し、解雇を免れた労働者は数えきれないほどです。

一方で、コロナ禍での雇用調整助成金の制度運用は、通常時の雇用調整助成金の制度運用とは大きく異なっていたため、不正受給が簡単にできる環境になっていました。その結果、助成金詐欺や助成金不正受給といったワードがマスコミをにぎわすこととなっています。

助成金を活用するうえで気を付けなければならないことはただ一つです。

『助成金を取りにいかない』

みなさまの会社が実現したいことと4つのキーワードが合致するのなら、ぜひ助成金制度を活用してください。

しかし、助成金受給を最終目的とすると、みなさまの会社には不要な行動、費用が発生します。さらに受給可能性が低くなるケースが多いです。これは、費用対効果が悪く、単に時間と労力とお金を消費するだけになりますので、避けたい行動です。

2.キーワード別介護事業所の狙い目助成金とは

4つのキーワードとして、(1)業務改善(2)スキルアップ(3)高レベル人材(4)賃上げをお伝えしました。

それぞれのキーワードごとに、今年狙い目の助成金をお伝えします。

(1)業務改善

生産性を向上させるための設備投資などの予定がある場合にご検討ください。

①業務改善助成金

定番の助成金になっています。設備投資を考えているのなら、検討の余地が大きい助成金です。賃上げのタイミングから逆算して、助成金の計画申請書を提出しましょう。

目的:最低賃金の引上げに向けた環境整備を図るため、事業場内最低賃金(事業場内で最も低い時間給)の引上げを図る中小企業・小規模事業者の生産性向上に向けた取組を支援します。

助成上限額:()書きは事業場規模30人未満の事業主が対象です。

②働き方改革推進支援助成金(適用猶予業種等対応コース)

働き方改革の実現のために活用されてきた助成金です。特に拘束時間が長い業種や職種に限定した支援となっています。長時間労働の健康リスクを軽減するためにも、現状の改善が必要なら利用を検討してください。

目的:24(令和6)年4月には時間外・休日労働の上限規制の猶予事業・業務への適用が予定されているため、医業に従事する医師など顕著な長時間労働の実態が認められる職種の残業削減を支援します。

特徴:各業種・業務について法規制が異なることから、各々の業種において成果目標が設けられています。

助成上限額:医業に従事する医師の成果目標との関係は以下のとおりです。

【36協定の見直し】
①月100H超→月89H以下:250万円
②月90H→月80H以下:200万円
③月80H超→月80H以下:150万円

【勤務間インターバル導入】
9H~11H:100万円
11H以上:150万円

③介護ロボット導入支援事業(地域医療介護総合確保基金(介護従事者確保分) )

介護事業所にとっては、大きな補助金です。台数制限が撤廃されたことも大きな魅力です。

目的:各都道府県に設置される地域医療介護総合確保基金を活用し、介護施設等に対する介護ロボットの導入支援を実施し、介護ロボットを活用した介護事業所の生産性向上の取組を通じて、ケアの質の確保や職員の負担軽減等を図ります。

補助上限額:台数制限が撤廃されています。

④ICT導入支援事業(地域医療介護総合確保基金(介護従事者確保分) )

小規模の介護事業所ではICTの導入費用がネックになっています。今後はICTを利用していかなければ、生産性の向上は望めません。この機会に補助金を活用してICT導入を勧めるべきでしょう。

目的:各都道府県に設置される地域医療介護総合確保基金を活用し、介護現場のICT化に向けた導入支援を実施し、ICTを活用した介護サービス事業所の業務効率化を通じて、職員の負担軽減を図ります。

補助上限額:職員数によって都道府県の裁量で決定します。

● 1~10人100万円
● 11~20人160万円
● 21~30人200万円
● 31人~ 260万円

(2)スキルアップ

デジタル人材の育成やスタッフができる業務の幅を広げることを目指す場合にご検討ください。

①人材開発支援助成金 ※岸田政権の目玉助成金!

リスキリングという言葉を耳にすることが増えています。リスキリングとは学び直しのことです。これからの時代は、『●●はできません』というばかりのスタッフを抱えていてはリスクでしかありません。積極的に教育投資をして、徹底的に生産性を高める必要があります。

目的:職業訓練を実施する事業主等に対して訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する等により、企業内における人材育成を効果的かつ柔軟に支援するとともに、雇用する労働者の職業能力の向上や企業の労働生産性の向上に資するためのものです。

助成上限額:

②産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)

コロナ禍において、介護事業所同士が出向のスキームを活用して人員の補完を行っていたことはまだ記憶に新しいと思います。出向で他事業所の優れた運営方法、介護技術を実体験し、出向から戻ってきた後に活かすことで介護事業所の経営力がパワーアップします。

目的:労働者のスキルアップを在籍型出向(教育出向)により行う場合に、労働者を送り出す事業主に対して助成することで、企業活動を支援する。

助成上限額:

(3)高レベル人材

自社の未来に必要な替えのきかないコア人材の採用や定着を目指す場合にご検討ください。

①産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)(仮称)

事業再構築補助金(中小企業庁)が採択された企業なら、必ずチェックが必要です。コア人材の採用に向けて、採用力アップにも力を入れるべきでしょう。

目的:新型コロナウイルス感染症の影響等により事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主が行う、ウィズコロナ・ポストコロナの時代の経済社会の変化に対応するための新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編等の事業再構築を人材の育成・確保の面から効果的に促すため、当該事業主に雇用される労働者の雇用の安定の確保と当該事業再構築に必要な新たな人材(コア人材)の円滑な受け入れ(労働移動)を支援する。なお、本助成金におけるコア人材の定義は、専門的な知識等を有する年収350万円以上の者とされています。

助成上限額:

②特定求職者雇用開発助成金(成長分野等人材確保・育成コース)

就職困難者であっても、有能なデジタル人材など高度な専門知識を持った人はいます。しっかりと採用選考をして、有能な人材を見極めてください。また、コア人材採用とは言えませんが、未経験者を育成し、賃上げすることでも対象となります。ハローワークで求人を公開し、窓口担当者には、『就職困難者を受け入れます』と想いを伝えましょう。これまで未経験者を受け入れ、キャリアパスによる人材育成と賃上げをしてきた介護事業所なら、十分活用できるはずです。

目的:就職困難者について、デジタル等の成長分野への労働移動支援を行うほか、賃上げを伴う労働移動等の実現のため、一定の技能を必要とする未経験分野への労働移動を希望する者を雇い入れる事業主に高額助成を行う。

助成上限額:通常の特定求職者雇用開発助成金の支給額の1.5倍と高額です。下表は、通常の助成金額です。

(4)賃上げ

すでにご紹介した業務改善助成金は本カテゴリーにも入ります。

なお、毎年秋に最低賃金が変更されるタイミングを見計らって、賃上げにかかる助成金を活用すると、経営者からは『賃上げの負担感が和らいで感じる』との感想を聞くことが多いです。

①キャリアアップ助成金による非正規雇用労働者の処遇改善を行う企業への支援(賃金規定等改定コース)

キャリアアップ助成金はもはやスタンダードな助成金になっています。しかしながら、賃上げに活用している事例数は、正社員登用の事例数と比較すれば、遠く及びません。他の介護事業所との差を付けるためにも、賃上げの制度化は検討の余地があると言えます。

目的:有期雇用労働者等の基本給を定める賃金規定等を3%以上増額改定し、その規定を適用した事業主を支援する。

助成上限額:1事業所あたりの上限人数が100人なので、大規模介護事業所ほど高額な助成金になる可能性が高いです。「職務評価」を実施して賃上げすると、更に20万円が上乗せされます。

②労働移動支援助成金(早期雇入れ支援コース)

経営者の高齢化により、M&A案件が増加しています。しかし、M&Aのテーブルに乗らない会社が多いことも事実です。特に、零細の介護事業所が廃業するときなどは、本助成金が活用しやすい場面になるはずです。

目的:事業規模の縮小等に伴い離職を余儀なくされる労働者を、早期(離職後3カ月以内)に、期間の定めのない労働者として雇い入れた事業主に対して助成されます。また、雇入れ後に訓練を実施した場合、その費用の一部を上乗せ助成されます。

更に、雇入れ前の賃金と比して5%以上上昇させた場合に、全ての対象事業主に対して20万円加算されます。

助成上限額:諸条件を満たした場合に、優遇助成されます。

3.助成金申請をしやすい環境を整えておこう

23(令和5)年4月3日には、雇用関係助成金ポータルサイトがオープンします。このサイトができることで、助成金の電子申請が可能になります。すなわち、会社から簡単に助成金申請できるようになるということです。とても嬉しいですよね。

助成金の電子申請に関する具体的なスケジュールは、次の通りです。

【現在受付中の助成金】※雇用関係助成金ポータルサイトではありません
・雇用調整助成金・産業雇用安定助成金(雇用調整助成金・産業雇用安定助成金オンライン受付システム
・特定求職者雇用開発助成金(特定求職者雇用開発助成金の電子申請

【2023(令和5)年4月から開始となる助成金】

・キャリアアップ助成金 正社員化コース
・トライアル雇用助成金 一般トライアルコース

【2023(令和5)年6月から開始となる助成金】

・労働移動支援助成金
・中途採用等支援助成金
・トライアル雇用助成金(一般トライアルコース以外)
・地域雇用開発助成金
・人材確保等支援助成金
・通年雇用助成金
・キャリアアップ助成金(正社員化コース以外)
・両立支援等助成金
・人材開発支援助成金

ところで助成金の支給を受けるには、さまざまな要件をクリアする必要があります。

なぜなら、助成金は公的な資金なので、法令を守っていなかったり、反社会的な活動をしている会社には支払われません。

 厚生労働省のホームページに「各雇用関係助成金に共通の要件等」がダウンロードできるようになっているので、必ず確認しておきましょう。

 「各雇用関係助成金に共通の要件等」以外にも、個別の助成金に関わる要件がありますので事前にチェックしておく必要があります。なお、電子申請をするには、〖GビズID〗の申請と取得が必要となります。

最後になりますが、助成金と上手に付き合うためには、日頃の労務管理が重要です。

今回は、杉山事務所が助成金受給環境をチェックするために利用しているチェック簿を、"ストレスなく助成金申請をするための労務管理チェック簿"として再編集してみました。

23年4月からの新年度にストレスなく助成金申請をするために役立てていただければ幸いです。

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