2021年度介護報酬改定を考える①~居宅介護支援を中心に│結城康博・淑徳大教授

2020.12.17
2024.09.12

現在、2021年度介護報酬改定の議論が注目されているが、コロナ禍ということもあって、プラス改定への期待が高まっている。しかし、財政問題がネックとなり、毎回のことではあるが充分な改定率が実現するとは限らない。そのため、「加算」方式で限られた財源を配分していく流れが常道となり、算定要件などをも踏まえた議論が加速化する。

今回から連載を担当することになるが、しばらくは2021年度介護報酬改定について、筆者の見解を踏まえながら、その動向について論じていくこととする。

1.厳しい財務省内での論調とそのポイント

(1)プラス改定には否定的

当然ではあるが財務省としては、2021年度介護報酬プラス改定には否定的な立場である。11月2日の財政審では、「介護費用の総額は、高齢化等の要因により毎年増加。介護報酬改定はこうしたトレンドの下で更に介護費用を増減させるものであり、介護報酬のプラス改定は、保険料負担と利用者負担の更なる増加につながる。もとより慎重を期すべきもの。」とされた。

財務省は、マイナス1%の報酬改定で約1,200億円の財源が節約できるとし、税金約620億円、保険料約530億円、利用者負担約90億円の負担軽減が達成できると試算している。

(2)中小企業との比較

しかも、財務省は介護事業所と一般的な中小企業とを比較して、2019年度の経営実態調査による収支差率は同程度であることから、プラス改定の必要性はないとしている。確かに、コロナ禍おいて一時的に厳しい経営状況ではあったが、6月以降は利用控えも改善され通常事業が展開されていると、財務省は考えているようだ。

また、新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金が、介護事業所でも活用されていることから、2021年度から3年間も国民負担を強いてまで、介護業界に新たな財配分をする環境ではないとして、プラス改定には否定的な立場である。

2.最終的には政治的な決着に

ただし、全体の介護報酬改定率は年末の予算折衝による政治決着によるもので、最後の最後まで誰にも分らないといえよう。当然、「世論」の動向も重要ではある。

本来、コロナ禍でなく平時でさえも介護人材不足が深刻化しており、度重なる政府による介護人材対策といった「処遇改善」策が講じられてはいるものの、未だ解決の見通しはたっていない。その意味では、さらなるプラス改定によって介護人材対策を進めることは急務であろう。

しかし、政治決着を大きく左右する「世論」の動きは、介護分野に関して「鈍い」と言わざるを得ない。むしろ、医療分野のほうが「コロナ禍により赤字経営が深刻」といったように、多くの市民に懸念されてはいるが、介護分野への注目度は薄い。

介護保険制度が成立して20年を過ぎ、幾度の介護報酬改定がなされてきた。これまで最も高い改定率はプラス3%の引き上げで、2009年度介護報酬改定であった。リーマンショックによる経済対策もあって、介護分野にとっては大きな改定率であった。

しかし、それ以降はマイナス改定が続き、ようやく2018年度改定でプラス0.54%となった。その意味では、筆者の予測が外れて欲しいが、世論動向やこれまでの経緯から考えてプラス2%以上いった大幅改定は期待できず、よくて1%以内のプラス改定ではないだろうか。

3.居宅介護支援

(1)基本報酬の引き上げは?

具体的な介護報酬について考えてみると、居宅介護支援においては経営実態調査報告において赤字となっており、毎回、居宅介護支援部門は厳しい状況だ。そのため、2018年度介護報酬改定においても、下記のように全体で僅か0.54%のプラス改定でありながら、基本報酬が引き上げられた。ただし、福祉用具貸与などは悪い数字ではない(表1)。

居宅介護支援(Ⅰ)

※ケアマネジャー1人当たりの取扱件数が40未満である場合又は40以上である場合に

おいて、40未満の部分

2015年                 2018年

(一)要介護1又は要介護2        1042単位/月⇒ 1053単位/月

(二)要介護3、要介護4又は要介護5   1353単位/月⇒ 1368単位/月

なお、昨今、ケアマネジャーの資格の厳格化策によって、受験者数が大幅に減少している。このような背景にあって、介護支援専門員の人材不足が目立ちはじめている。2020年7月時点で介護支援専門員の有効求人倍率は、5.82倍とかなり高い水準となっている(表2)。特に、地方において介護支援専門員不足は深刻な状況だ。

その意味では、介護職員以外の人材不足も問題視されており、基本報酬を引き上げて対策を講じる必要があると考えられる。

(2)逓減制の緩和

しかし、10月30日の給付費分科会では「居宅介護支援費については、介護支援専門員(常勤換算)1人当たり40件を超えた場合、60件を超えた場合にそれぞれ逓減制の仕組みを設けているが、居宅介護支援事業所の経営状況、現行の算定状況や報酬体系の簡素化等の観点から、どのように考えるか」といった問題提起が厚労省事務局からなされた。

さらに今後の給付費分科会の議論にも注目しなければならないが、単純に処遇改善の議論では「基本報酬」「加算」といった介護報酬の引き上げを想定しがちだが、40件からの「逓減制」を見直して、これらの事実上の「減算」方式を見直すことも処遇改善の方策の1つとして考えられる。

つまり、例えば、40件以上50件未満であっても「減算」されることなく基本報酬が得られるならば、たとえ多くのケースを担当しても、それだけの収入をケアマネジャーは得ることができる。しかも、人材不足が問題視されている状況から、単純に1人のケアマネジャーの担当件数を増やせば、一時的にせよ問題解決の方向性は見出せる。

実際、能力の高いケアマネジャーにとって、39件であれ49件であれ効率的に業務をこなすことができれば、収入が増えるほうがメリットを感じる者も少なくないであろう。2000年の介護保険スタート時点の3年間は、ケアマネジャー不足ということもあって件数制限を加味した介護報酬体系ではなかった。当時、60件、80件担当しているケアマネジャーも一定数存在し「質」は別として業務が遂行されていた。

その意味では、例えば、「減算」方式を見直して件数制限を40件未満から50件未満に変更することは、能力のあるケアマネジャーにとっては収入面で大きなメリットとなる。

(3)「質」の側面からは矛盾

しかし、介護支援専門員の「質」の向上を目指すといった視点では、逓減制緩和は矛盾する施策と言わざるを得ない。繰り返すが、昨今、受験資格の厳格化によって介護支援専門員に挑戦する者が少なくなっている。筆者は、これらの一連の厳格化には反対の立場であった。なぜなら、今後、介護支援専門員の人材不足が顕著となり深刻な事態を招きかねないからだ。

まして逓減制緩和が実現すれば、何のために受験資格の厳格化を実施したのか分らなくなるのではないだろうか。

○居宅介護支援(Ⅱ)

※ケアマネジャー1人当たりの取扱件数が40以上である場合において、40以上60未満の部分

2015年                  2018年

(一)要介護1又は要介護2          521単位/月⇒ 527単位/月

(二)要介護3、要介護4又は要介護5     677単位/月⇒ 684単位/月

4.運営基準も注目ポイント

単位数も重要ではあるが、介護報酬改定は運営基準の変更も盛り込まれているため、現場の職務にも大きく影響を及ぼす。しかも、「加算」算定が複雑となれば、それだけ事務作業が繁雑となり負担も増えるであろう。

そのため、現在の給付費分科会の議論プロセスを確認しながら、介護事業者らは情報収集に努めていく必要がある。

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