放課後等デイサービスコンサルタントの松本太一です。療育の現場にあまり関わったことのない方などを対象に、事業参入を検討される前に知っておきたいこと、事業所運営のポイントなどを紹介しております。
前回から2回に分けて、支援員同士の役割分担について取り上げます。前回は支援員の役割を、リーダーとサブの2つに分けることの有用性をお伝えし、事業所全体の進行役を担うリーダーの役割を解説しました。
今回は、子どもへの個別対応を行うサブメンバーの役割についてお伝えします。
小集団指導におけるサブメンバーの主な役割は、リーダーの進行に従って子ども達に対する指示の内容を理解してもらい、活動を助けることです。また、できたことを丁寧に褒めてあげるなど活動への意欲を高めてもらうことも、子どもが活動に参加しなかったり、他の子とトラブルになったりしたときに、個別対応するのもサブの役割です。
「ベテランがリーダーをつとめ、新人がサブになる」というイメージが浮かぶかもしれませんが、計画通りにプログラムを進めればよいリーダーに比べて、サブには臨機応変な対応が求められるため、経験の差が支援力の差となって現れやすいのです。
ですので、リーダーとサブの役割は固定してしまうのではなく、全ての支援員に持ち回りで務めてもらうのがよいでしょう。そうすることで、新人の支援員はリーダーとして動きつつベテランのサブスタッフの動きを見ることができ、別の日に自分がサブに入ったときどう動けばよいのか想像しやすくなります。
サブスタッフが事業所で役割を果たすうえで大切なのが、立ち位置です。以下、具体的な場面を挙げて解説していきます。
子どもたちが横一列に並んでリーダーの話を聞いているとき、サブは、お子さんの列の左右の端、及び真ん中に並びます。こうすることで横を向けばすぐにお子さんの様子が確認でき、もし集中がそれていたり、不安になっていたりする子がいれば、すぐに指差しや言葉をかけて注目を促すなど、活動を補助することができます。
よくあるのは、サブを担うメンバーが、子どもたちを後ろから遠巻きに見ているケースです。これだと、お子さんがなにか別のことに気を取られて離席しようとした場合などに、すぐ対応することができないので避けたほうがよいでしょう。
自由時間は、子どもたちといっしょに遊びつつ、安全も確保することがサブスタッフの役割になります。そのため、特定のお子さんと遊ぶときでも、サブはできるだけ壁に背を向けて、教室全体が見渡せるような位置にいましょう。そうすることで、教室内で何かあったときにとっさに対応できます。
逆に支援員が壁の方を向いて、眼の前の子どもしか見えない状態でいると、後ろで何かトラブルや危険が起きても気付かない恐れがあります。
子どもたちが活動の中でできたことを細かく丁寧に褒めてあげ、活動への意欲を高めてもらうのがサブスタッフの重要な役割の1つです。
このとき大切なのは、「みんなの前で発表した」「ゲームで1番になった」といったときのように、わかりやすく何かを達成したときや一番になったときだけ褒めるのではなく、本人なりに頑張ったことを褒めてあげることです。
たとえば、いつもじっと座っているのが難しく離席してしまいがちな子が座って話を聞けていたら、すかさず「きちんと座れているね」と褒める。折り紙なども完成したら褒めるのではなく、一箇所が中々うまく折れなかったのを何度か頑張って上手に折れたら褒める、といった具合です。
このように子どもをよく観察して、その子なりに一歩進めた部分を丁寧に褒めることで、子どもたちは「自分はちゃんと周囲から見守られている」という安心感と、「自分はできる」という自信を持つことができます。
こうしたきめ細かい対応は、全体を進行するリーダーには難しく、サブだからこそ果たせる役割です。
例えば、1人の子が大声で泣いていると、その子が気になって複数の支援員がその子のところに集まって対応してしまう場面があります。こうなると、他の子への見守りがなくなり、そのことで不安になった別の子が泣いてしまったり、自分の方に注目してほしくてわざと支援員が困るような行動をしたりする子が出てきてしまいます。
こうしたことから、トラブルがあった場合でも1人の子に対応するのは原則1人までと決めておくことが大切です。ただし、お子さんが暴れてしまい1人では対応しきれないなどの特殊な場合は別です。
ポイント③と似た話ですが、活動の前後で、複人数のサブスタッフが同時に片付けや準備に入ってしまい、誰も子どもを見ていないことがあります。ある活動から別の活動へ移る時間は、集中の切り替えが難しい発達障害のあるお子さんにとって、不安になったり、活動以外のことに気を取られたりしてしまいがちな時間帯です。こうした時間帯にこそ、サブスタッフが一人ひとりの子どもにしっかり関わらねばなりません。
そこで、事前にサブの中で1名「準備・片付け係」を決めておき、活動前後の準備・片付けは全てその人が行うことを決めておくことが望ましいです。
以上、前後編の2回にわけて支援員の役割分担についてリーダーとサブに分けて解説させていただきました。このテーマで最後にお伝えしたいのは、こうした役割分担は、施設を開設するまえにスタッフ同士のミーティングを通じて済ませておくべきだ、ということです。
実は開業当初は利用するお子さんが少数であることから、役割分担をしなくても大きな問題なく日々の支援ができてしまいます。しかしお子さんが増えるにつれ、役割分担ができていないことが原因で支援員の間でお見合いやすれ違いが起きたり、仕事の押し付けあいが生まれたりしがちになります。その結果支援員同士の人間関係が悪くなって、最悪の場合早期離職へとつながってしまうことがあるのです。
そうならないためにも事前に役割がはっきりと決めておき、支援員が見通しをもって安心して新しい施設で働くことができるようにすることが大切です。
次回は、役割分担と並んで開業前にしっかり決めておきたい「物理的な環境設定」についてお伝えしたいと思います。引き続きご期待ください。
東京学芸大学大学院障害児教育専攻卒業。教育学修士。 大学院在学中は自閉症児療育の「太田ステージ」開発者である太田昌孝医師の指導のもと、東大付属病院や通級指導教室でソーシャル・スキル・トレーニングの実践研究を行う。 卒業後、福祉団体や人材紹介会社で成人発達障害者の就労支援に携わった後、放課後等デイサービスの大手FCチェーンに就職。カードゲームやボードゲームなどを使って、発達障害のある子のコミュニケーション力を高める「アナログゲーム療育」を開発する。 2015年に独立。現在はフリーランスの療育アドバイザーとして、放課後等デイサービス中心に児童発達支援施設、就労移行支援施設、学校など100ヶ所以上を訪問し、実践とコンサルティングを行っている。 「コンサルタント」の詳細はhttps://houday.gameryouiku.com/ 「アナログゲーム療育」の詳細はhttps://www.gameryouiku.com/