介護・福祉事業のコンサルタント・片山海斗です。介護経営ドットコムでは、多くの中小規模の事業者様がお悩みを抱えている「採用」、「営業活動」、「運営指導」についてよくある失敗や、実践的な解決策をお伝えしています。
今回のテーマは、営業活動の改善策についてです。「戦略的な営業活動」、「成果の出る営業活動」について定義づけ、その具体的なアクションについて紹介します。
介護業界では、営業活動は軽視されがちです。その背景には「営業しなくても利用者が集まる」という過去の経験があるのではないでしょうか。5〜10年前は、業界内の競合が少なく、需要も高かったため、営業活動をせずとも利用者が自然と集まる状況でした。
しかし、今や状況は一変しています。需要は未だに高いものの、競争が激化し、規模の経済が動き出しています。
2030年に向けて、介護業界のみならず、社会全体で事業の集約化や競争の激化が進むと予測されています。この変化に対応するには、営業活動を抜本的に見直し、早い段階から戦略的に動き出す必要があります。市場が成熟する前に営業を本格化し、準備を整えた事業所こそが生き残り、勝ち残ることができるのです。
介護業界における営業活動は、他業界に比べるとシンプルに見えます。
その理由としては
ことが考えられます。
概して、昔ながらの営業手法が採られていることが多く、複雑な戦略や手法を必要としないと受け止められています。「飛び込み営業」や「チラシ配布」のようなアナログな手法、介護業界ではポピュラーです。
しかし、こうした営業手段を最大限に活用できている事業所は多くありません。
介護業界の営業活動はシンプルだと思われがちですが、その分、差別化や効果的な戦略の構築が求められる奥深い分野なのです。
営業活動の見直しをお手伝いするうえで、よく指摘させていただくのがチラシです。
デザインが洗練されているだけのチラシは、他社のものに埋もれやすく、記憶に残りません。また、自社の「強み」をきちんと伝えきれていないチラシが数多く存在しています。ありきたりな表現を使っただけのチラシでは、介護を必要とする本人や家族、また毎日何社分も同じような営業チラシを見ているケアマネジャーらの心に残ることは難しいでしょう。
まずは、自社の強みや提供できる価値を明確にし、それを端的に表現したチラシを作ることが重要です。そのために活用したいのが、「SWOT分析」です。
SWOT分析とは、自組織の「強み(Strengths)」「弱み(Weaknesses)」「機会(Opportunities)」「脅威(Threats)」を洗い出し、事業の外部環境や内部環境を客観的に評価する手法です。この分析を行うことで、自社の独自性や市場での立ち位置が明確になり、効果的な営業戦略を立てるための土台を築くことができます。
例えば、以下のような分析をみましょう。
この結果を基に、営業活動を具体的に落とし込んでいきます。
自社の強みを活かして営業活動を強化するには、さらに適切な戦略を選択する必要があります。以下に代表的な3つの戦略を挙げ、その特徴を解説します。
他社が提供していない独自のサービスや価値を強調する戦略です。例えば、障害に特化していることや、認知症ケアの専門性を強みとしてアピールすることが差別化につながります。また、最新のテクノロジーを活用したモニタリングやデータ活用サービスを取り入れることも一つの差別化要素となります。
特定の疾患や地域、ターゲット層に絞り込んで営業活動を行う戦略です。例えば、障害介護に特化した事業所や、研修に力を入れていて専門性が高い事業所として営業を展開することが挙げられます。このように特定分野に注力することで、ニッチな市場で確固たるポジションを築くことができます。
競合他社よりも低コストでサービスを提供し、価格優位性を打ち出す戦略です。
介護サービスの価格は公定価格で定められているため、価格競争や値下げによるコストリーダーシップ戦略を取ることは現実的ではありません。そのため、他の差別化や集中戦略に注力することがより適しています。
介護業界で今後生き残るためには、差別化戦略と集中戦略を組み合わせた営業活動が不可欠です。
差別化によって他社と異なる価値を生み出し、集中戦略でその価値を特定のターゲット層に確実に届ける。この両者が連携することで、強力な競争優位性が生まれます。
例えば、地域限定で障害に特化した訪問介護サービスを提供する事業所を考えてみましょう。この場合、障害に特化することで専門性を差別化し、さらに地域の特定層に集中して営業を行うことで、利用者やその家族、ケアマネジャーから信頼を得ることができます。
最後に重要性を指摘したいのは、「根拠のある営業活動」を行うことです。営業活動を単なる「数をこなす作業」にしてはいけません。効果的な営業活動を行うためには、まず原点に立ち返ることが必要です。たとえば、以下のような問いを自らに投げかけてみましょう。
こうした問いに答えながら、営業活動を改善し、より効果的な手法を見つけ出してください。
営業活動の改善は、介護事業所の成長と存続に直結します。市場環境が厳しさを増す中で、差別化戦略と集中戦略を組み合わせ、効果的な営業活動を行うことが生き残りの鍵となります。何となく行う営業ではなく、根拠のある営業を取り入れることで、事業所の魅力を確実に伝えましょう。
未来への準備を整えた事業所こそが、今後の市場で確固たる地位を築くことができるのです。
Professional Care International株式会社代表取締役。17歳で介護業界に入り、高齢者虐待をなくすことを決意。全国200箇所の施設を見学し、NARBRE合同会社を史上最年少で設立。訪問介護事業を展開する。その後、介護・福祉業界向け総合コンサルティング会社を設立。事業再生、運営指導対策等の総合コンサルティングサービスを提供し、全国150社以上を支援。ITに強く、DX化を推進する。現在は複数の会社役員を務め、全国で研修やセミナーを実施している。