コロナ禍を機に推進│居宅介護支援事業所の情報伝達DXとその効果

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2020年の新型コロナウイルス感染拡大は居宅支援事業所の働き方にインパクトを与えました。感染防止のための特例措置や利用者・ご家族からの要望等により、ケアマネジャーは利用者宅への訪問を控えることが増え、サービス担当者会議も電話での照会に置き換えることが認められていました。

当時を振り返ると、この出来事が情報伝達の効率化を大きく進めるターニングポイントだったと感じます。感染の恐怖と戦っていた日々ではありましたが、コロナ対策にのみ追われていては自身と事業所の成長が止まってしまうと感じ、情報通信技術の活用に取り組むことを決意しました。

私は、普段、居宅介護支援事業所の管理者として3名のケアマネジャーとともに働いています。コロナ禍に際して、彼女達と話し合いながら事業所内外との情報共有でのICT活用を進めたときの経験についてお伝えします。

口頭連絡が生む無駄な業務やミスがコロナ禍の緊急対応を阻んだ

「ICTを使って業務効率化を図ろう」―。当時、こう決めたからには、まず自分達を取り巻く課題について共通認識を持つ必要があると考えました。そこで、私たちは初めに、現状の課題について事業所内で意見を出し合いました。特に課題感が強かったのは、口頭による情報伝達や共有についてです。

「言った、言わない」という類の不毛な争いや伝言ゲームの過程で起こる情報の変化、伝言メモを残す手間、情報収集や発信スピードの遅れによる対応ミス…すぐに思い当たる範囲でもさまざまな問題が起こっていました。

また、コロナ対策では、利用者から感染の連絡を受けたらすぐにサービス事業所へ連絡するなどといった迅速な対応が必要でした。しかし利用者向けの対応やサービス調整の業務負担軽減を効果的に進めるには、ケアマネジャーだけではどうしようもない部分もあります。

そこで次に私たちは、メンバー全員がどのような情報のやり取りをしているのかを挙げ、”急ぐ・急がない”、”重要・重要でない”、”伝えなくても良いこと”、”曖昧である”、”面白い”、”悲しい”…などなど、情報をラベリングしていきました。

その後、すぐに使うことができる、あるいはこれから使えるテクノロジーは何かを書き出しました。スマートフォン・パソコン・タブレットやスマートウォッチのようなウェアラブルデバイスなどです。

そして、それらを使ってどのような情報のやり取りができるのかを書き出しました。

ショートメール・Eメール・LINE・チャット・SNSなどです。

最後に、ここで上がった情報の種類と連絡手段をまとめて、どのような状況でどのような連絡手段を使うと効果的なのか時間を掛けて話し合いました。

正確で効率的な情報共有の必要性を訴えチャットツールを導入

事業所内での話し合いの結果をもとに行ったのは、職場の上司へのスマホ購入の相談です。

それまで事業所では折りたたみ携帯を使っていましたが、外出先や自宅待機中、コロナに感染した時の情報周知や急ぎの対応など、「正確で効率的な情報伝達が求められる今、どこにいても大事な情報を伝達、共有することが大切だ」と訴えました。スマホの購入には約半年間かかりましたが、なんとか決裁がおりてスマホの購入とチャットツールの導入に至りました。

初めのうちはメッセージに気づかない職員もいたので「メッセージを送ったよ」と口頭で伝え合うことがありました。それから、導入したチャットツールのスケジュール共有、アドレス帳共有、アンケート・掲示板など、さまざまな機能を利用しながら、試行錯誤を繰り返し、事業所に適したシステムに改善していきました。

チャットツールを導入した効用としては、伝言メモが不要になったことと、カレンダー機能を使うことでスケジュール管理が簡単になったことが大きかったです。また、情報を全員に一括で伝達できるようになり、コミュニケーション不足が解消されました。アドレス帳機能を利用することで、名刺の管理も不要になり、連絡先の共有も楽になりました。

こうして事業所全体で必要な情報・最新の情報を共有できる環境が整いました。

FAXからメールへの変更に7割のサービス事業所が協力

次に、サービス事業所との連携についてお話しします。取り組みを始めるまで書類の送付は主に郵便で行われていました。一人の利用者に5つの事業所が関わっている場合は必然的に、それぞれにプランを印刷し、封筒を用意し、郵便切手を貼り、送っていました。

また、利用者が入院した際などは電話連絡していましたが、やはり全ての事業所へ同じ情報を伝える必要がありました。弊害として、担当者間の行き違いがあって何度も電話しなければならなかったり、電話がかかってきたことで業務が中断したりして、とても非効率的だという課題意識がありました。

効率化を働きかけるに当たり、サービス事業所はメールアドレスを保有していることが多いと知っていたため、そのアドレスを収集して情報や書類のやり取りを進めることにしました。

まず、居宅の利用者をお願いしている全サービス事業所へFAXを送り、メールによる情報連携のお願いをしました。対応してくれるところは約7割程度ありました。これで、急ぎでない連絡や計画書などの書類、サービス担当者会議の依頼・照会などもメールでできるようになったのです。

また、オンライン会議のURLなどもメールで送り、積極的にWEB上でサービス担当者会議を行いました。これが利用者宅での三密回避や担当者の移動を含めた業務負担軽減に繋がっています。

やってみて特に効果を感じたのは、メールに記載した内容を支援経過記録として残せることでした。ケアマネがアクションを起こした証拠が残ります。何月何日何時といった情報も文字にして伝えることができるため、お互い正確な情報を共有できることも利点です。

新型コロナという有事に迫られた業務効率化とその恩恵

振り返ると、事業所内でICT(情報通信技術)について向き合い、話し合ったことが業務の効率化が加速したきっかけだったと思います。特にコロナ感染拡大下という非常時にその情報は急ぐのか、それとも急がないのか、重要なのか、重要ではないのかとケアマネジャーが判断する必要に迫られたことが、意思を持って情報伝達手段を使い分け、効率的なコミュニケーションを実践する後押しとなりました。

現在は、時間に余裕ができて働きやすい環境が実現できていると感じています。

私は、新型コロナという世界を揺るがす感染症がなければ自身の行動を変えようとしなかったかもしれません。社会の変化に応じ、自分自分も対応することが、働く環境を適切なものに変化させていくのだと思います。

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