新型コロナウイルスは介護事業の経営にも影響している。公益財団法人日本訪問看護財団は、令和2年4月16日~24日と6月15日~22日に訪問看護財団会員に、訪問看護師のメンタルヘルスの実態と対応及び新型コロナウイル ス感染症における訪問看護ステーションの経営上の影響等について、 Web アンケート調査を2回実施した。
第1回目の調査で、訪問回数が「全体的に減った」という事業所は 52.4%(2020年1月から3月の推移)、第2回目の調査では利益が減っている事業所は43.9%にまで達しており、約2カ所に1カ所は新型コロナウイルスによる影響が出ているという調査結果となった。利益の減少は「1割程度減少」と答えている事業所が半数を超えている。訪問看護ステーションは支援策として、人件費への補助金や損失への給付金を希望しているところが多かった。
一方、新型コロナウイルスによる影響は経営状況だけではない。職員のメンタルヘ ルスについても心配の声は大きい。利用者について、感染症及び濃厚接触者が発生した事業所は9.4%、感染症の疑い者等に対して、訪問看護を行った訪問看護ステーションは25.3%あり、約30%の事業所が新型コロナウイルスの感染者・ 濃厚接触者・疑い者の居宅に訪問している結果となった。職員から、新型コロナウイルスに関連したメンタルヘルスを心配するような訴えがあったのは48.9%であった。 訴えの具体的な内容は「新型コロナウイルスに対する恐怖心がある」、「感染防護具が足りないことによる不安」、「気分が落ち込む」、「疲労感が取れない」等の訴えであった。
厚生労働省から臨時的対応として給付金・助成金・融資などの通知が出たが、「特に利用しなかった」訪問看護ステーションは 372 件中、221 件 であった。
そうした訪問看護ステーションが多く存在した背景には給付金・補助金の要件に該当しなかったなどの理由もあるだろうと考えられる。現在、他事業所への挨拶回りができなかったりして訪問看護ステーションの経営者・管理者にとっては先行きが心配な状況だろう。また、訪問看護ステーショ ンは看護職員の常勤換算が5人未満で運営しているステーションが約60%を占めていることもあり、そのようないわゆる零細企業にとって経営への影響は特に大きいといえる。 政府には事業所などの要望を踏まえた上で、十分な支援策を講じてもらいたい。
業界では、訪問看護ステーション数が10,577 事業所と年々増加しており(厚生労働省 介護給付費実態調査統計)、他社との差別化を図っていくためにも経営革新が必要であると筆者は考える。
昨今、大規模災害等も続いたり、サービスの多様化が進んでいる。今まではいかに 自社が競合社に対して打ち勝っていくかであったが、他事業所・企業・地域との「連携」という視点も必要となる。一企業の経営者としてどのように事業を継続していく かが必要になってきており、企業の変革が求められている。上記のアンケート結果から、新型コロナウイルスが経営に影響している訪問看護ステーションは多い が、公的保険事業にとらわれず、会社のビジネスモデルやイノベーションを起こす機会でもあるだろう。
・第1弾 新型コロナウイルス感染症に関する緊急アンケート調査 (財団会員2,714件のうち回答数424件)
(https://www.jvnf.or.jp/home/wp-content/uploads/2020/05/200525korona-chousa.pdf)
・第2弾 新型コロナウイルス感染症に関する緊急 Web アンケート調査 (財団会員3,113件のうち回答数は372件)
(https://www.jvnf.or.jp/home/wp-content/uploads/2020/07/200710COVID-19_chousa2.pdf)
・令和2年度日本訪問看護財団事業のご案内
https://www.jvnf.or.jp/2020/homecare-web.pdf
株式会社ビジケア代表取締役。看護師。訪問看護ステーション設立に参画した自身の経験をもとに、多数の事業所運営サポートを実施。看護師の視点で現場職員への教育や収益改善のサポートを行う。全国各地で年間700人を超える訪問看護ステーションの経営者・管理者向けに講義・セミナーを実施している。