2024年度介護報酬改定でも、介護職員らの賃上げ・処遇改善を目的とした加算の扱いは引き続き焦点となります。これらの加算には賃上げだけでなく、介護事業所における働きやすい環境の整備を促す目的があります。
加算の算定状況を見ると、介護事業者による働きやすい職場づくりとそれを従業員に見える形で伝えるという意識付けは意識付けは介護事業者の間で一定程度進んでいるようです。また、通所介護や訪問介護事業所はほかのサービスと比べて従業員の昇給体制の整備が進んでいないといった課題が見えてきました。
4月7日の社会保障審議会・介護給付費分科会では、21(令和3)年度介護従事者処遇状況等調査の結果が了承されました。これは、介護従事者の処遇の状況や介護職員処遇改善加算(以下・処遇改善加算)などの施策を評価すると同時に、24年度介護報酬改定に向けた議論の基礎資料として扱われるものです。
調査の概要は、以下の通りです。
・調査実施時期:2021年10月 ・調査対象:介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院、訪問介護事業所、(地域密着型)通所介護事業所、通所リハビリテーション事業所、特定施設入居者生活介護事業所、 小規模多機能型居宅介護事業所、認知症対応型共同生活介護事業所、居宅介護支援事業所 ・調査客体数 1万3,724施設・事業所 ・有効回答数 8,812施設・事業所(有効回答率:64.2%) ・調査項目 処遇改善加算・介護職員等特定処遇改善加算(以下・特定加算)の取得状況、調査対象施設・事業所に在籍する介護従事者等の給与(20年9月と21年9月の給与) 等
この調査で明らかになっている処遇改善加算・特定加算のサービス別の算定(届出)状況はそれぞれ以下の通りです。
【画像1】介護職員処遇改善加算の届出状況(記事中の引用画像はいずれも 令和3年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要(案)より。内容は4月7日の社保審・介護給付費分科会として了承済み。)
【画像2】介護職員処遇改善加算の届出状況
主に医療法人が運営しているサービス以外では、処遇改善加算の算定率が9割を超えています。それだけでなく、本調査に対する有効回答率が6割を超えていることからも事業者の関心の高さが伺えます(参考として、3月にまとまった「介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査」の回答率は5~4割前後が多くなっています)。
また、特定加算の算定状況についてみると処遇改善加算と比べてサービス種別間の差が大きくなっています。
処遇改善加算(I)と (II)の要件の違いは、「経験もしくは資格等に応じて昇給する仕組み、または一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること」(=【キャリアパス要件3】)を満たしているかどうかです。
画像1について、サービス種別ごとの状況を見ると、処遇改善加算の算定率が全体的に比較的低い介護医療院やデイケアだけでなく、通所介護や訪問介護でも加算(I)と(II)の算定率に開きがあります。
同加算(I)を取得することが困難な理由としては、通所介護では「職種間・事業所間の賃金のバランスがとれなくなることが懸念されるため」が過半数を超えて最も高いのに対し、訪問介護では「昇給の仕組みを設けるための事務作業が煩雑であるため」が41.5%と最も高くなっています。
【画像3】処遇改善加算の取得が困難な理由(複数回答可)
特定加算の算定状況では、訪問介護や通所介護の算定率の低さが目立ちます。また、特定加算を算定している事業所のうち、上位の加算区分「(I)」を取得している事業所は全体で39.6%、特に低いのは通所介護(30.0%)、認知症対応型共同生活介護(33.7%)、訪問介護(34.8%)などとなっています(画像2)。
特定加算の特徴は、「経験・技能のある介護職員」(勤続年数10年以上の介護福祉士を基本として事業所の裁量で設定)への重点的な配分であり、具体的な職員間の配分については一定の範囲で事業所の裁量が認められています。この配分状況の内訳については、以下の表の通りで、「他の介護職員」に配分した事業所は85.0%、「その他の職種(看護職員、生活相談員、事務職員など)」に配分した事業所は53.3%でした。
一方で特定加算の届出をしない理由は、全体的な傾向として「賃金改善の仕組みを設けるための事務作業が煩雑であるため」(42.2%)、「賃金改善の仕組みを設けることにより、職種間の賃金のバランスがとれなくなることが懸念されるため」が(40.2%)と高くなっています。訪問介護と通所介護でも事務作業の負担を理由に挙げる事業所が最も多くなりました。
また全体的な傾向として、「賃金改善の仕組みをどのようにして定めたらよいかわからない」と回答している事業所も処遇改善加算より10ポイント以上多くなっています。
【画像4】特定加算の取得理由
この調査結果からは処遇改善加算や特定加算によって、介護職員の賃上げが一定進んでいることも示されています。
一方で、22年10月からはさらに経済対策という別の観点から「介護職員等ベースアップ等支援加算」が創設されるなど、制度・手続きの複雑さはさらに増す見通しです。
制度や手続きのスリム化は、介護給付費分科会などの制度の検討の場において、事業者だけでなく行政からも要望が上がり続けています。次期改定に向け、根本的な見直しが検討されることが期待される部分です。
*関連記事:介護職員等ベースアップ等支援加算と処遇改善加算、特定処遇改善加算の違いを比較
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