介護現場におけるハラスメントは大きく分類すると3つ挙げられます。
1)身体的暴力
身体的な力を使って危害を及ぼす行為を指します。職員が回避するなどして危害を免れたケースも当てはまります。物を投げつけられる、叩かれたり蹴られたりする、唾を吐くなどが挙げられます。
2)精神的暴力
個人の尊厳や人格を言葉や態度によって傷つけたりおとしめたりする行為を指します。大声で怒鳴る、サービス提供の状態をのぞき見する、威圧的な態度をとり続ける、理不尽なサービスを要求する、特定の職員に嫌がらせをするなどが挙げられます。
3)セクシュアルハラスメント
意に添わない性的誘いかけ、好意的態度の要求など性的な嫌がらせ行為を指します。必要もなく身体に触る、卑猥な言動を繰り返す、女性のヌード写真を見せるなどが挙げられます。
介護事業所に勤務する職員のうち利用者や家族などからハラスメントを受けた経験がある職員はサービス種別ごとに違いはありますが、利用者からでは4~7割、家族等からでは1~3割程になっています。
訪問系事業所、通所系事業所、居宅介護支援事業所では精神的暴力が最も多く入所、入居系の施設では身体的暴力及び精神的暴力のいずれもが高くなる傾向になっています。これらのハラスメントを受けたことが原因となり怪我や病気になった職員はハラスメントを受けた職員全体に対し1~2割、仕事を辞めたいと思ったことのある職員は2~4割となっています。
ハラスメントが発生した原因について事業所管理者等は「利用者、家族等の性格や生活歴」「利用者、家族等がサービスの範囲を理解していないから」「利用者、家族等がサービスへの過剰な期待をしているから」「利用者、家族等の認知症などの病気や障害によるもの」など上位に挙げています。一方、利用者、家族等からのハラスメントの未然防止や解決に向けた取り組みを行う中で最も困難な点は「ハラスメントかの判断が難しい」ということが最も多く挙げられています。
ハラスメントを受けた職員からみたハラスメントの発生要因としては「管理者等に相談しようにも十分な対応をしてもらえない」「管理者等に相談しても職員側が悪いと決めつけられる」「ハラスメントを受けたことの相談をしにくい雰囲気がある」「自分だけが我慢すればおさまる」「自分が未熟だから」「自分のなかだけに抱え込んでしまう」という意見もあります。
ハラスメントはいかなる場合でも認められるものではありません。介護職を選択して日々業務に従事する職員を傷つける行為です。暴行罪、傷害罪、脅迫罪、強制わいせつ罪などに該当することもあり得ます。しかしながらそのようなハラスメントにより怪我や病気となったり仕事を辞めたいと思ったことがある職員が少なくない状況にあります。事業者としては労働契約法に定める安全配慮義務等の点から、事業者の責務として利用者、家族等からのハラスメントに対応しなければなりません。
一方でハラスメントを行っている利用者、家族等の中には自分の行為が著しい迷惑になっていると認識していない人もいます。疾患、障害、生活困難等から心身が不安定になってこともハラスメント行為を行ってしまっているケースもあります。ハラスメント対策を考えるうえでは、これら個別の状況に配慮することも必要ですが、重要なのは客観的にハラスメントの事実があったことを第一に考え再発防止策を講じることです。適切なハラスメント対策をとることで介護職員を守ることだけではなく、利用者も継続的で円滑な介護サービスを受けることが可能になることになります。
事業者自身として取り組むべきこと
事業者がハラスメント対応として取り組むべきことは「基本方針の決定」「基本方針の職員、利用者、家族等への周知」「マニュアルなどの作成共有」「相談窓口の設置」「介護保険サービスの業務範囲へのしっかりした理解と統一」「PDCAサイクルを利用した対応策の更新」の6点が基本となります。
「基本方針の決定」ではハラスメントを絶対に許容しないことを明確にします。介護保険では「職員による利用者虐待」は明確に禁止されていますが同様に「職員へのハラスメントはあってはならない」とすることが基本です。
「基本方針の職員、利用者、家族等への周知」では決定した基本方針を適切な手法で関係者に周知することになります。利用者家族等には契約時や契約更新時などに重要事項説明書などへの基本方針の記載などで周知するとともに、個別に内容を説明すます。職員に対しても十分な説明を行い事業所として意識を統一し誰であっても同じ対応ができるようにします。
「マニュアルなどの作成共有」ではハラスメント対応マニュアルの作成共有はもちろん事業所内で管理者等の役割を明確にすることを含めて、具体的な対応策を決めて整備します。これは職員の意見も取り入れながら対応方法を検討することが必要になります。この取り組みの中で、職員同士がハラスメントに対する課題を含めて職場で感じていることを共有することができ、意識の向上も期待できます。結果として働きやすい労働環境の整備に繋がることも考えられます。
「相談窓口の設置」では明らかなハラスメントはもちろん、その可能性が考えられる事象についても気軽に相談できるようにして、その窓口があることを職員に周知します。より多くのハラスメントやハラスメントが疑われる事象に関する情報が集められることから対策マニュアルの充実にも役立ちます。
「介護保険サービスの業務範囲へのしっかりした理解と統一」では事業者自身が介護保険のサービスを理解してサービス提供に際しての対応と説明を統一することが求められます。職員ごとにバラバラなサービス提供をしていては、「あの人はここまでしてくれたのに、この人はこれしかしてくれない」ということも発生してしまい、利用者、家族等に不信を与えるかもしれません。これは苦情の発生やひいてはハラスメントの発生につながることも考えられます。サービス提供の範囲を統一したうえで、内容をわかりやすく説明することでハラスメントのひとつでもある契約範囲外のサービスを強要されることを防止できます。
「PDCAサイクルを利用した対応策の更新」では、一度作成したハラスメント対応策やマニュアル等も適宜見直しや更新をしていくことが求められます。ハラスメント対応策を準備してもハラスメントを完全に防止できるとは限りません。そのため新たに発生したハラスメント事案について、発生した背景も含めてなるべく詳細に把握してあらためて同様の事案が発生しないように対策を考え直すということになります。このときPDCAサイクルを使って随時対応策を見直していくことが大切になります。常に継続してハラスメント対策を更新していくようにします。
職員に対して取り組むべきこと
株式会社オーバー代表取締役。拓社会保険労務士事務所代表。社会保険労務士、社会福祉士。 社会保険労務士事務所に入所。医療・福祉業界含め数多くの企業を担当。組織づくり、チーム運営、マーケティング、IT 活用、仕事と家庭の両立を軸とした人事労務コンサルティングで好評を得る。 平成28年会社設立。平成29年1月訪問看護ステーションシンプル、同年5月生活支援サービスチョイス、同年9月ライフパートナーワン・スタイル、居宅介護支援事業所ワン・スタイル、平成30年8月ライフサポートイメージ(訪問介護事業)を立ち上げる。