厚生労働省は10月30日、オンラインで第190回社保審・介護給付費分科会を開催。居宅介護支援・介護予防支援の報酬・基準について、検討の方向性が示されました。報酬の逓減制の見直しや、緊急対応業務の実費徴収、サービス利用前のケアマネジメントへの報酬、通院同行の評価など、報酬増に関わる議論が進んでいます。
これまでの分科会では、ケアマネジャーの担い手不足や居宅介護支援事業所の収支差率の低さが指摘されてきました。そこで論点の一つとなっているのが、ケアマネジャー1人あたりの担当件数が40件を超えると報酬が半減、60件を超えると3分の1以下になる、報酬の逓減制の見直しです。
同じ分科会で共有された介護事業経営実態調査の結果によると、居宅介護支援事業所の収支差率はマイナス1.6%。例年の調査に続き、全サービス種別の中で唯一、収支差率がマイナスとなっています。
居宅介護支援事業所の経営状況や報酬体系の簡素化などの観点から、厚労省は逓減制の見直しについて提案しました。事務職員を配置することや、スマートフォンなど携帯情報端末の活用による、ケアマネジャーの業務効率化の効果について調査結果が共有され、事務職員の配置、ICT活用などを逓減制緩和の要件とする案も示されています。
担当件数を増やすことでケアマネジメントの質が下がるとして導入された逓減制について、委員からは、見直すことに慎重な意見と、質が担保されるならば見直しも検討すべきという賛否両論の意見が交わされました。
携帯情報端末(スマートフォン、タブレット等)の利用状況について、「利用している」は11.6%に留まるという調査結果もあり、ICT導入の実現性について懸念する声もありました。事務職員の配置・ICT導入の実現性と、業務効率化の効果について、より詳しい調査や検討が必要ではという意見があがっています。
利用者や家族の依頼で、本来のケアマネジメント業務以外の突発的な対応等も行っているケアマネジャー。分科会では「市町村独自サービスへの代理申請」「介護や環境支援にはつながらない相談」「入院時の付き添い」などの業務を行っている実態が共有されました。
このような実態を踏まえて厚労省は、ケアマネジャーが緊急時等にケアマネジメント業務外の対応を行った場合、費用を実費徴収できることを明確化してはどうかと提案しました。
ケアマネジャーの業務範囲が広がり、負担が増え、専門性を活かした本来の業務に集中できなくなることへの懸念や、実費徴収ではなく基本報酬で評価すべきという意見があがりました。
退院時等に必要なケアマネジメントの対応を行っても、サービス利用につながらなかった場合には、報酬を算定できない現状があります。調査によると、ケアマネジャーの43.3%が、情報提供や相談、ケアプラン作成等を行ったが給付につながらなかったケースがあったと回答しています。
利用者の事情等でサービスにつながらなかった場合でも、報酬上で評価するという方向性が厚労省から示されました。委員からは概ね賛成意見が集まりましたが、サービスにつながらない理由を明らかにするべきという意見もありました。
居宅介護支援において、入退院時の医療機関との連携については加算で評価しているものの、通院時に同行して情報連携した場合の評価はありません。ケアマネジャーへの調査によると、53.3%が通院に同行したことがあり、その際、利用者の心身や生活の状況、服薬状況などの情報を伝えています。
このような実態を踏まえて、通院同行時の情報連携について報酬上の評価を検討する案が、厚労省から示されました。
厚労省の検討の方向性案をもとに、居宅介護支援の報酬改定について引き続き議論が進みます。議論の動向をチェックしておきましょう。
引用:第190回社会保障審議会介護給付費分科会「居宅介護支援・介護予防支援の報酬・基準について(検討の方向性)」より
※本記事は「介護マスト」から移行しており、記事は2020年11月6日掲載のものです。
ライター歴8年、介護業界取材歴5年。介護業界の経営者や現場責任者、介護関連施設への取材を重ねてきました。介護業界を支える皆さまの役に立つ情報発信を心がけています。