10月30日、オンラインで第190回社保審・介護給付費分科会が開かれ、「介護事業経営実態調査」などの結果が報告されました。これらの調査結果は介護報酬改定に影響を与える重要なデータとなるため、チェックしておく必要があります。今回の調査結果のうち、ポイントとなる①収支差率、②人件費率、③新型コロナの影響について見ていきましょう。
2019年度決算における介護サービス全体の収支差率は2.4%でした。2018年度と比較すると、0.7%低下しています。
収支差率が良化しているのは、訪問入浴介護(+1.0%で3.6%)、訪問看護(+0.2%で4.4%)、特定施設入居者生活介護(+0.4%で3.0%)、福祉用具貸与(+0.5%で4.7%)、小規模多機能型居宅介護(+0.3%で3.1%)の5サービスのみで、残りのサービス種別ではすべて悪化しています。
前年比で特に収支差率が低くなったのは、1.9%の低下で収支差率が2.6%となった訪問介護、2.6%の低下で収支差率が3.3%となった看護小規模多機能型居宅介護など。全サービスのうち収支差率自体がマイナスとなったのは居宅介護支援のみで、収支差率はマイナス1.6%となりました。前年度比で1.5%低下しています。
委員からは、介護報酬改定の基礎資料となる調査として、有効回答率が低すぎるという指摘もありました。有効回答率は、概況調査が48.2%、今回報告された実態調査が45.2%となっています。
収支差率悪化の原因の一つと考えられているのが人件費の増加です。介護人材の確保に多くの事業所が悩む中、収入に対する給与費の割合は2018年度から0.4%上昇しています(全サービス平均)。介護医療院を除いた前年度と比較できる22のサービス区分のうち、給与費割合が増加したのは16サービス、最も増加したのは夜間対応型訪問介護でプラス6.1%でした。
今回の分科会では「新型コロナウイルス感染症による介護サービス事業所等の経営への影響」も公表されました。この調査は介護事業経営実態調査では把握できないコロナの影響を把握するために実施されたものです。
調査によると、収支の状況がコロナ流行前よりも「悪くなった」と回答した事業所の割合は5月で47.5%、10月の調査では「悪くなった」が32.7%でした。サービス別に見ると、通所リハビリテーションは80.9%、通所介護は72.5%、短期入所生活介護は62.5%と通所系サービス、ショートステイで高い傾向がありました。
収入の減少と支出の増加の両方が、事業経営に重くのしかかっているという状況が調査結果から見えてきます。サービス種別の保険給付額の合計を見ると、対前年同月比で5月はプラス0.5%となっていますが、通所リハビリテーションはマイナス15.4%、通所介護はマイナス7.7%、短期入所生活介護はマイナス4.5%、短期入所療養介護(老健)はマイナス34.6%に落ち込んでいます。
利用者数も減少しており、1事業所あたりで見ると、前述順にそれぞれマイナス13.9%、マイナス10.0%、マイナス20.0%、マイナス31.3%となっています。6月以降は、保険給付額と利用者数ともにやや持ち直しています。
コロナ前よりも支出全体が「増えている」と回答した事業所は、5月で54.7%、10月で53.3%となっています。内訳を見ると、マスクや消毒液などの衛生用品の経費が「増加している」と答えた事業所は5月で79.2%、10月で53.4%となっており、感染防止策のための経費が収支差を悪化させる要因のひとつになっています。
コロナの影響が長引き、新たに生じた支出がこのまま固定費化していくことが懸念されます。一方、人件費については5月、10月とも「変化なし(無回答)」の割合が最も高くなっています。
これらの調査結果をもとに、介護報酬改定に向けて引き続き議論が進みます。12月の取りまとめに向けて、議論の動向に注目しておきましょう。
引用:第190回社会保障審議会介護給付費分科会「令和3年度介護報酬改定に向けた各種調査の公表について」より
※本記事は「介護マスト」から移行しており、記事は2020年11月6日掲載のものです。
ライター歴8年、介護業界取材歴5年。介護業界の経営者や現場責任者、介護関連施設への取材を重ねてきました。介護業界を支える皆さまの役に立つ情報発信を心がけています。