2021年度介護報酬改定では、すべての介護事業者を対象に策定が義務付けられたBCP(業務継続計画)。24年度からの完全義務化を見据え、ビジネスチャットツール「LINE WORKS」(ワークスモバイルジャパン)はこのほど、「介護事業者のためのBCP策定セミナー」を開催しました。BCP策定時に考慮するべきポイントやICTツール活用の可能性について、要点をご紹介します。
改めておさらいですが、全ての介護サービス事業者には感染症や災害が発生した場合でも、必要なサービスを継続的に提供する体制を構築することが求められます。2024年に義務付けられる取り組みは以下の3つです。
・BCP等の策定 ・研修の実施 ・訓練(シミュレーション)の実施
BCP策定については「新型コロナウイルス感染症発生時」「自然災害発生時」の2種類が必要です。
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またBCPは、施設・事業所単位での策定が必要であるため、複数の施設・事業所を持つ法人では、限られた経過措置期間の中で計画的に取り組まなければなりません。また、複数施設を運営する法人については、法人本部としてのBCPも別途作成することが望まれます。加えて、非常時に不足人員や物資を補填し合えるよう、あらかじめ地域内の法人間にて相互応援の連携を整えておくことが理想的とされています。
セミナー講師を担当した日本クレアス税理士法人の大藪直史氏は、厚労省が公表しているガイドラインから特に重要度の高い点をピックアップして解説しました。中でもBCP策定時に考慮したい2つのポイントについて整理します。
日本総合研究所による調査報告書によると、過去(10年間程度)に自然災害によって停電や断水の経験があると回答した施設・事業所は43.0%を占めます。
そのうえで、大藪氏は自然災害発生時のBCP策定における基本方針『3日間の初動対応』の重要性について強調しました。3日間を乗り切ることができれば、外部から何らかの支援を受け取れると想定されるため、これを踏まえたうえで確保すべき消毒の本数や優先業務内容の選定等、BCPの策定に具体的に反映させることが求められます。
BCP策定時に考慮すべき重要なポイントが、最低限継続するべき「優先する事業」と、その中でも「優先する業務」の選定です。特に自然災害発生時のBCPでは、
・利用者の生命・健康を維持するためにどんな業務が最優先で必要か ・優先業務を継続するために、最低限必要な人数はどの程度か
これらを洗い出したうえで具体的に検討しておくことが有効です。大藪氏は「有事の際のパニック状態では冷静な判断はできないため、BCP策定時にあらかじめ考えておくべき」と強調しました。
また、新型コロナウイルス感染症発生時に大きな問題となるのが、職員の確保です。感染拡大や濃厚接触者の増加等により、職員の十分な確保が難しくなる事態を想定し、職員の出勤率を考慮したうえでの出勤率別業務分類をより具体的・明確に定めておくことが求められます。
▼大藪氏による作成例▼
自然災害発生時は、被害状況や安否確認、出勤・収集の可否等をよりスピーディーに把握することが求められます。有事の事態に直面した際、これらの情報を電話でのやり取りしかできないと、情報が記録として残らずに錯綜してしまう恐れがあると大藪氏は言及。やり取りの記録が残り、写真や動画の共有も可能なビジネスチャットツール等のICTをうまく活用し、正確かつスピーディーに状況を把握することの重要性を強調しました。
また大藪氏は、チャットツールを利用するメリットとして、リアルな被害状況を記録に残すうえで、スマホ等で撮影した画像を手軽に共有できるという点も指摘しました。ガラスの破損や備品の損傷等、自然災害時の被害状況を写真で記録することを提案しています。
主催者のLINE WORKSは、自社サービスについて、以下のような活用方法を紹介しました。 ・共有事項を電話や口頭だけでなくトーク機能を活用して確実に共有する ・未読既読を個人単位で確認でき、連絡事項の通達状況の把握が可能 ・グループトーク機能を活用した緊急時の連絡網の作成が可能 ・安否確認や出勤の可否等をアンケート機能でひと目で把握
さらに、こうしたチャットツールの機能を、浸透率が非常に高いLINEと同じ使い勝手で誰でもすぐに使い始められる点使える点を同社製品ならではのメリットとして紹介しました。
LINE WORKSサービスに限らず、ICTの活用を想定したBCPの策定は介護現場において有用性が高いものと考えられます。したがって、計画書の策定だけでなく、研修や訓練(シミュレーション)の実施時に活用し、利用方法の定着や有事の際のスムーズな活用につなげることが重要です。
理学療法士として回復期病院、リハ特化デイ施設長、訪問リハを経験後フリーライターとして独立。医療福祉、在宅起業、取材記事が得意。正確かつ丁寧な情報を発信します。