介護現場のカスハラ裁判例解説!家族からの罵詈雑言で契約を解除できる?解除後の施設利用料2倍は有効?

2023.01.23
2023.03.30
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目次
    1.老人ホームにおけるカスタマ―ハラスメント裁判例の紹介
      2.争点①被告の母との間の老人ホーム利用契約解除の有効性
      3.争点②:利用契約解除後に施設利用料を2倍とする合意の有効性
        4.本裁判例のポイントと実務上の留意点
          5.最後に:介護現場の法務を向上する書籍のご紹介

            1.老人ホームにおけるカスタマ―ハラスメント裁判例の紹介

            今回は、老人ホームで発生した利用者の家族が加害者となったカスタマーハラスメント裁判例(東京地判R3.7.8(平31(ワ)1474号))について解説します。

            この事案では、大きくは

            1.カスハラ加害者(被告)の母と結んでいる老人ホームの利用契約解除が有効であるかどうか
            2.利用契約解除後に施設利用料を2倍とする合意が有効であるかどうか

            の2つが争点となりました。

            ①については、カスハラの事実があるかどうかが重要なポイントになります。

            ②について、入居系サービスの場合は、仮にカスタマーハラスメントを理由に入居契約を解除したとしても、実際に利用者が部屋を明け渡してくれなければ問題は解決しません。そこで、契約解除後に少しでもスムーズに居室を明け渡してもらうために、契約解除後の施設利用料を通常よりも高額に設定する場合があります。この裁判例では、契約解除後の施設利用料を2倍とする合意がされており、この有効性が争われました。

            いずれも、近年深刻化している介護現場でのカスタマーハラスメント対応に関して、非常に参考となる判断がされています。

            以下、順に見ていきましょう。

            なお、「原告」は老人ホームの運営会社です。「被告」は利用者の子であり、カスハラの加害者です。

            2.争点①被告の母との間の老人ホーム利用契約解除の有効性

            ア 被告の言動

            本件では、利用者である被告の母は認知症であり、意思能力がない状態であって、有料老人ホームの利用状況には、特段の問題はありませんでした。

            しかしながら、被告は、原告の職員に対して、以下のような言動を繰り返していました。

            ・原告の看護職員に、「馬鹿野郎」 「お前なんかやめちまえ」 「○○なのに、何の提案もできないナースは辞めろ、いる意味がない」「あんなのクビだろ」「俺が指示しなきゃなんの提案もできない施設か」「医師の指示、医師の指示って、何もしねえ○○かよ」「夜間ほぼほぼ何もやってねえよ」「何が忙しいだよ、ほんと酷い施設だな」などといった暴言、及び 「刑事裁判を起こす」 「裁判の勝ち負けが問題ではなく、訴えを起こすことが大切」 「看護職員から免許を奪う方法はあるのか」 「ここを出ていく時はスタッフを個人名で訴える」といった脅迫。

            ・ホーム長を「エンドウ豆、チビ」 その他の職員を「デブ」や「ハゲ」などと、人格否定や侮辱等の意味合いを持つ呼び方をしていた。

            ・被告の母の経管栄養の滴下速度を被告の考えで変更することや、原告の職員に対し、立位を伴う排せつ介助を強要すること、主治医による臨時往診、定期往診をキャンセルすることなどを止めるように強く求めていた。

            イ 原告の対応

            被告のこのような言動に対し、原告のホーム長は、被告の言動を記録した上で、被告の言動を具体的に指摘の上、言動の改善を求める旨の書面を9回以上に渡って送付しました。

            しかしながら、被告の言動が改善されることはなかったため、原告は、被告の母と原告との間の利用契約を即時解除しました(利用契約の内容については、後ろで紹介します)。

            もっとも、被告はこれに対して、利用契約の解除の効力を争い、被告の母の退去を拒み続けました。その後、被告の母が入院のため原告の施設を退去したため、これにより、事実上被告の母の退去が完了しました。

            ウ 裁判所の判断

            被告は、本件に関し、アの言動を行ったことを否定していました。

            しかしながら、裁判所は、原告が履践したイのプロセスから、被告による、これらの行為を全て認定しました。

            具体的には、原告のホーム長の記録は、原告の職員に対する被告の言動等を詳細に記録しており、その記載内容や体裁から、少なくともその大半は、記載された出来事の都度、記録されたものであると判断されました。

            さらに、原告から被告に対して送付した9回の書面についても、もし、被告による暴言、脅迫が実際になかったのであれば、あえて原告の職員らが被告による言動を創作して、被告に対して被告の言動の改善を繰り返し求める理由も必要性がないことから、その信用性が認められました。

            被告による言動が認定されたことにより、本件の即時解約は有効であると認定されました。

            3.争点②:利用契約解除後に施設利用料を2倍とする合意の有効性

            原告の利用契約では、原告側から解除をした場合には、本件契約が終了した日の翌日から本件居室の明渡日までの施設利用料として、本件契約継続中の施設利用料の2倍を支払う旨の規定がありました。

            被告は、この規定が消費者契約法10条1項に反して、消費者の利益を一方的に害するものであるとして無効だと主張していました。しかし、裁判所は、この規定の趣旨を、本件契約が終了しているにもかかわらず、利用者が当該契約の目的である居室を明け渡さないためにその使用収益を行えない場合に適用が予定されている条項であって、本件契約終了後における居室の円滑な明渡しを促進し、また、明渡しの遅延によって原告に発生する損害を一定の限度で補填する機能を有するものとし、その賠償予定額は、これらの目的に照らして均衡を失するほどに高額なものではないため、消費者契約法10条1項には反しない旨判断しました。

            以上により、利用契約解除後に施設利用料を2倍とする合意も有効となりました。

            4.本裁判例のポイントと実務上の留意点

            本件では、特に争点①について、カスタマーハラスメントへの対策として非常に参考になるポイントがあります。

            残り2165文字
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