新型コロナウイルス感染症が原因で82歳で亡くなった広島県三次市の女性の遺族が、同市の訪問介護事業所の運営会社に計4400万円の損害賠償を求めて広島地裁に提訴したというニュースが10月初旬、日本全国を駆け巡りました(なお、当該訴訟は、令和2年10月12日に和解が成立し、審理開始前に取り下げられています)。
訴状などによると、三次市で一人暮らしをしていた女性は、令和2年4月3日(以下日付は全て令和2年とします。)に新型コロナウイルス感染症を発症し、PCR検査の結果、9日に陽性と判明。その後、広島市内の病院に入院し、19日に新型コロナウイルスによる肺炎のために死亡しました。
何故遺族は、運営会社を訴えたのでしょうか。
報道によると、以下のような経緯があったようです。
① 3月23日、27日、30日
担当ヘルパーが女性宅を訪問して、介護サービスを提供。
② 3月31日
担当ヘルパーが発熱と味覚・嗅覚異常を発症。但し翌日には一旦症状が改善。
③ 4月1日
担当ヘルパーの親族に感染が疑われる症状が確認される。
④ 4月2日、4月6日
⑤ 4月10日
担当ヘルパーの新型コロナウイルス陽性とが判明。
これらの事実経過を踏まえ、遺族は「運営会社はヘルパーやその周辺の人に感染の兆候がある場合は報告を求め、出勤させない義務があるのに怠った。ヘルパーを交代させていれば母の命は奪われなかった。運営会社は責任を認めて謝罪してほしい」と主張したのです。
このニュースを見て「いよいよ恐れていたことが現実になった。」と戦々恐々としている介護事業者が大勢いらっしゃるのではないでしょうか。
そこで、今回は、介護事業者が利用者や遺族に対して損害賠償責任を負う場合の法的な理論の整理を行った上で、新型コロナウイルス対応で介護事業所に求められることについて、筆者の見解を述べたいと思います。
損害賠償責任が認められるためには、(1)介護事業者に安全配慮義務違反があること(2)その安全配慮義務違反と結果(コロナウイルス感染・死亡等)との間に因果関係があること(3)損害が発生していることの3つを満たさなければなりません。今回のように新型コロナウイルス感染という介護事故で特に問題となるのは、(1)安全配慮義務違反の有無と(2)因果関係です。
弁護士法人かなめ代表弁護士。29歳で法律事務所を設立。 現在、大阪、東京、福岡に事務所を構える。顧問サービス『かなめねっと』は27都道府県に普及中。 介護特化型弁護士。特化している分野は、介護事業所に対するリーガルサポート、労働トラブル対応、介護行政対応、介護経営者支援。 無料で誰も学べる環境を作るためYouTubeチャンネル『弁護士畑山浩俊の介護リーガルchannel』を運営中。 https://www.youtube.com/channel/UCpj-I5JN_ALi-5deMSiOj0g テキストで学びたい人向けに法律メディアサイト『かなめ介護研究会』も運営中。 https://kaname-law.com/care-media/