介護分野の人的制約が強まる中、専門人材が利用者のケアに集中し、ケアの質を確保するために、介護現場の業務効率化は急務で、その一つとして文書に係る負担軽減が求められています。
同時に、自治体においても、限られた人員の中で指定権者や保険者としての役割を適切に果たすためには、職員の負担軽減が重要です。
こうした状況を踏まえ、厚生労働省は「介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会」を設置し、2019年8月から11月にかけて議論。12月の中間とりまとめで、指定申請・報酬請求・指導監査の関連文書について、簡素化・標準化・ICTの活用を進めることとなりました。
2020年7月に閣議決定された規制改革実施計画では、介護サービスの生産性向上、介護事業者の行政対応・間接業務に係る負担軽減として、「署名・捺印で行われている介護利用者のケアプランへの同意については、原本性を担保しつつ、電子署名などの手段による代替を可能とすることも含めて、介護支援専門員の業務負担軽減について検討する」こと、「電磁的記録による保存が可能な文書及びサービス提供等の記録の保存期間に係る定義を明確化し、周知を徹底する」ことが示されています。
9月30日の介護給付費分科会の議論では、下記に関する議論がありました。
健康保険組合連合会の河本滋史氏は利用者に対する説明あるいは同意の取得が確実に行われることを前提としたうえで「負担軽減の観点から効率化や簡素化を進めるべき」と提言。
対して日本労働組合総連合会の伊藤彰久氏は「不正請求の防止の観点からも、何かしらの『同意』の確認は必要。署名と押印の両方いるという訳ではないが、同意周知の徹底も疎かにならないようにする必要がある」と指摘しました。
提出文書に関しても、事業所の更新申請や介護給付費算定体制届等について、「紙媒体での提出ではなくオンラインによる届出が可能とならないか」との意見があがりました(全国老人福祉施設協議会の小泉立志氏より)。
また、各種記録の保管に関しては、各自治体ごとに省令の解釈が異なるローカルルールが適応されているのが現状です。
この点について、負担軽減の観点から電子保管の是非に関する意見が聞かれました。2~5年間となっている現在の文書保管について判断の統一化を求める声とともに、紙媒体の原本を電子化した場合の取扱い、特に同意署名付きの紙媒体の廃棄の可否を明確にする必要があるとの指摘もあがっています。
文書負担の軽減は、現場レベルの負担感を大きく左右する課題です。作成書類のオンライン化や電子書類の管理、同意をオンライン上で完結することなど、今後さらに議論が進んでいきます。
政府の決定や「介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会」における議論や意見等も踏まえ、文書負担の軽減や手続きの効率化を一層推進していくため、サービスごと及びサービス横断的に議論が進み、介護現場にとってより良い変更につながることが期待されます。
引用:第186回社保審・介護給付費分科会「令和3年度介護報酬改定に向けて(介護人材の確保・介護現場の革新)」より
※本記事は「介護マスト」から移行しており、記事は2020年10月2日掲載のものです。
理学療法士として回復期病院、リハ特化デイ施設長、訪問リハを経験後フリーライターとして独立。医療福祉、在宅起業、取材記事が得意。正確かつ丁寧な情報を発信します。