オーナー経営者のための介護事業承継の基本知識

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トリプルグッド税理士法人と申します。税理士、社会保険労務士、司法書士、行政書士、弁護士、ITコンサルタントなど、さまざまな専門家が連携し、グループで中小企業の経営支援を行っております。
近年は、経営者の平均年齢は60歳を超え、介護事業でも事業承継や相続に関するお悩みが増加傾向にあります。
事業をスムーズに引き継ぐためには何をすればよいのか?
いつ頃から対策を始めればよいのか?
本連載では、このようなお悩みに対して、ヒントとなる情報をお届けしてまいります。
今回は、事象承継の準備、事業承継の方法、事業承継にかかる税金まで解説いたします。

事業承継とは

まず、事業承継とは、現経営者が引退して事業を後継者などに引き継ぐことをいいます。

引退後、残された役員・従業員様とそのご家族の生活を守るため、また、その会社の顧客に継続して価値を提供するために適切に準備を行い、経営を引き継ぐことが大切です。

事業承継の4つの方法

事業承継には、親族承継、親族外承継(MBO)、M&A、廃業の大きく4つの方法があります。

1.親族承継

親族内承継とは、経営者家族の中から後継者を選ぶ事業承継の方法です。
親族がいて、事業を引き継ぐ意思や能力がある場合には、時間をかけて承継者を育成することができます。

2.親族外承継(MBO)

役員や従業員など、親族以外に引き継げそうな方がいる場合には、MBOを実施します。 この場合は、事前に承継者に事業を引き継ぐ意思について確認することと共に、株式買取資金などの面での対策や準備も大切になってきます。

3.M&A

他の会社や経営者に会社を売却することで、事業承継を行う方法です。

M&Aの手法

M&Aでは、主に4つの手法が用いられます。

株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割がありますが、その中でも多く活用されている株式譲渡と事業譲渡について解説します。

・株式譲渡

株式譲渡とは、売手から買手に対して、自社株式を売却する形で経営権を移譲する方法です。
株式譲渡の最大のメリットは、他の手法と比べて手続きが簡易である点です。
中小企業の場合、売手と買手の双方の合意のみでM&Aが実行できます。
買取後、独立した運営が可能である点も株式譲渡のメリットです。
その一方でデメリットには、買手が売手から簿外債務や不必要な事業・資産を引き継ぐリスクがある点があります。
また、場合によっては、訴訟などで多額の損失を被る恐れがあります。

・事情譲渡

事業譲渡とは、売手が持つ事業の一部またはすべてを買手が受継ぐ方法です。
事業譲渡では、承継する事業に関する資産や負債、権利の移転に際して一つ一つ契約を締結することで譲渡を行います。
したがって、買手にとっては引き継ぎたい資産のみを選んで買収できるため、簿外債務や不要な資産を引き継がずに済む点が大きなメリットとなります。
売手は、不採算事業を売却し、その売却資金を事業に投入し「選択と集中」の実現が可能となります。
一方で、一つ一つの資産や権利ごとに契約を締結する必要があり、手続きが煩雑になる点がデメリットです。

4.廃業

廃業にはネガティブな印象があるかもしれませんが、きちんと状況を把握、整理することで円満に収束できるケースも多くあります。

取引先との関係や解散時期、事業終了後の生活資金など、計画的に余力があるうちに始めておきましょう。

事業承継までに行うべきこと

事業承継のためには、後継者育成や自社株の整理、M&Aの場合には企業価値を高める、さらに、引退後の生活資金の確保など事業承継の前にしておくべきことは多岐にわたります。その一例をご紹介します。

・後継者教育

親族内や従業員など引き継ぐ人がいる場合には、次期社長として経営等における教育が必要となります。

・自社株の譲渡

過去の純資産が積みあがっている場合、一株あたりの価値が大きくなりすぎてしまい後継者の負担となってしまいます。

そのため、ある程度内部留保を減らすなどして、期間をかけて少しずつ移行していきましょう。

・事業用財産の整理

現経営者と会社との間で、お金の貸し借りが発生しており、清算が済んでいない場合には、清算をしておきましょう。

・取締役・監査役・機関設計の整理

不必要に取締役会や監査役会が設置されているケースがあります。
こちらも、事業承継を機に整理しておいたほうが良いでしょう。

・役員退職金計画

引退後の余生の生活資金を確保するために、退職金の準備が重要になります。

役員退職金は無制限に出せるものでなく、限度額がありますので、その範囲において、 役員退職金を検討する必要があります。
生命保険などを活用して資金の準備を行っておきましょう。

・相続税の対策

事業承継にかかる税金のうち、最も高額になるのが、相続税です。

最高税率は最高55%となり、財産の半分以上が税金でなくなってしまいます。
個々人の寿命は事前に分かりませんが、元気な内に準備をしておくことが重要です。

準備をしていないと、多額の税金がかかるだけでなく、後々ご遺族間でのトラブルを惹き起こす場合がありますので、早めの対策が必要です。
具体的には、大きく3つの観点から対策を行いましょう。

(1)遺産分割対策

遺産分割は、相続税がかかるかどうかに関わらず必要な対策です。
特に、高齢化している相続人に体力的な負担がかかることや、財産の中に不動産が含まれる場合、孫が代理で対応する場合などは長引きやすいとも言われています。
そのため、あらかじめどの資産を誰に相続するのか遺言などで決めておいた方が良いでしょう。

(2)相続税節税対策

早めに相続税のシミュレーションを行い、できるだけ長い期間をかけて事前の対策を講じる必要があります。
毎年少しずつ贈与を進める暦年贈与をはじめ、贈与の特例である「結婚・子育て資金贈与の非課税措置」、「教育資金一括贈与の特例」、生命保険や不動産の活用、養子縁組など活用して、早めに準備を始めましょう。

(3)納税資金対策

(1)や(2)で対策を行っても、実際に相続税を支払う資金が無ければ納税の際にスムーズに対応出来ません。
納付期限までに相続税を納めなかった場合には、延滞税がかかります。
相続税の納付期限は申告期限と同じで、相続開始(死亡日)から10カ月後となっています。
そのため、相続税の対象者は納税資金を確保するためにも、生命保険や生前贈与などで予め対策をしておく必要があります。

事業承継の準備には10年以上必要、必要な対応知り早めのプラン立案を

「事業承継」とは、単にご家族に引き継ぐだけではなく、社員に引き継いだり外部に売却したりなど、さまざまな選択肢があることがお分かりいただけたのではないでしょうか。
会社の価値を高めたり、会社と役員個人の資産や負債を整理したりするためには、10年以上の期間をかけて準備を行う必要があります。

何から始めればよいか分からないために、ずるずると先延ばしにしてしまいがちですが、何の対策もしていなければ残されたご家族や従業員、取引先はどうなるでしょうか。

また、長生きしても介護生活を余儀なくされたり、病気にかかったりするリスクが年齢とともに高まるため、健康なうちに先々のプランを考え、早めに準備をしておく必要があります。

相続においても、事前に計画・準備をしていれば円満に資産を引き継けるなど、不必要に税金を支払うことはありません。

しかし何も対策をしていないと、適切な分配が出来ないリスクが高まってしまいます。

事業承継をしっかり行うためには、現在の状況をふまえてできることから対策を進めていきましょう。

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