介護事業の経営環境、施設中心に「非常に厳しい」―令和5年度介護事業経営実態調査の結果受け厚労省

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2022年度の介護事業者の決算数値を受け、厚生労働省は「非常に厳しい状況」との受け止めを示しました。介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)を初め、入所施設が赤字に転じたことなどを踏まえたものです。

こちらのページでは令和5年度介護事業経営実態調査の結果などを参考に、主要サービスの利益率・人件費率の直近3年間の推移や今回新たに調査の対象となった派遣委託費・人材紹介手数料の状況についてまとめています。

入所系サービスが初めて赤字の一方、訪問系サービスの収支差率は5%以上に

調査は介護報酬改定を検討するための基礎データを得るために行われるもので、全国の3万3,177施設・事業所を対象に5月に実施されました。回答率は48.3%、回答数は1万6,008施設・事業所です。

これによると、収支差率(利益率)は全サービス平均でプラス2.4%でした(前年度比0.4ポイント減)。サービス別では、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)のマイナス1.0%(同2.2ポイント減)など、施設系サービスは初めて赤字に転落しました。一方で、訪問系サービスの収支差率は訪問介護が7.8%(プラス2.0ポイント)、訪問看護5.9%(マイナス1.3ポイント)訪問リハビリテーションが9.1%(プラス9.5%)と相対的に高くなっています。また、居宅介護支援は4.9%(3.0ポイント増)でした。

以下に、比較的施設・事業所数の多いサービスの直近3年間の収支差率をまとめます。

(【表】令和5年度介護事業経営実態調査結果の概要(案)及び令和4年度同調査結果の概要の税引前収支差より。補助金は含まない。事業所数は令和3年介護サービス施設・事業所調査より)

人件費率は施設サービスや地域密着型通所・訪問看護で上昇続く

次に各サービスの収入に対する給与費の割合(人件費率)についてです。

こちらも、事業所数の多いサービスについて状況をまとめます。それぞれのサービスの数値は介護事業経営実態調査(案)をご確認ください。

全22サービスのうち給与費割合が増加したのは12サービスで、増加幅が最も大きかったのは介護医療院のプラス2.3ポイントでした。施設サービスや訪問看護、地域密着型通所介護は人件費率の上昇が続いています。一方、居宅介護支援事業所では人件費率の減少が続いています。

人件費率が7割以上のサービス

2020年度 2021年度 2022年度 対前年度
訪問介護 72.9% 73.3% 72.2% -1.1pt
訪問看護 72.3% 73.9% 74.6% +0.7pt
訪問リハビリテーション 72.2% 72.1% 73.8% +1.7pt
居宅介護支援 80.1% 78.3% 76.9% -1.1pt
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 78.4% 78.5% 73.4% -5.1pt

人件費率の上昇幅が大きいサービス

2020年度 2021年度 2022年度 対前年度
介護医療院 58.9% 59.8% 62.1% +2.3pt
介護老人保健施設 61.8% 62.2% 64.2% +2.0pt
訪問リハビリテーション(再掲) 72.2% 72.1% 73.8% +1.7pt
地域密着型通所介護 62.4% 62.9% 64.1% +1.2pt
介護老人福祉施設 64.1% 64.3% 65.2% +0.9pt

人材紹介手数料はグループホームで高く給与費の約5%

今回の介護事業経営実態調査では、給付費分科会委員の要望を受けてサービスごとの派遣委託費や人材紹介手数料についても集計されています。

概要は以下の通りです。

  • 派遣委託費は、ほとんどのサービスで収入・支出の1%前後だが訪問入浴介護や特定施設入居者生活介護で比較的割合が大きい。
  • 人材紹介手数料は、ほとんどのサービスで収入及び支出の1%以下。認知症対応型通所介護で収入及び支出の4%程度と高く、給与費の5.4%。

    訪問介護や通所介護の利益率上昇も「経営改善への影響は限定的」

    介護事業者の経営環境については、厚労省も危機感を表明しています。

    武見敬三厚生労働相は、調査の速報値が公表された直後の11月14日の定例記者会見で「入所施設を中心に非常に厳しい経営状態が明らかになった」などと述べ、当面の対応として補正予算に物価高騰対策や介護職員等の処遇改善など支援策を盛り込んでいること、同時改定に向けた議論も、こうした課題を念頭に進めていくこととしています。


    また、このデータを社会保障審議会・介護給付費分科会に報告した老健局の古元重和老人保健課長も、介護老人福祉施設や介護老人保健施設について「制度施行後初めて、マイナスの平均収支差率となっており、非常に厳しい状況」と認識を示しました。収支差率が改善した訪問介護や通所介護など居宅サービスについても「実質的には経営改善への影響は限定的」との見方を表明しています。

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