2021年度介護報酬改定に向けて、全22回に渡り議論されてきた介護給付費分科会。その審議報告が、2020年12月23日に厚労省のホームページで公表されました。本記事では【介護老人福祉施設】に関する「令和3年度介護報酬改定に関する審議報告」の内容について、加算や報酬に関わる詳細部分をまとめて整理していきます。
令和3年度介護報酬改定に関する審議報告(厚労省ホームページ)
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2020年度に実施された介護ロボット導入支援及び導入効果実証研究の結果等から、見守りセンサーやインカム等のICTを活用することで、夜勤職員の業務効率かや睡眠の質の維持等に一定の効果があるとされています。
これらの結果等を踏まえ、テクノロジーの活用により介護サービスの質の向上、業務効率化及び職員の負担軽減を推進していく観点から、以下の見直しが行われます。
<夜勤職員配置加算の要件緩和>
①見守り機器を導入した場合の夜勤職員配置加算(夜勤を行う介護職員又は看護職員の数が「最低基準を0.9以上上回っている場合」)について、見守りセンサーの入所者に占める導入割合の基準を15%から10%に緩和する。
②見守り機器を導入した場合の夜勤職員配置加算について、全ての入所者について見守りセンサーを導入し、夜勤職員全員がインカム等のICTを使用するとともに、職員の負担軽減や職員毎の効率化のばらつきに配慮し、安全体制やケアの質の確保、職員の負担軽減を要件として、「最低基準を0.6以上を上回っている場合(※人員基準の緩和が適応される場合は0.8以上)」に算定できる新たな区分を設ける。
<見守り機器を導入した場合の夜間の人員配置基準緩和>
全ての入所者について見守りセンサーを導入し、夜勤職員全員がインカム等のICT を使用するとともに、職員の負担軽減や職員毎の効率化のばらつきに配慮し、委員会の設置や職員に対する十分な休憩時間の確保等を含めた安全体制等の確保を行っていることを要件として、夜間の配置基準が緩和されます。介護老人福祉施設(従来型)の、利用定員26人以上の場合が対象です。
見守り機器を導入した場合の夜勤職員配置加算、および夜間における人員配置基準の緩和に関する申請にあたっては、以下の項目が具体的要件となります。
ⅰ 利用者の安全やケアの質の確保、職員の負担を軽減するための委員会の設置
ⅱ 職員に対する十分な休憩時間の確保等の勤務・雇用条件への配慮
ⅲ 緊急時の体制整備(近隣在住職員を中心とした緊急参集要員の確保等)※人員基準の緩和申請のみ
ⅳ 機器の不具合の定期チェックの実施(メーカーとの連携を含む)
ⅴ 職員に対するテクノロジー活用に関する教育の実施
ⅵ 夜間の訪室が必要な利用者に対する訪室の個別実施
また、テクノロジー導入後、これらを少なくとも3か月以上試行し、現場職員の意見が適切に反映できるよう、夜勤職員や実際にケア等を行う多職種の職員が参画するⅰの委員会において、安全体制やケアの質の確保、職員の負担軽減が図られていることを確認した上で届け出ることが求められます。
中重度者や看取りへの対応の充実を図ることを目的として、看取り介護加算について以下の見直しが行われます。
①看取り期における本人・家族との十分な話し合いや他の関係者との連携を一層充実させる観点から、要件において、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」等の内容に沿った取組を行うことを求める。
②要件における看取りに関する協議等の参加者として、生活相談員を明記する。
③算定日数期間を超えて看取りに係るケアを行っている実態があることを踏まえ、現行の死亡日以前30日前からの算定に加えて、それ以前の一定期間の対応について、新たに評価する区分を設ける。
また、サービスの提供にあたって、「本人の意思を尊重した医療・ケアの方針決定に対する支援に努めることを求める」という文言が明確化されました。
個室ユニット型施設について、ケアの質を維持しつつ、人材確保や職員定着を目指し、ユニットケアを推進する観点から、以下3点の見直しが実施されます。
①1ユニットの定員を、現行の「おおむね10人以下」から「原則としておおむね10人以下とし、15人を超えないもの」とする。
➁ユニットリーダーについて、原則常勤を維持しつつ、仕事と育児や介護との両立が可能となる環境整備を進め、離職防止・定着促進を図る観点から、人員配置基準や報酬算定について、両立支援への配慮に係る見直しを行う。
③ユニット型個室的多床室について、感染症やプライバシーに配慮し、個室化を進める観点から、新たに設置することを禁止する。
上記➁の人員配置基準における「両立支援への配慮」に関して、以下の4点の見直しが行われます。
・「常勤」の計算に当たり、職員が育児・介護休業法による育児の短時間勤務制度を利用する場合に加えて、介護の短時間勤務制度等を利用する場合にも、週30時間以上の勤務で「常勤」として扱う。
・「常勤換算方法」の計算に当たり、職員が育児・介護休業法による短時間勤務制度等を利用する場合、週30時間以上の勤務で常勤換算での計算上も1(常勤)と扱う。
・人員配置基準や報酬算定において「常勤」での配置が求められる職員が、産前産後休業や育児・介護休業等を取得した場合に、同等の資質を有する複数の非常勤職員を常勤換算することで、人員配置基準を満たす。
・上記の場合において、常勤職員の割合を要件とするサービス提供体制強化加算等の加算について、産前産後休業や育児・介護休業等を取得した当該職員についても常勤職員の割合に含める。
介護職員処遇改善加算、介護職員等特定処遇改善加算の算定要件の一つである「職場環境等要件」について、介護事業者による職場環境改善の取り組みをより実効性が高いものとする観点から、以下2点の見直しが行われます。
①職場環境等要件に定める取組について、職員の離職防止・定着促進を図る観点から、以下の取組がより促進されるように見直しを行う。
・ 職員の新規採用や定着促進に資する取組
・ 職員のキャリアアップに資する取組
・ 両立支援・多様な働き方の推進に資する取組
・ 腰痛を含む業務に関する心身の不調に対応する取組
・ 生産性の向上につながる取組
・ 仕事へのやりがい・働きがいの醸成や職場のコミュニケーションの円滑化等、
職員の勤務継続に資する取組
②職場環境等要件に基づく取組の実施について、過去ではなく、当該年度における取組の実施を求める。
また、介護職員処遇改善加算(Ⅳ)及び(Ⅴ)については、上位区分の算定が進んでいることを踏まえて廃止へ。その際に、2021年3月末時点で同加算を算定している介護サービス事業所については、1年の経過措置期間が設けられます。
事務局からは、「介護職員処遇改善加算取得促進事業」において、上位区分への引き上げを強力に進める予定です。
スキル・経験のある職員の処遇改善を目的とした介護職員等特定処遇改善加算について、「リーダー級の介護職員について他産業と遜色ない賃金水準の実現を図りながら、介護職員の更なる処遇改善を行う」といった趣旨は維持した上で、小規模事業者を含め事業者がより活用しやすい仕組みとする観点から、以下の見直しが行われます。
・平均の賃金改善額の配分ルールについて、「その他の職種」は「その他の介護職員」の「2分の1を上回らないこと」とするルールは維持した上で、「経験・技能のある介護職員」は「その他の介護職員」の「2倍以上とすること」とするルールについて、「より高くすること」とする。
つまり、「2倍以上」という制限がなくなり、より柔軟な配分が可能となります。
認知症専門ケア加算について、各介護サービスにおける認知症対応力を向上させていく観点から、下記の見直しが行われます。
・認知症専門ケア加算の算定の要件の一つである、認知症ケアに関する専門研修を修了した者の配置について、認知症ケアに関する専門性の高い看護師(認知症看護認定看護師、老人看護専門看護師、精神看護専門看護師及び精神科認定看護師)を、加算の配置要件の対象に加える。
なお、上記の専門研修について、質を確保しつつ、eラーニングの活用等により受講しやすい環境整備を行うことも、審議報告案に盛り込まれています。
サービス提供体制強化加算について、サービスの質の向上や職員のキャリアアップを一層推進する観点から、各サービスにおいて、財政中立を念頭とした見直しが実施されます。以下には「介護老人福祉施設」に関わる記載のみを抜粋しています。
①介護福祉士割合や介護職員等の勤続年数が上昇・延伸していることを踏まえ、各サービス(訪問看護及び訪問リハビリテーションを除く)について、より介護福祉士の割合が高い、又は勤続年数が10年以上の介護福祉士の割合が一定以上の事業者を評価する新たな区分を設ける。
②上記に際し、同加算が質の高い介護サービスの提供を目指すものであることを踏まえ、当該区分の算定に当たり、サービスの質の向上につながる取組の一つ以上の実施を求めることとする。
③勤続年数要件について、より長い勤続年数の設定に見直すとともに、介護福祉士割合要件の下位区分、常勤職員割合要件による区分、勤続年数要件による区分を統合し、いずれかを満たすことを求める新たな区分を設定する。
入所者の状態に応じた丁寧な口腔衛生管理を充実させることを目的として、全施設系サービスにおいて口腔衛生管理体制を確保する観点から、現行の「口腔衛生管理体制加算」を廃止し、算定要件を一定程度緩和したうえで、基本サービスとして組み込まれます。
これに伴い、施設系サービスには口腔衛生管理体制を整備し、入所者ごとの状態に応じた口腔衛生の管理を行うことが求められます(経過措置期間は3年)。
また、口腔衛生管理加算について、CHASEへのデータ提出とフィードバックの活用による更なるPDCAサイクルの推進・ケアの向上を図ることを評価する新たな区分が設けられます。
介護保険施設における栄養ケア・マネジメントの取り組みを一層強化する観点から、「栄養マネジメント加算」「低栄養リスク改善加算」「経口維持加算」に関して、以下の見直しが行われます。
<栄養マネジメント加算>
①施設系サービスにおける栄養マネジメント加算を廃止し、栄養ケア・マネジメントを基本サービスとして行うこととする。このため、現行の栄養士に加えて、管理栄養士の配置を位置付ける(栄養士または管理栄養士の配置を求める)とともに、入所者ごとの状態に応じた栄養管理を計画的に行うことを求める。
②栄養ケア・マネジメントが実施されていない場合は、基本報酬を減算する。その際、3年の経過措置期間を設けることとする。
<低栄養リスク改善加算>
①低栄養リスクが高い者のみを対象とする低栄養リスク改善加算について、入所者全員への丁寧な栄養ケアの実施や栄養ケアに係る体制の充実を評価する加算に見直す。
②その際、CHASEのデータ提出とフィードバックの活用による更なるPDCAサイクルの推進・ケアの向上を図ることが要件の一つとなる。
③管理栄養士の配置について、栄養ケア・マネジメントの質を確保しつつ、管理栄養士が柔軟な働き方ができるようにする観点から、常勤換算方式による確保を求めることとする。
④褥瘡管理に関する取組を進める観点から、同加算と褥瘡マネジメント加算との併算定を可能とする。
<経口維持加算>
継続的な経口維持に関する取組を進める観点から、原則6月とする算定期間の要件を廃止する。
褥瘡マネジメント加算について、以下3点の見直しが行われます。
➀計画の見直しを含めた施設の継続的な取組を評価する観点から、3月に1回を上限とする算定について、毎月の算定を可能とする。
➁現行の褥瘡管理の取組(プロセス)への評価に加え、褥瘡の発生予防や状態改善等(アウトカム)について評価を行う新たな区分を設ける。その際、褥瘡の定義や評価指標について、統一的に評価することが可能なものを用いる。
➂CHASEへのデータ提出とフィードバックの活用によるPDCAサイクルの推進・ケアの向上を図ることを求める。
排せつ支援加算について、以下4点のの見直しが行われます。
➀全ての入所者に対して定期的な評価(スクリーニング)の実施を求め、事業所全体の取組として評価する。
➁現行、6か月間に限って算定可能とされているところを、6か月以降も継続して算定可能とする。
➂入所者全員に対する排せつ支援の取組(プロセス)への評価に加え、排せつ状態の改善(アウトカム)について評価を行う新区分を設ける。その際、定義や指標について、統一的に評価することが可能なものを用いる。
➃CHASEへのデータ提出とフィードバックの活用によるPDCAサイクルの推進・ケアの向上を図ることを求める。
個別機能訓練加算について、より利用者の自立支援等に資する個別機能訓練の提供を促進する観点から、CHASEへのデータ提出とフィードバックの活用による更なるPDCAサイクルの推進・ケアの向上を図ることを評価する新たな区分を創設します。
新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、介護事業でのICTの活用も審議報告案に含められています。生活機能向上連携加算もこれに該当しており、算定率が低い状況を踏まえたうえで、その目的である外部のリハビリテーション専門職等との連携による自立支援・重度化防止に資する介護の推進を図る観点から、以下2点の見直しが行われます。
①訪問介護等における同加算と同様に、ICTの活用等により、外部のリハビリテーション専門職等が当該サービス事業所を訪問せずに、利用者の状態を適切に把握し助言した場合について評価する区分を新たに設ける。
②外部のリハビリテーション専門職等の連携先を見つけやすくするため、生活機能向上連携加算の算定要件上連携先となり得る訪問・通所リハビリテーション事業所が任意で情報を公表するなどの取組を進める。
2018年の介護報酬改定で新設されたADL維持等加算について、自立支援・重度化防止に向けた取り組みを一層推進する観点から、以下3点の見直しが行われます。現行要件の課題や算定率の低さが論点となり、要件緩和を軸とした見直しになっています。
①クリームスキミングを防止する観点や、現状の同加算の取得状況や課題を踏まえ、算定要件について、以下の見直しを行う。
・初月と6月目のADL値の報告について、評価可能な者は原則全員報告を求める。
・リハビリテーションサービスを併用している者について、同加算取得事業者がリハビリ テーションサービス事業者と連携して機能訓練を実施している場合に限り、同加算に係 る計算式の対象とする。
・ 利用者の総数や要介護度、要介護等認定月に係る要件を緩和する。
・ADL利得が上位85%の者について、各々のADL利得を合計したものが0以上とする要件
について、初月のADL値に応じて調整式で得られた利用者の調整済ADL利得が一定の値以 上とする。
・CHASEへのデータ提出とフィードバックの活用によるPDCAサイクルの推進・ケアの向 上を図ることを求める。
※クリームスキミング…規制緩和によって参入する新規事業者が、収益性の高い分野のみにサービスを集中させ「いいとこ取り」すること
②より自立支援等に効果的な取組を行い、利用者のADLを良好に維持・改善する事業者を高く評価する新たな区分を設ける。
③通所介護に加えて、機能訓練等に従事する者を十分に配置し、ADLの維持等を目的とする、介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護を同加算の対象とする。
介護保険施設における食費の基準費用額について、現行では利用者負担第1~第3段階の方を対象に、所得に応じた負担限度額を設定し、基準費用額との差額を「特定入所者介護サービス費」として介護保険から給付する仕組みを採用しています。一方で、食材料費や人件費の高騰など、実態のコストが反映されていないことが問題視されていました。
これを受け、2020年度介護事業経営実態調査結果から算出した介護保険施設の食費の平均的な費用の額との差の状況を踏まえ、利用者負担への影響も勘案しつつ、必要な対応が行われます。
介護保険施設における事故発生の防止と発生時の適切な対応を推進する観点から、以下4点の見直しが行われます。
➀市町村によって事故報告の基準が様々であることを踏まえ、将来的な事故報告の標準化による情報蓄積と有効活用等の検討に資する観点から、国において報告様式を作成し周知する。
➁安全対策を恒常的なものとする観点から、施設系サービスの事業者を対象に、事故発生の防止のための安全対策の担当者を定めておくことを義務づける。その際、6月の経過措置期間を設ける。
➂運営基準における事故発生の防止又はその再発防止のための措置(指針の作成、安全対策委員会の設置・開催、従業員研修の実施、安全対策の担当者の設置)が講じられていない場合は、基本報酬を減算する。その際、6月の経過措置期間を設けることとする。
➃安全対策をより一層強化する観点から、安全対策部門を設置するとともに、外部の安全対策に係る研修を受講した安全対策の担当者を配置し、組織的に安全対策を実施する体制が整備されていることを評価する新たな加算を設ける。
2020年12月18日の分科会にて年内の議論は終了。12月23日の「令和3年度介護報酬改定に関する審議報告」をもとに、年明けから諮問・答申へと進み、新加算の単位数や見直し後の単位数など、詳細が明らかになっていきます。
引用:第196回社保審・介護給付費分科会「介護人材の確保・介護現場の革新②」、第197回社保審・介護給付費分科会「審議報告案にかかる参考資料(令和2年12月18日)」より
理学療法士として回復期病院、リハ特化デイ施設長、訪問リハを経験後フリーライターとして独立。医療福祉、在宅起業、取材記事が得意。正確かつ丁寧な情報を発信します。